オイコス
じゃぁオイコスの話をしてやろう。
あいつは山の麓にある炭焼き小屋で働く男だ。俺はあいつを小さい頃から知ってる。
生まれは町で、パテラスの四人目の子供で唯一の男だ。
体はでかいのに、真面目で不器用で無口な奴だったんだ。本当だぜ。
ある時なんか、自分よりずっと小さくて生意気なメアリーに叩かれて大泣きしてた。
女姉妹の中で育ったせいかなぁ、あいつはちょっと人見知りで、奥手だった。
信じられるか?12になるまであいつは母親以外の誰とも手を繋がなかったんだぜ?
ふう、ああもう一杯くれよ。 ここからは酒がないと話せねぇ。
不幸なことってのは雪崩みたいに続くもんだ。まず父親が死んだ。
父親のパテラスはあまり身体が良くなかった。そんで家で一人の男だったオイコスは一生懸命はたらいたもんだ。
まだ13だってのによ。
それに母親も病気になっちまった。熱病にかかってからすっかり弱っちまってな。働けなくなった。
それでも姉弟で力をあわせて頑張った。
そうそう笑える話もある。あいつが15の時に納屋の中でジェシーに押し倒されたんだ。
そのジェシーってのは。あははははは!! ありゃぁかぼちゃをハンマーで潰したみたいな顔でな!ははははは!!!
俺は叫んだよ。やめろ魔物め!離れろってな!あはははははは!
あー、それから少ししてからだったな。あいつがアニスと付き合いだしたのは。
アニスはいい女だったよ。器量は良くないが、とにかくひたむきでおせっかいで、いい娘だった。
なにより、二人はそれはそれは深く、愛し合ってた。
結婚もした。アニスの親は、オイコスの家の状態について文句を言ってたが、まぁ嫁がせられるだけマシだ。
結局は二人の結婚を認めて、ささやかな式もあげたよ。
だがなぁ。 さっきも言ったが不幸ってのは重なるんだ。
腹に子供を抱えたまま、死んじまったんだ。
そらからのオイコスの落ち込みようと言ったらもう、とても見てれらなかった。
酷いもんだよ。とても酷い。
それで三年前の夏ごろだったかな。あいつの家から笑い声が聞こえるんだ。
とうとうあいつおかしくなっちまった。
ゴーレム病ってやつだ。その時は知らなかったんだがな。
手足が鉄になっちまって、それで何故だかえらく陽気になった。
きっと酷い目に合いすぎて変になったんだろうな。そういうのはたまにある。
だがゴーレム病の身体ってのはすげぇんだぜ。でかい丸太も一人で運べるし、いくらでも薪が斬れる。
だから樵になったんだ。稼げる仕事だ。生き残った家族も連れてきた。母親はもう持たなかったが。
それでもなんとかやってる。ここは良い所さ。皆、俺の事を頼ってくれるからな。




