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四十、答えは目の前にあった


「そう、か。俺はウィリデに愛されていたんだな。見返りを求められたことはないから」


 ウィリデは言っていた。ウィリデの思う愛は見返りを求めず、相手に何かをしたくなることだ、と。ロジュは、今までまともに考えてこなかった。


 だって、ロジュは愛される価値のない人間だと思っていたから。前は、家族に愛されているという実感なんて全くなかったからこそ、愛には価値が必要であり、王になるための瞳を持ち合わせていない自分には価値がない、と思っていた。王太子となった後も、やっぱり赤い瞳ではない自分には価値がないと思っていた。なぜ慣習ができたかを知ったら、尚更だった。


 それでも。そう思っていたけれど。よく考えたら、答えなんて目の前にあったのだ。ウィリデがロジュを愛している、と言っていたときに信じられなかったことが悔やまれる。ウィリデは、きちんと伝えていたのに。直接的にも、間接的にも。


 少なくとも、ロジュに「愛は、見返りを求めず手助けしたくなること」と言っていたときに、ロジュへ愛を伝えていたはずなのに。


「俺は、本当に馬鹿だ」



 ロジュは、完全に自分の思考に入り込んでいた。ロジュの頬に、誰かの手があてられた。ロジュが驚いて顔を上げると、ラファエルが心配そうな顔をしていた。


「ロジュ様、大丈夫ですか?」

「何がだ?」

「泣いていらっしゃるので」

「……。え?」


 ロジュが、ラファエルの言葉に、疑問符を浮かべる。そして、自分の頬に手をあてる。そして、自分の手が濡れたのを見て混乱した表情をした。


「何で、俺は……」


 何で自分は泣いているのだろう。ロジュ自身が一番混乱していた。ロジュを静かに見つめるラファエルも、混乱の表情を浮かべている。


「あの、場所を移しますか?」


 ロジュの様子に、エドワードは焦りを浮かべる。自分が何か余計なことを言ってしまったのか、と気になったからだ。


「場所……。変えるか」


 ロジュが乱雑に自分の目元を拭う。そして立ち上がった。まだ早い時間であったため、教室には誰もいないが、誰かが来てしまったらどうなるか。答えは明白だ。ロジュがウィリデに恋心を持っているという誤解が加速する。


「じゃあ、ロジュ様のお部屋をお借りしてもいいですか?」


 ラファエルは、ロジュに対して部屋を使わせろと言うが、それはロジュが落ち着く場所の方がいいと思ったからだろう。


「ああ」


 そのラファエルの気遣いを受け取ったロジュは、コクリと頷く。そして部屋を出ようとしたとき。

 がらり、と扉を開く音が聞こえた。その場にいる全員が表情を強張らせた。


「おはようございます。どこかに行かれるんですか?」


 その若緑色を見ると、どこかホッとした表情をロジュは浮かべる。他の人ではなく、今来たのがリーサで良かった。


「……? ロジュ様、どうかしなさったのですか?」


 ロジュの目元が明らかに赤いことに気がついたリーサが、訝しげな表情を浮かべる。ロジュが迷うように視線を動かす。その様子を見たリーサは、エドワードへ鋭い視線を向けた。


「マゼンタ侯爵令息が、何かロジュ様に言ったのですか?」


 リーサは、ラファエルがロジュを傷つけるようなことを言うとは思っていない。また、リーサはロジュがウィリデのために時間を稼いだ、という話をウィリデから昨夜のパーティー後にきいていた。だからこそ、リーサはロジュがウィリデに恋心を抱いているとは誤解せず、むしろロジュがウィリデとアーテルの婚約を祝っていることを知っている。

 だから、リーサは消去法的にエドワードへ疑いをかけた。リーサの言葉にロジュはすぐに首を振る。


「誤解だ、リーサ」

「じゃあ、なんで」


 リーサは、ウィリデの言葉を思い出す。ロジュは寂しそうで、悲しそうであったが、全然泣かなかった、と。昔、ウィリデは懐かしそうにリーサに話してくれた。


 だからこそ、リーサは余計に不可解なのだ。チラリとリーサはエドワードの方を見る。他国の王妹に疑われ、エドワードは怯えたように肩を揺らした。


「分かった。リーサも来てくれ」

「いいのですか?」


 ロジュの言葉に、リーサは橙の瞳を大きく見開いた。そのリーサを見て、ロジュは緩やかに微笑んだ。


「お前になら、いい」


 言葉少ないロジュの言葉だったが、それはどんな世辞で飾った言葉よりもリーサの心を揺さぶるものであった。リーサは、言葉を失う。その様子をロジュは不思議そうに見つめた後、教室を早足で、顔が見えにくいように俯き気味に出て行く。今はリーサだったからよかったが、他の人が来ると都合が悪いからだ。


「リーサ様、大丈夫ですか? 行きますよ」

「え、ええ。行きましょう」


 リーサは、複数回瞬きをした後に頷いた。何が起こったかよく分からない。ロジュは、自分になんて言っただろう。混乱を極めたリーサは、ラファエルについていくことしかできない。


「良かったですね、リーサ様。貴方は特別だと言ってもらえて」

「……。はい」


 頬を染めるリーサを、微笑ましそうにラファエルが見る。ロジュとそのすぐ後ろにいるエドワードが結構先まで歩いていってしまったことに気がついたラファエルは、リーサを軽く急かして早足へとなった。



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