第32話 城を作ろう!①
◇◇
「ヒューゴおじちゃぁぁぁん! おかえり!」
俺、リリアーヌ、ベルの三人がモチモチオハダ王国の港に到着するなり、真夏に咲くひまわりのような笑顔のクルルが全力疾走で俺の胸に飛び込んできた。
俺は彼女を両手で受け止め、高く持ち上げた。
「きゃはは! あのね! おじちゃんの留守中にお客さんが来たんだよ!」
「お客さん?」
はて……?
誰だろうか……。
「うん! アメギス帝国の人だって!」
俺はクルルを地面に下ろしながら問いかけた。
「アメギス!? それは本当か!?」
アメギス帝国と言えばマロン村でドワーフたちを捕縛しようとした奴らだ。
「うん! ほんとだよ! ほらっ。これその人からもらったの」
クルルがポッケから取り出したのは、ワシの紋章がついたピンバッチだ。
それはアメギス帝国の軍旗の紋章とまったく同じだった。
「まさかドワーフたちを追ってきたのか!? コッポたちはどうしてる!?」
慌ててその場を離れようとした俺の肩に手を乗せたのはリリアーヌだった。
「ほれ、あれを見るのじゃ」
彼女が指さした先には、コッポとミントの姿がある。
二人とも普段と変わらぬ足取りでこちらに近づいてきているではないか。
それでも俺は心配になって声を張り上げた。
「コッポ! ドワーフたちはみんな無事か!?」
「おいらたちは平気だよー! それよりもそっちは大丈夫かぁ!?」
コッポの元気そうな声を聴いてほっとした俺は「ああ、大丈夫だ! 新たに住民も増えたしな!」と大きな声で返事をして、ベルを指さした。
「コソ泥エルフが新たな住民だってぇ!? 冗談キツイぜ!」
コッポが首をすくめて、素っ頓狂な声を出すと、ベルが顔を真っ赤にして牙をむき出しにした。
「んなっ! このチビ助! あんたにコソ泥呼ばわりされたくないわよ!」
「だれがチビ助だ! おいらをバカにすると許さねえぞ!」
「なによ! やるつもり!? いつでもかかってらっしゃい! あんたなんか私の魔法で吹き飛ばしてやるんだから!」
「なにをぉぉ!」
いきり立つ二人。これ以上言い争いを続けさせたら、本当に殴り合いが始まりかねない。
「……ったく。これだから血の気の多いヤツはめんどくさいんだよな」
俺は彼らの間に立ち、「まあまあ、同じ住民として仲良くやろうぜ」となだめる。
「ふん! 大将にめんじて許してあげるわ!」
「へんっ! おいらも兄ちゃんの顔を立ててやらぁ! だが次泥棒したらそん時はまた牢屋に入れて、一生出してやらないからな!」
どうにか溜飲を下げたものの、二人は別々の方向へ行ってしまった。
「これは先が思いやられるな」
そうため息を漏らしていると、今度はミントが近づいてきた。
だが尻尾と耳がしょんぼりと下がっており、いつもの彼女らしくない。
「どうしたんだ?」
そう問いかけると、彼女の代わりにクルルが答えた。
「アメギス帝国から来た使者のひとりが、すっごく綺麗な女性だったんだよー! しかもヒューゴおじちゃんのことを知っている感じだったの! だからミントお姉ちゃんは心配になっちゃったんだよねー!」
「えっ? 俺のことを知っている綺麗な女性?」
そう口に出した瞬間に、ズゴゴゴという不気味な音が右隣から聞こえてきた。
「ヒュゥゥゴォォォ……?」
食い殺されそうなほどの殺気を感じ、とっさにその場を離れる。
すると真っ黒な炎に包まれたリリアーヌが目を赤く光らせているのが視界に飛び込んできた。
「待て、待て! 俺には『綺麗な女性』の知り合いなんていないって!」
そう叫んだ直後、ミントが大きな声をあげた。
「アナ! その方は『アナ』と名乗っておりました!」
「えっ……」
その名を聞いて、頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなってしまった。
無意識のうちにミントの手をつかみ、ぐいっと顔を近づけた俺は、彼女の耳もとでありったけの声をあげたのだった。
「アナは……彼女は今、どこにいるんだ!?」
◇◇
なぜアナがアメギス帝国の使者として、この島にやってきたのか。
今彼女はどこで何をしているのか。
そもそも使者としてやってきた『アナ』は、俺の幼馴染の『アナ』なのか。
知りたいことは山ほどある。
しかし残念なことに彼女はこの王国の王である俺が不在と知るや、もう一人の使者である爺さんと一緒に島を出て行ってしまったのだそうだ。
「彼女は去り際に『ヒューゴは元気ですか?』と聞いてきたの。私が『はい』と答えると、すごく嬉しそうに唇を噛みしめてた。だからお二人はとても親しい間柄なのかなって……。違うのですか?」
ミントが上目遣いで心配そうに俺を見つめている。
その隣でリリアーヌは突き刺すような視線で俺を睨みつけていた。
ここで二人に嘘をついても仕方ない。
そこで俺は彼女について話したのである。
幼い頃から奴隷として働かされていたこと。
教会でお祈りする時間だけが、彼女に許された唯一の自由時間であったこと。
いつか俺は王様になって、彼女を奴隷の身分から解放してあげるのが夢だったこと――。
……あ、でも、『アナをお嫁さんにする』ってくだりだけは黙っておいた。
いや、だってほら……ここで死にたくないしな。
「ひっく。アナさんって可哀想な生い立ちだったのですね。私、賛成です! アナさんをこの島にお迎えしましょう!」
俺の話に感動したミントは涙を流しながら、コクコクと何度もうなずいている。
「うむ。そういうことなら仕方ないのう……。奴隷なら掃除や洗濯の役にも立ちそうだしな」
リリアーヌもまた渋々首を縦に振った。
だがクルルだけは相変わらず異常に鋭いツッコミを入れてきたのだった。
「ふーん、別にどっちでもいいけどさぁ。なんか『裏』がありそうなんだよねぇ。たとえば『王妃』として迎えることを約束してるとか。それくらいのことしてあげないと報われないもんねー」
「ブフォッ!?」
このちびっこは超能力でも持っているのか!?
「ああん?」
ミントとリリアーヌがすごく怖い目つきで俺を睨みつけているじゃないか!!
一方のクルルはお腹を抱えてケラケラと大笑いしている。
彼女は俺がピンチに陥るのを楽しんでいるのか?
とにかく話題を変えなくては!
「そ、そ、そんなこと考えているわけないだろ。と、ところでアナたちの用事は何だったんだ?」
「あ、それでしたら、この手紙をヒューゴさんにお渡ししてくださいと」
ミントが封筒に入った書状を取り出して、俺に手渡す。
俺は早速それを開いて、中身に目を通したのだった。
『大人しく降伏し、我が帝国に服従するというならば、ドワーフたちの罪を許し、島の安全も保証すると約束しよう。だがもし拒めば、罪人をかくまった罪で躊躇なく島を占領させていただく。猶予は1か月。国王と国民が賢明であることを祈っている。 アメギス帝国 皇帝マーティス』
魔王が世界を恐怖に陥れようとしている時に、人間同士で争っている場合じゃないだろ。
……なんて正義感が通用する相手なら、わざわざ脅迫じみた手紙など送ってこないだろう。
1か月の猶予をくれたことが、唯一の救いか……。
手紙を皆に回す。
ミントが恐怖のあまりに青い顔して気を失いかける。
彼女を支えたリリアーヌが、ちらりと俺を見て問いかけてきた。
「どうするのじゃ? ヒューゴ」
俺は首をすくめて答えた。
「俺はドワーフたちが罪をおかしたとは思っちゃいないさ。これでいいか?」
リリアーヌがニヤリと口角を上げた。
「次の相手は人間か。ククク。わらわに逆らう者は皆殺しじゃ」
「いや、人を相手に戦いたくはない」
さらりと答えた俺に対し、リリアーヌは目を丸くした。
「どういうことじゃ? 戦わなければ勝てぬだろうに」
いつの間にか大勢のドワーフたちも集まってきた。
彼らもまた手紙を回し読みし、心配そうな視線を俺に向けている。
だから俺は全員を励ますように、大きな声で告げた。
「みんな安心してくれ。俺は負ける気はさらさらない。絶対にこの国を守ってみせる!」
ドワーフたちが顔を見合わせて、安堵の表情を浮かべる。
そこに冷水を浴びせるように言ったのはクルルだった。
「ヒューゴおじちゃん! でもどうやって国を守るの? 戦うしかないんじゃないの?」
俺は落ち着いた口調で答えた。
「たとえ一度の戦いで勝ったとしても、アメギス帝国は再び軍勢を仕向けてくるに決まっている。そうなるといつまでたっても戦いは終わらないし、人間の犠牲が増えるだけで、魔王が喜ぶことになるだろうよ」
「あやつを喜ばせるのだけは、絶対に反対じゃ! ヒューゴ! なんとかせい!」
リリアーヌが頬を膨らませて、俺に詰め寄る。
俺は彼女から一歩だけ離れてから続けた。
「肝心なのは負けないことだよ。こいつには勝てない、と思わせることができれば、彼らは攻める気を失う。そのタイミングで和睦するんだ」
「そんなことできるのか?」
リリアーヌが首をかしげる。
彼女だけではなく、その場にいる全員が不思議そうな顔つきで俺を見つめていた。
俺は大きくうなずくと、ありったけの大声で宣言したのだった。
「この島にどんな大軍でも攻め落とせない城を作ることにする! 早速はじめるぞ!!」
◇◇
【モチモチオハダ王国】
国レベル:8(↑2UP!)
人口:35人
収穫力:5
防衛力:1
技術力:25
交易力:10(↑10UP)
観光力:12
鉱山:0
国の規模:極小
水道:〇
電気:×
鍛冶:〇
特徴:
・ニャモフ族が住んでいる
・超魔王が住んでいる
・空飛ぶ水道が見られる
・ドワーフたちが住んでいる
・交易船が定期的にやってくる(←New!)
・エルフが住んでいる(←New!)
・世界樹の苗が植えてある(←New!)




