刀隠れ 2
場所を理科準備室から、ちょっと広い理科室に移して私は皆さんから距離を取りました。
「私の左手が桜色に光って見えるって、言っていましたよね」
私の問いかけにうなずく先輩方に見えるように両手を胸の前に出すと、手のひらが向き合うように手首を半分捻りました。
「家で一人でやろうとして、怖くなって断念したんです。
口で言うよりも見て頂いた方が早いと思いますから」
頭の中を埋め尽くす、嫌々な、やりたくない感情を頑張って押し出します。
「いきます」
後戻りはしません。
両手を勢いよくパンッと打ち付けて……。
そのままストップしちゃいました。
決してじらしているわけではないんです。けど。
どうしようもなくて移した視線の先の鏡子ちゃんの不安そうな顔に、もう一回気合です!
夕方の日の光に薄暗くなってきた理科室で、意を決してゆっくりと開く両手の間にはバチバチと小さな音共に紅い稲妻が走りました。
皆さんが息をのむ空気が伝わってきます。
そのまま空間を広げていくと、左手のひらから熱い力の塊のような物がぐぐぐうぅっと出てこようとして
「ごめんなさいっ」
パンッと両手を閉じました。
「見……ました?」
他に言いようがなくて。
上目遣いになっちゃいました、私の視界には呆然としたような引きつったような顔のお二人。
こんな時ですが、やっぱりそんなお顔もそっくりです。
「何か出てこようとしてた?」
至先輩の一言に
「たぶん、刀の柄です」
自信無げで申し訳ありません。
「私の中で、全体像は見えている、ようなんです。
確信のようなものはなんとなくありますが、何せこんな普通じゃないこと……。
急に魔法が使えるようになりました。
やったー!
あなたは最強です。剣持って。
グサッ。強えー。
なんて、そんなあっさり受け入れられません!
刃物が刺さったら痛いし、血が出ますっ」
「……そうだね」
びっくり顔の駆先輩の棒読みのセリフにハタッと我に返りました。
「す、すみません」
合わせた手は互い違いに組んだ指で押さえるようにギュッと握ったまま、私は視線を床に落としました。
「これが抜ければ、絶対に現状が変わると思うんです。それは分かっているんです。
今の世の中は、こんな不思議なことをあっさり受け入れる傾向なのも知っているんです。
でも、私にはこれを抜くだけの勇気が出なくて。
紅桜は、私の中にいるんです」
不甲斐ない自分は、まだまだ克服出来そうにないんです。




