紅桜 1
あまりの衝撃に声も出ないまま、私たちはお互いの顔を合わせて戸惑いです。
「今のは、初めて見たな」
至先輩の一言に駆先輩が大きく頷きます。
「このはちゃんはわかった? 鬼の意味」
「はい」
駆先輩に応えた声は、自分でもはっきりと震えていたのが分かるくらいです。
見た目は20代の男性と何ら変わりない感じでしたけど、そのオーラっていいますか。
「人じゃない気配がものすごかったです」
え。あれ。
「あの、ああいうのと、戦うんですか。私」
突き詰めるとそういうこと、ですよね。
日本刀なんて持ったこと、どころか見たこともないです。
戸惑いの私に、先輩方は顔を見合わせています。
「それに関してはね、俺達もいろいろ思うところがあって。
世に言う『物の怪』と核ミサイルってどっちが強いと思う?」
「核?
えと、核ミサイル、ですかね」
突然の駆先輩の一言に思わず答えてはみたものの。
「だよね。
つまり、昔昔ならいざ知らず、この令和の世の中で科学と鬼は戦えるのかって話なわけよ」
何だか、なるほどです。
「学校にいるヤツらみたいにのんびり生活している『物の怪』がいる以上、ヤツらの存在を否定はしないけど、そんなに力の強いヤツは返って今の世の中は生きづらいだろうね」
まるで桜の樹に向かって話しかけているみたいな駆先輩はちょっと寂しそうに見えてきます。
「ともかく、今日は桜の樹が見れてよかった。
この世でまたそろっちゃった顔ぶれなんだろうな。
時代錯誤も甚だしいよ」
至先輩の瞳も桜の樹を愛おしむように見つめたまま、あの優しい微笑み。
「ところでさ、このはちゃんは知っている?
紅桜の行方」
駆先輩の一言に、通り過ぎた風が桜の樹が大きく揺らして行きました。




