あの木の下で 3
実は、先輩方に言っていないことがあったりします。
駆先輩が知りたがっていた紅桜の行方です。
あの日、桜の樹にみんなで触れたあの日、家に帰ってから宮司をしていた祖母に聞きました。紅桜のこと。
私はそのことを知っていたことには大分驚いていましたけど、だからこそちゃんと聞くことは出来たんです。
この事を伝えるべきかどうするべきか。
悩みます。
「あの、私たちに何か出来るんでしょうか。夾竹桃のこと。
このままじゃ、いつか何らかの被害が出そうですし、見て見ぬふりしているだけなんて、何だか申し訳ないって言うか
上手く言えないですけど、どうにかしたいです」
「まあ、気持ちは分からなくもないけど」
私の言葉に賛同して下さった駆先輩ですけど
「俺達も見えるってだけで、どうにか出来る手段がないんだ」
繋げて下さった至先輩の言葉には納得です。
「ですよね」
「現状維持って言うかハルオとボン太に見張りを頼んで、ニノに見回りしてもらうくらいしか手はないね」
うーん。
■□■□
気分がすっきりしないまま、今日の授業も終了です。
怖いのは嫌いですけど、みんなのために何か出来る事があるならどうにかしたい気持ちもあります。
うーん。
部活に出るため、帰宅するため、教室を出ていくクラスメイトに手を振っても、何だか家に帰る気にはなれません。
うううぅぅぅー。
ダメです。
やっぱり行動を。
うー。でもやっぱりぃぃぃ。
脳内一人葛藤は結構毎度のことです。
ですけど、ずっとどこかでこんな自分は好きじゃないって、思ってました。
ずっと怖かった桜の樹に触れたんです。
ここで新しく出来た、ちょっと変わったお友達はこれからも学校で生活していくんです。
あの子たちのために、頑張りたい。
自分も、変わりたい。
うん。やっぱり……。
席から立ちあがり、教室のドアに向かう私の目の前を、先輩が駆け抜けて行きました。
「あとととと。
このはちゃん」
急ブレーキで戻ってきたのは駆先輩。
名前を呼ばれなければ、正直いまだに見分けが付きません。
「今から理科準備室に来れる?」
いつも笑顔の駆先輩だからこそこんな風に険しい顔をされると、事の重大さが何だか怖そうです。




