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第十九節 出陣 悪魔祓い 山のトンネル 

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「何日くらいだ? もう一週間はたったか?」


「まだ三日目だよ 大丈夫、水も食料もまだあるから」


「くそっ!! 出てきやがれ悪魔め! さっさと来て戦え!

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「そうか、やってくれるか ……今まで何度も失敗した だがお前は他の者とは違う何かを感じる きっと悪魔を払えるはずだ」


 シオンはオイコス、そしてギュムナの三人で領主の下へ行き「呪いの谷城」へ行くことを告げた。


「出来るだけの事はさせてくれ 準備に必要なものは何でも用意しよう 何が必要だ、兵士は?」


「兵士は要りません 水と食料と…… 悪魔払いに使えそうなものをありったけ!」


 ヘレフォードとスコットはあらゆる物資の提供を約束してくれた。

 新品の片手剣、新しい革鎧。ギュムナのサイズに合うものは無かったので彼だけは新しい厚手の服。

 三人の一週間分の水と食料。

 それから悪魔払いに有用と思われるものを判る限り集めた。

 シオンの本には悪魔の話など出てこなかったので町の祭祀や祈祷師を訪ねてその方法を教わった。

 そして集まったのは黒鶏の血、ヤギの角の粉末、にんにく一房、ワイン、祈祷した燻製肉、スグリの実、銀のナイフ、羊の腰骨……


「俺にはガラクタにしかみえん」


「同感」


 とにもかくにも、出発の準備が整った。大半の荷物担ぎはオイコスの担当だ。

 町の広場で人を集めての立派な出陣式が行われた。

 集まった人の中にはいつぞや、シオンが剣で打ち負かした少年の姿もあった。

 シオンは冗談交じりに、来ないかと誘ったが、少年は慌てて逃げていってしまった。

 あれじゃ立派な騎士にはなれんなとスコットは苦笑いしていた。

 町の祭祀がリラという小さな竪琴を弾きながら祈りの歌を捧げた。


 かくして二頭立ての馬車が三台、スコットの乗る馬車を先頭に()()した。

 谷までは馬車で一日足らずの場所だ。道はほぼ平坦で快適だった。

 なるほど、コレなら大量の食料や交易品を運べるはずだし、道の警備もたやすいはずだ。

 この道が途絶えてからこのあたりの町や村が、以前にも増して貧しくなったというのも頷ける。


 問題の城は異様な光景だった。

 谷の中に作られたのではなく、実際には山の一部をくり貫いて作られた巨大なトンネルだ。

 一体、明王とはどれほどの魔力を秘めていたのだろうか。

 あるいはとてつもない数の奴隷を湯水のように使っていたのか。

 人間が10人は並んで歩けるほどの広いトンネルが、山を一つ貫通しているのだ。

 しかもその表面は滑らかで、完全な半円を描いていた。


「恐ろしい! まるで悪魔の口のようだ!」

 護衛に着いて来た兵士の一人が声を上げる。


「おいおいやめろよ、今からそこに入っていくんだぞ」


 シオンたちはスコット一行に別れを告げた。ここでも儀式が行われた。

 スコットと兵士たちが一斉に抜刀して剣を高く掲げ、その中を三人は歩いていくのだった。

 悪魔の憑くというトンネルに向かって。


 シオンは松明を片手にトンネルの壁に触れてみた。一体どうやって掘ったのだろうか?

 普通は硬い岩を削ればもっと凹凸の激しいものになるはずだ。

 だがここはやすり掛けされた水晶のようにつるつるだ。

 しかも出口から入り口まで寸分の狂い無く真っ直ぐに伸びている。

 オイコスも不思議そうに金属の指でこつこつと壁を叩いた。


「どうやって作ったんだろうなこれは?」


「全然検討も付かない 明王は魔法を使えたって言うし、それとしか……」


 松明を頼りに、しばらく歩いていると壁に文字が書かれているのが見えた。

「連絡用通路」とある。その脇には鉄の扉が付けられていた。

 シオンがオイコスに目配せをする。オイコスも合図を返し、剣を構えながら扉を開けた。


 内部は狭い通路になっていた。

 その壁もまたつるつるに磨かれている。

 時折、何か透明な箱のようは出っ張りが設けられているがそれがなんなのかは解らない。

 暫く進むとまた扉があり、そこは開けられなかった。

 シオンが解錠を試みるも、鍵は見たことが無いほど複雑な作りだった。


「お前、錠前破りまでできるのか?」


「みんなには内緒ね」


「今度こっそり教えろよ」


「だめ」


「なんでだよ! ……?まて、なんだこの音は」


 オイコスの言う通り、低く鈍い音がどこからか響いていた。

 しかもトンネルが微かに揺れているではないか。


「戻ろう!」


 シオンの号令の元、早足に元来た場所を戻った。

 しかしすでに遅かった。

 もとの道に出た時には巨大な石の落とし戸が出入口両方を塞いで閉まったのだ。

 そして閉まるとと同時にトンネル内が明るくなった。

 トンネルの壁に取り付けられた、一定間隔で並ぶ透明な箱のようなものが光っているのだ。


「な、なんだよこれ……どうなってんだ」


 トンネルの全容が見えた。あちこちに白骨化した死体と、彼等がもがいた痕が残っていた。



 -------

 その夜、アールドブラ城内。

 領主であるヘルフォードは薄暗い部屋でテーブルに座っていた。部屋の隅には 給仕係のウォルターが無言で立っているだけだ。


 テーブルの上には白パンと塩と香辛料漬けの豚肉、トマトのスープ、リンゴが一つ。それにワイン。

 貴族が食べるには普通の食事だが、庶民が食べるには少し贅沢な夕食と言ったところか。

 しかしどれもまったく手を付けていない。


 そこに来客が現れる。ヘレフォードの側近で同じく貴族のスコットだ。


「食事をとっていないそうだなヘレフォード 奥方が心配していたぞ」


 ヘレフォードは手の中でナイフを遊ばせ、物思いにふけった様子でいる。


「気になるのか、あの娘が」


「まだ子供だ 私が死地へと向かわせてしまった」


「今更言うことか? あの娘を信じるしかない」


 スコットはヘレフォードの隣に座り、グラスにワインを注いでやった。そしてヘレフォードの手からナイフを取り上げ、肉を切り出す。


「スコット、昨日私の娘がな」


「なんだ、ロッティお嬢様は今度は真珠の首飾りでもねだってるのか?」


「違う、どこからか本を拾ってきた」


「本を? それはまさか……」


「そう、不思議な本だ 私には開けなかったが、若きプリンセスの物語と書いてあった あの悪戯娘が夢中になって本を読んでいるなんてな」


「シオンが持っているという本に似ているな 話を聞いたことがある」


「やっと後とり息子も生まれた 娘にはもっとしっかりして貰わないとな ……あの本は良き物であると思うか? それとも悪魔を呼ぶものか」


「シオンが邪なものに見えるか? 大丈夫さヘレフォード レディ・シオンは、ああ見えて多分我々よりずっと()()だ」


「ハハハハ! そうだな!」

 ヘレフォードは切り分けられた豚肉を手にとって口に入れた。

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