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六十二、ねたばらし

「どこからが貴方達の計画だったのですか?」

「お前が俺をソリス城から連れ出す計画を立てたところから全部、俺たちの計画の範囲内だ」


 クムザは顔を引きつらせた。そこからだとは思っていなかったのだろう。


「まず、噂をお前の周辺に流す。俺が犯人を突き止めそうだという噂。しかし、それを流した頃には、俺は犯人をお前だと特定していた」


 旅をしていたアーテルから聞いた情報。それは、トゥルバ国でクムザに似た人物を見た、という情報だ。トゥルバ国の貧困層に流す情報はクムザの計画の中で核となる部分で失敗はできない。だからこそ、クムザ自らが出向いたのだろう。それが、仇となった。アーテルに姿を見られてしまったのだから。


 ノクティス国の王女、アーテルの証言というのは大きい。しかし、犯人が他国の王女、しかもその国がソリス国となると、追い詰めるのには些か不十分だ。アーテルの証言以外は何もないのだから。


 テキューにやったように、剣を突きつけて脅してもよかったが、テキューのようにすぐに答えるかは分からない。失敗をし、本人から情報を抜き取れなかった場合、不利になるのはロジュだ。

だからこそ、罠が必要だった。本人の口で言わせる必要があった。


「そして、その噂を流せば、お前は焦るだろう。焦ると思考は短絡的になる。現に、お前は俺を誘拐して殺すという悪手をとった」


 クムザは、殺した後のことを考えていないようだった。ソリス国の王太子殺害。それは重罪であり、どんな処罰かは想像が難しくない。死刑は確実。とんでもない悪手。


 彼女を駆り立てたものは何だろうか。さっき言っていた「オーウェン」への愛だろうか。それにしても、今は死んだという人間に向けるにしては狂気的だ。その狂気の源は愛だ。恋や愛は人を狂わせるというけれど、それは嘘ではなかったみたいだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 ロジュはウィリデをチラリ、と見る。ロジュが人に恋愛の感情を抱くときには、ウィリデとアーテルの関係のように穏やかな関係を構築したいと思う。


 逸れた思考を戻す。クムザの方を見ると悔しげな表情を浮かべていた。


「お前はあのルクスを、ウィリアムという人物から買った、と言っていたな」

「ええ」

「ウィリアムなんて人物は存在しない。それは、ウィリデが以前から使っていた偽名だ」

「でも、ウィリデ・シルバニアは以前からルクス作りで有名でしたし、ウィリアムという人も有名でしたよね? 一体何のための偽名ですか?」


 ロジュの言葉にクムザは疑問を唱えたが、それに答えたのはウィリデであった。


「全て私の名前で出すと、私がどれくらいの量を作れるかが気づかれてしまうだろう?」


 アーテルと今回の生で出会う前のウィリデは、尋常ではないルクスを作っていた。それをウィリデの名前で全て販売すると、ウィリデが作るスピードがいかに速いかを悟られる。ウィリデ・シルバニアの価値を()()()()()しまう。自分の手の能力を人に見せびらかすことは時として悪い方に働く。

 しかし、折角作ったルクスを放置しておくのも勿体ないため、売るための策が、別の名で販売することだった。

 シルバ国が鎖国中も、ウィリアムの名前でこっそり流通させていた。


「そしてお前がウィリアムに依頼の手紙を送ったことで、多く立てた計画のうち、この計画に向かって進んでいると分かった」


 ウィリアムに依頼するか、どうかの確証はなかったが、金さえ積めば依頼通りのルクスを製作すると有名なのはウィリアムだ。その噂自体もウィリデが操作をしているが。

 クムザはそれに引っかかった。『ウィリアム』へ依頼したのだ。彼らの計画通り。期限をその日中にしてきたのは大分驚いたが。


「そして、ウィリデに作ってもらったルクスは、形は依頼通りの物だが、中の性能は全然違う物だ。治癒能力を入れて置けばなんとかなるだろう、と考えてな」


 依頼はそれを着けている人間が動けなくなる効果。しかし、ウィリデが作ったものは、治癒能力があるもの。これなら、毒を盛られても、剣で刺されてもロジュは助かる。


「一回しか効力がない、といえばお前は確認ができない。だから、効果を試すことなんてできない。それを逆手に取ったんだ」


 一回しか効力がないと作り手に言われれば、購入者はそれを信じるしかない。『ウィリアム』のルクス作りの腕の評判が高かったからこそ、性能を疑うことはなかった。


「居場所の特定は問題がない。シルバ国のフェリチタの力があれば解決だ」


 ウィリデのフェリチタにお願いし、鳥がロジュを追跡していた。『ウィリアム』にルクス作りの依頼がきてから、ウィリデは二匹の鳥にロジュを監視してもらっていた。一匹はウィリデに連絡をし、もう一匹はロジュを追跡する。だからこそ、ロジュは一切焦りなくいられた。


 ロジュは足を組んで、クムザを見つめる。クムザは悔しげな表情を崩さない。崩せない。


「そして俺はお前から言質を取る。このウィリデからもらったルクスを使って。それと、時間稼ぎだ。その間にラファエルが、お前の部下や味方を制圧する」


 ロジュは、首にかけていたルクスを見せる。それは、リーサと共にシルバ国へ行ったロジュが、別れ際にウィリデからもらったものだ。もし、ロジュがシルバ国に突発的に向かわなければ、受け取りは間に合わなかっただろう。


 そして、ラファエルは普段ロジュの側近として側にいる。護衛としているわけではないため、彼の剣の腕が目立つ機会はあまりないが、彼の父親は軍の上層部であり、幼い頃から鍛錬をしていたラファエルの腕は衰えていない。彼はいとも簡単に制圧した。



「今回実行された計画の概要は以上だ。何か質問は?」

「なんで、あなたがこんなに丁寧に説明をしてくれるのかが一番の謎ですが」

「お前が先ほどの場で色々話したことへの礼のようなものだと思ってくれて構わない」


 ロジュの返事に、クムザは黙り込む。余計なことまで話した、とでも思っているのだろうか。


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