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第三十一節 正体

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「あんたが明王だってのか? でも、明王はもうずっと昔の……」


「それも明王の力さ 私は見た目の歳はとらないんだ」


 アキラと名乗る少年はベッドに臥せったまま話した。

 何か病に侵されているのだろうか、顔は青白く、呼吸は浅く荒い。


「さぁシオン 君は聞きたい事が沢山あるだろう?」


「は、はい…… ええと、でもなにから聞けばいいのか…… あの本は? エデュバは……?」


「言うまでも無いが、あの本を作ったのは私だ 君の手に渡ったのは純粋に偶然だよ 私は自分の力でもって人々を導こうとした…… だがその結果がこの有様だ、ただ世界を混乱させてしまった そこで私は…… もう一度やり直すことにした 今度こそ、独りよがりの傲慢な子供の王などではなく、人が自らの力で立ち上がっていけるように その願いを込めて作ったものさ その本は、それを持つ者の内面を読み取り、映し出す エデュバが君の母親に似ているのは偶然じゃない」


「ここに来ればエデュバに会えると思ってた」


「会ってるじゃないか 私がエデュバの役をしていたんだ」


「えっ」

 シオンはそれまでエデュバと共に過ごした日々の事を思い出した。豊満な胸をこれみよがしに押し付けるエデュバ。

 可愛いと連呼しながらほお擦りするエデュバ。少女相手に猫のように甘えて膝枕をせがむエデュバ……


「聞きたくなかった」


「えっ」



「なんだよ、美人の魔女に会えるかと思ってたのによ…… そうだ、それより教団の事は何かしらないのかい?」


「ああ、彼らか…… もちろん知っているよ 彼らは私の事を相当恨んでいるようだね」


「ええと、明王……さま?」


「アキラでいいよシオン」


「それじゃぁアキラ、一体あの教団はなんなの? 誰が彼らを指揮しているの?」


「彼らの教祖は、かつて私が追放したこの島の王の子孫さ 先祖代々、私を、明王を呪ってきた人たちだ これもまた、私が自分でまいた種だ」


「なんてこと……」


「その帳尻合わせを俺たちがしてるってのか?」


「すまない…… だが私がやってしまってはまた同じことなのだ」


 また何かを言いかけたオイコスに、シオンは首を振ってそれを制する。

 彼はずっと自らを責めていたに違いない。言葉の端々から痛恨の思いが伝わってくる。


「君達がゴーレム病と呼ぶものも、かつて私が産み出した技術だ」


「なんのために?」

 シオンはその事実に薄々気がついていた。

 世界の理を変えてしまう事が出来るのは明王だけ

 だ。

 ゴーレム病はほかの病と比べてあまりにも歪で、おかしなものだからだ。


「人々のためだった 生まれつき体の弱いものや手足を失ってしまった者を救済できると信じていた だが今は教団が悪用している様だ 彼等は食べ物にゴーレム病の素を混ぜて配っている」


「なんてこった! じゃあ、俺やギュムナは知らずのうちにそいつを食べてこうなったのか!?」


「おそらくな 彼等はゴーレム病になにか細工ををしているようだ そのため、本来とは違う作用が起きている」


「心を壊してしまうのはそのためなのね……」


「推測だが、彼らの狙いはゴーレム病そのものではなく、精神への作用の方であろう  病によって心を壊されてしまった者は容易に洗脳してしまえる ()()()には個人差があるが、洗脳の度合いによっては死をも恐れぬ兵士となる 金属の体になるのは病に掛かった者の内のおよそ1割程度が発症する副産物だ」


「元に戻すことは出来ないの?」



「不可能だ ……だが壊れてしまった心は癒せる」

 その言葉に三人は顔を上げて少年を注視した。


「君さ、ギュムナ 君はゴーレム病から()()()を得ているだろう 壊れたものを治す力を」


「僕が?」


「そうだ! ギュムナは人の怪我を治せるじゃなねえか」


「そうか、あの時は壊れた鍵を直して、扉を開けたのね」


「彼は珍しい力を持っている、なんでも治せるのだ、壊れてしまぅった心でも それ故、教団に狙われもするだろう」


「何をするつもりなんだ?」


「彼ら教団は、正式には()()()()()()()()と名乗っているのだ 壊れた神…… おそらくは私が残した何か恐ろしい物を元に戻そうとしているのだろう」


「そいつを止めないとやべぇのか?」


「ああ、ろくでもない事になるだろう だが、見ての通り私には時間がもう残っていないんだ」

少年、アキラはやせ細った自分の手をかざして眺めた。少年の手は白く、弱弱しく、光に透けてしまいそうだった。


「だがもういいのだ 私は長く生きすぎた 罪を犯しすぎた 最後に少しでも償いが出来ればよかったのだが……」


シオンはそっと少年に近づき、その手を握り締めた。シオンの眼には大粒の涙が溢れ、光り、輝いていた。


「あぁ、シオン 君との日々は楽しかった 君を育てる事ができてたのは私のたった一つの誇りだ」


「何て言っていいかわからない…… でも、ありがとうアキラ ありがとうエデュバ」


「礼を言うのは私さ…… もう一つ本を見つけただろうシオン」


「若きプリンセスの物語?」


「そう、あれも私の作ったものだ できるだけ多くの子供達に届けたかった」


「あの本には何が書いてあるの?」


「君のことさ 君の物語が綴られているんだよシオン姫」


「私のこと!?」


「そうさ、君が今までしてきた事、感じた事 考えた事、全てが物語となった本だ 子供達は君の人生を追体験するんだ 君が強く気高く生きていけば、子供達も同じように成長していくさ、きっとね」


「そういう事だったのね…… 色々ありすぎて、何て言っていいかわからないけど、すっきりした」


「すまない、私は君を利用しているのかもしれない」


「いいの、あなたが居なかったら、あの本に出会わなかったら きっと私はこの森でそのまま死んでいたもの」


「ありがとうシオン ……さぁもう時間だ 君を待っている者達がいるだろう」


「はい…… さようならアキラ さようなら、エデュバ」


少年は名残惜しそうに、なんども振り向く少女をベッドの上から見送った。

三人が部屋を出ると、照明は消え真っ暗な空間に一人取り残された。


-さぁ最後の魔法だ。

-子供達よ。プリンセスの下へ、シオン姫の下へ集え。

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