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第19話 領民を増やそう!⑦

 

 アメギス帝国の軍勢がマロン村を取り囲む中、現れたのはなんと魔王軍だった――。

 

「ああ、これは荒れるな」

「ねえねえ、ヒューゴおじちゃん! 何が起こるのかなぁ!?」


 クルルは目を輝かせて聞いてくるが、これから起こることは、そんなワクワクするようなものではない。

 戦争だ。人間と魔物の戦い。

 

 多くの人間が傷つき、殺される。

 当然、この村にいるドワーフたちも巻き込まれるに違いない。

 家々は焼かれ、田畑は荒らされる――。

 

 凄惨極まりない光景が待っているのは間違いないのだ。

 ただそんなことを教えたら、ミントとクルルは恐怖のあまりに卒倒してしまうだろう。

 ここは『戦争』のことは避けて言わねば……。

 

「戦争じゃな。人間どもは皆殺しになって、ここらは火の海になるじゃろう」


「ちょ、ちょっと待て!」


 リリアーヌのやつ!

 あっさり言いやがった!


「こわいよぉ……」

「あわわわ」


 ほら見ろ!

 クルルはブルブル震え、ミントさんは口から泡ふいちゃってるじゃないか!

 

 一言文句つけようとした時には、リリアーヌはすたすたと歩き出している。

 

「おい! どこへ行くんだ!?」


 追いかけていくと、彼女はカルーとモンブランの間に立った。

 

「なんだ? 貴様は。女が出てくる幕ではない。去れ!」


 カルーがリリアーヌに冷たい言葉を浴びせるが、彼女はまったく気にせずにモンブランに問いかけた。

 

「村長よ、このままでよいのか?」


 村長はリリアーヌを見上げた。

 

「どういう意味かのう?」


 リリアーヌはふっと笑みを漏らす。

 

「くくく。このままここで突っ立っておれば、自分たちの作った武器で、愚かな人間どもが皆殺しにされるのを傍観することになる。それでよいのか、と聞いておるのじゃ。わらわとしては実に楽しい余興だから、是非ともこのままボケっとして欲しいものじゃ」


「なにを!? 貴様ぁぁ! 我らが『ハヤブサ軍団』を愚弄した罪は重い! この場で斬り捨ててくれよう!」


 カルーの大声に弾かれるようにして、一人の騎士がリリアーヌに向かって斬り込んだ。

 

「あーあ、知らないぞ」


 ぼそりと俺がつぶやいた時には、リリアーヌは騎士の武器を拳で破壊し、がら空きの腹に強烈な蹴りを食らわせている。

 鉄の鎧が派手な音をたてて破裂し、騎士ははるか後方まで吹き飛ばされた。

 

「な、なんだと……?」


 カルーの顔色がさっと青くなる中、てくてくと軍勢の方へ歩いていったリリアーヌは、涼しい顔してギノの縄をほどいた。

 

「あ、ありがとうございます」

「礼にはおよばぬ。昨日の宿を借りた恩を返しただけじゃ」


 解放されたギノが村の広場へ走っていこうとしたが、騎士たちの数人がその背中を追いかけだした。

 

「待て!」

「逃がすか!」


 しかし……。

 

「うっとうしいのう」


 リリアーヌはドンと足を踏み鳴らした。次の瞬間に周囲に強烈な爆発が起こり、騎士たちが散り散りに飛ばされていく。

 

「思いのほか弱い。これでは『皆殺し』はあっという間に終わってしまうかもしれん。残念じゃ」


 その場の全員が言葉を失う中、リリアーヌは再びモンブランと向き合った。

 

「人間どもが皆殺しにされるのが忍びないということなら、魔王に首を垂れよ。そして魔王の配下に加わるのじゃ。あやつはお主たちの武器が欲しいだけじゃ。その目的が達せられれば、人間どもを相手にする必要はない。もっとも己の身の丈も知らずに、無駄な抵抗をすれば皆殺しはまぬがれないがな」


 リリアーヌはちらりとカルーを見た。カルーはゴクリと唾を飲み込む。

 既に戦意が感じられないから、本音は尻尾巻いて逃げ出したいんだろうな。

 分かるよ、その気持ち。俺も最初にリリアーヌと対面した時は、あまりの恐ろしさに何もせずに逃げ出したから。

 

「さあ、どうする村長よ。貴様がすべて決めるのだろう? 魔王エリンは短気だからのう。考える暇など与えてくれんぞ」


 リリアーヌに追い詰められたモンブランは汗を顔じゅうにかいている。

 だが何も発言しようとはしなかった。

 

 引き続き『人間側』でいるためには、目の前で大勢が殺されるのを黙って見過ごすしかない。

 それが嫌なら『魔王側』につかなくてはならない――。

 

 究極の選択とはまさにこのことだろうな。

 だが何か一つ引っかかる。

 それはなんだ……?

 

 ……とその時。

 魔王エリンが地上に降り立ち、リリアーヌの前までやってきた。

 

「あはは! リリちゃんも人が悪いねぇ!」


「どういうことじゃ?」


「だって、リリちゃんの力があれば、この戦いを止められるはずでしょ? こんなビビりの大将なんだから、指先一つでちょいってしただけで逃げるに決まってるもん! それをしようとしないんだから! あはは!」


 そうか!

 引っかかっていたのはこれか!

 

 リリアーヌの力があれば、人間を殺さずに退却させることは造作もないはずだ。

 でも彼女はそうしようとしない。

 それはなぜか……。

 

 チラリと魔王エリンに目をやる。相変わらず憎たらしいニタニタ顔だ。

 すぐに目をそらすと、彼女の背後にいる身長5mはありそうな巨人の魔物が目に映る。

 その瞬間、俺はとんでもないことに気づいてしまったのだ。

 

 ――巨人の持っている超巨大なこん棒に『栗』のマークがある!

 

「リリちゃんも気づいてたんでしょ? ここのドワーフくんたちは、『最初から私たちのために武器を作っていた』って! あははは!」


 さっきまでひょうひょうとしていたモンブランの顔がこれまでにないほど歪んだ。

 もっと言えば、広場にいる大人のドワーフたちも、全員うつむいた。

 そんな中、

 

「そんなのウソだ! おいらたちドワーフは人間が魔物と戦うために武器を作るんだ! 正義の味方なんだ!」


 とコッポが顔を真っ赤にして飛び出す。

 

「コッポくん! 行っちゃだめ!」


 ミントが必死に声をかけたが、コッポは無視してモンブランの前に躍り出た。

 

「なあ、村長様! ウソだって言ってくれよ! 巨大な武器を作ったら、たまたま魔物の手に渡ったって言っておくれよ!」


 モンブランはコッポから顔をそむけた。

 

「なあ、みんなも言っておくれよ! 正義のために作るのがドワーフの誇りなんだろ!」


 大人たちは何も言おうとしない。鍛冶をする男も、それを手伝う女も……。

 コッポは隣にいた父親につめよった。

 

「父ちゃん! 父ちゃんなら言ってくれるよな! じゃないと俺は……。俺は……。うああああああ!」


 ついにひざをついて泣き出すコッポ。

 そんな彼に言葉を浴びせたのは、魔王エリンだった。

 

「綺麗事言ってんじゃないわよ。あんたは誰のおかげで生きてられると思ってるの?」


 コッポは顔をあげ、ぎりっとエリンを睨みつける。

 エリンは彼を見下ろしたまま、淡々とした口調で続けた。


「あんたたちは武器しか作れない。でも人間相手に武器が売れない。となれば私たち魔物に対して売るしかないじゃない。そうしないと家族に飯を食わせてやることすらできないんだから」


「ぐぬっ……」


「あんたみたいなクソの役にも立たない生意気な小僧でもね。生かすために村長たちは必死だったの。悪魔に魂を売らねばならないほどに追い込まれていたの。そんな大人たちの事情も知らないくせに、『正義のために作るのがドワーフの誇り』ですってぇ? あははは! あまり面白いこと言わないでよぉ! お腹がよじれちゃうじゃない! あははは!」


 誰も何も言えず、ただエリンの笑い声が響き渡る。

 しばらくして笑い終えたエリンは驚くほど冷たい口調で告げたのだった。

 

「じゃあ、そろそろ始めるね。ドワーフくんたちも見たいんでしょ。自分たちが作った武器がどれくらい活躍できるかって」


 モンブランの顔がはっと上がる。

 何か言いたげが言葉が出てこないようだ。

 それもそうだろう。

 やめてくれ、と言えば、魔王に忠誠を誓うことが決まってしまうのだから……。

 

「おのれ……。魔王め。かくなる上は玉砕覚悟で戦うべし!」


 カルーもいよいよ腹を決めたそうだ。

 意外と根性あるんだな、と変なところで感心してる場合じゃない。

 俺は俺で腹を決めなくては。

 

「まあ、最初からこうするしかなかったんだよな」


 そう独り言をもらした俺はエリンとカルーの間に立った。

 

「どけ! 貴様のような庶民は巻き込まれないように隠れてるのだ!」


「ああ、ごめん。もう思いっきり巻き込まれてるから。今さら隠れる気はねえよ」


「なぁにぃ?」


 みんなが俺を見ている。

 ここはびしっと決めなきゃ、カッコ悪いよな。

 そこで俺ははっきりとした口調で宣言したのだった。

 

「マロン村で暮らす全ての人々を、モチモチオハダ王国の領民として迎えたい!」

 



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