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第21話 領民を増やそう!⑨


 マロン村を舞台として魔王軍とアメギス帝国軍の戦いが始まった。

 どうすべきか迷っている俺にリリアーヌが引き締まった顔つきで言った。


「ヒューゴ! ドワーフを領民にするのじゃろ! だったら早く彼らを連れてここを脱するのじゃ!」

「お、おう!」

「わらわができる限り人間と魔物たちの侵入を食い止める!」

「頼んだぞ!」


 モンブランが殺されて混乱するドワーフたちに向かって「とにかく村の外へ出るんだ!」と大声をかける。

 

「ヒューゴ様! マロン村から北東へ10kmの場所に港があります! そこにはマロン村の船も停泊しておりますので、それで逃げましょう!」


 ギノが懸命に走りながら教えてくれた。

 俺は小さくうなずくと、魔物がいない場所を探して駆ける。

 しかしリリアーヌ一人で侵入を食い止めるのは無理があったようだ。

 すぐに大勢の魔物に周囲を囲まれてしまったのだった。

 

「ヒューゴおじちゃん! どうするの!?」


 こうなったら仕方ない。

 俺はミントの両肩をつかんで向き合った。

 彼女は顔を真っ赤にして目を丸くした。

 

「ひゃっ! ひゅ、ヒューゴさん!? こんなところで!?」


 なぜかふりふりと尻尾をふる彼女に俺は真剣な表情で伝えた。


「ミントさん! 何か勘違いしているようだけど、今はとにかく逃げることだけを考えよう!」


「えっ!? あ、はい! も、もちろんです!」


「ミントさんにはここにいるみんなを引き連れて港へ行って欲しいんだ!」


「え!? ヒューゴさんは一緒に行かないのですか?」


「俺があいつらを引き付ける! とにかく合図をしたら走るんだ。いいね?」


「そんな……。私、ヒューゴさんがいないと……」


 ミントの尻尾がしゅんと下がる。

 俺は彼女を抱きしめた。

 

「ひゃっ!」


「頼む! ミントさんしかいないんだ!」


「は、はい! わ、分かりましたから離してください!」


 俺はすぐに彼女から離れた。

 直後にライブラリーが無機質な声をあげる。

 

『魔物たちとの戦いです』


 さあ、いよいよ戦いか。

 クルクルプンは使えない。

 もしここで『アルティメット・エクスプロージョン』が発動してしまったら、騎士たちも巻き添えになるのは確実だからな。

 となれば別の方法で魔物の集団をどうにかしなくちゃならない。

 だったらコレしかないよな!

 

「スキル! 『へんてこな踊り』!」


 以前使った時は、仲間がつられて躍ってしまった。

 しかし今の俺は違う!

 運の良さが限界突破した遊び人のスーパーダンスを刮目せよ!

 

『じゃーん。じゃじゃじゃーん』


 ライブラリーがBGMを歌い出した。

 しかし相変わらずの無機質な声だから、全然雰囲気が出ない。

 俺は懸命に腰をふりふりさせ、手足を前後させた。

 

『じゃじゃじゃじゃーん。はああーー』


 ちょっ! ライブラリーのやつ!

 いきなりワンオクターブ上げやがった!

 俺を笑わせる気か!?

 

 だが驚くべきことが起こったのだ。

 

「うううわあああああん」

「うおおおお」


 なんと魔物たちが泣き出したのだ。

 

『ラッキー。魔物たちが感動のあまり大泣きしております。攻撃のビックチャンスです。はああーーーむぅぅ。じゃじゃじゃじゃーん』


 よし! なんだか分からないがチャンスだ!

 

「ミントさん! 今……」

「びえええん! すごいダンスですぅぅ!」

「くっ! ミントさんはダメか!」


 誰かいないのか!? まともに動けるのは。


「ぎゃははは! ヒューゴおじちゃんのダンス、ちょーへんてこー! ぎゃはは!」


 クルルか!

 腹を抱えながら大笑いしている。

 よし! 彼女しかいない!


「クルル! 頼む! みんなを港へ連れていってくれ!」

「ひーひー! う、うん! 分かったよ! ぎゃはは!」


 あきらかに笑いすぎだ。

 それでもミントを抱えながらドワーフたちと村の外に脱出することに成功したから良しとしよう。

 そしてこのまま魔物たちがおとなしくしていてくれれば、俺も脱出でき……。

 

「ふーん。なかなかやるじゃん」


 できるわけないか……。

 魔王エリンがニタニタしながらこちらに近づいてきた。

 彼女の手におさまった剣はすでに血がしたたっている。もう何人も騎士たちを殺したんだろうな。

 

「あはは! 私から簡単に逃げ切れると思ったのぉ?」

「俺は運が良いからな。そうなると信じていたんだが、違ったみたいだ」


『魔王エリンが戦いに乱入してきました』


 やはり戦いは避けられないようだ。

 幸いなことに周囲に人間の姿はない。

 マロン村は吹き飛んでしまうだろうが、ここなら『アルティメット・エクスプロージョン』が使えるだろう。

 だがそんな俺の考えをエリンはばっちり見抜いていたみたいだ。


「言っておくけど君の『アルティメット・エクスプロージョン』は私には効かないよー! なんでか分かるぅ?」


 俺の魔法がエリンに効かないのは昨日で分かっている。

 だがその理由なんて考えたことなかった。


「おおかた『魔王は特別な力で守られてるから』とか、そんなところだろう?」


 俺の答えにエリンはぷくっと頬をふくらませた。


「ぶっぶー! はっずれー! 私だって痛い時は痛いさ! でも君の魔法は痛くもかゆくもなかった。だって弱すぎるんだもん」


「弱すぎる? アルティメット・エクスプロージョンがか? その時点で特別な力だっつーの」


「あはは! 君は大きな勘違いをしてるみたいだね」


「勘違い?」


 いったい何が言いたいんだろうか。

 そう疑問に思っていると、彼女はぶんと剣を一振りした。

 衝撃波が俺の真横を走り、地面が割れていく。


「あはは。今のどうだった?」


「すさまじい力だな」


「でもただ剣を振り下ろしただけ。そしてこの剣は魔力を攻撃力に変えることができる。つまり『魔力が高いからすさまじい力になった』ということだよ」


 ずきっと胸がうたれたのは、彼女が言いたいことがようやく理解できたからだ。


「つまり俺の『魔力』が低すぎる、と言いたいのか……」


「あはは! ぴーんぽーん! そのとおーり! さあ、君はどうする?」


「どうする、だと?」


「うん! このままだとずーっと君は中途半端なままってことだよー。私にかすり傷すらつけられない。だったらどうすればいいのかな?」


 なんだ? この学校の先生みたいなフリは?

 そして俺に何をさせたいんだ?

 俺が戸惑う隙すら与えずに、短気なエリンは答えを自分の口から告げてきた。


「今の『遊び人』のままでは魔力はこれ以上は上がらない。私を倒したかったら『転職』することだねー」


「転職……」


「そそ! もっと魔力がいーっぱい上がるジョブに変えるんだよー! たとえば大けん……」


 とエリンが言いかけた瞬間だった――。


 ――ドガアアアアアン!


 エリンの背中に巨大な光の玉が直撃したのだ。


「おぷっ」


 エリンはまるで突風にあおられた木の葉のように軽々と吹き飛ばされ、俺の横を通り過ぎていく。

 すると彼女と入れ替わるように俺の前に現れたのはリリアーヌだった。


「これ以上のおしゃべりは許さん」


 鬼のような形相で、長い髪を逆立たせ、目は赤く光っている。

 見ただけでぞくりと背筋が凍ってしまいそうな彼女の視線を追ってみると、ゆっくり立ち上がるエリンの姿があった。


「おー、いててぇ。やっぱりリリちゃんの本気は危険だねー」


「ふん! まだ半分の力もだしていないわ。もしわらわが本気を出したら、すでにお主は灰になっておろうに」


「あはは! そうかもね! でもそんなことしたら、そこにいる遊び人くんも灰になっちゃうもんねー!」


 俺を通り過ぎて、エリンの前に立つリリアーヌ。

 エリンとリリアーヌが対峙した直後から、異様なオーラがあたりを包み、魔物も人間も手を止めて二人の行方を見守っている。

 

 張り詰めた糸がいつ切れるのか。

 切れたらどんなすさまじい戦いが繰り広げられるのか。

 誰もがかたずを飲んでいたその時――。


「みんな、ごめんねー! 私はリリちゃんと戦う気はないのー! あはは!」


 彼女はあっけからんとそう言うと、血のついた剣を水の魔法で綺麗にしてから、鞘におさめた。


「ドワーフくんたちにも逃げられちゃったし、そろそろ帰ろっか」


 エリンは背中の翼をはためかせて浮き上がった。

 同時に魔物たちがアメギス帝国の兵たちから離れて、上空に浮かぶ。


「あはは! じゃあ、リリちゃんと遊び人くん。まったねー!」


 リリアーヌは黙ったままエリンの様子を見ている。

 どうやら彼女を追撃する気はないようだ。

 そうして空高く舞ったエリンは想像すらつかないようなことを言い出したのだった。


「最後に言っとくけどぉ! リリちゃんと戦うのは私じゃない! 遊び人くん、いや未来の『大賢者』くん、君なんだよー! あはははははは!」


 

 

  


 











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