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薄桜記 2~現~【うつつ】  作者: 綾乃 蕾夢


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12/24

白昼夢

 大きく深呼吸をして、桜の樹にそっと左の手を伸ばす。

 私の異様な緊張感を感じ取ってくださったのか、両脇から同じように手を伸ばしてくださった至先輩と駆先輩。


 目の前の鮮やかな新緑が、空から降りてくる日の光に生命の力強さを感じさせてくれるみたいです。

 暖かい日差し、優しい風。この空間を取り巻く全てが、桜に触れることを待ち望んでいたような、不思議な安心感に私たちの手は、桜に……。



 ■□■□


 火の海と化した小さな農村を足元に、大きな茅葺かやぶき屋根の上には長く透き通るような白髪はくはつを熱風に吹きさらした美しい青年が、大きく反り返った刀を振りかざす。


 対するのは長い黒髪を結い、朱色のはかまを着た若い巫女。

 構える細身の日本刀は、炎の色を照り返す。


 地上では一人の男がふところから出したふだに力を込めた。


 渦巻く熱は大きな桜の樹から舞う花びらを、残さず焦がそうかとするかのようにその手を伸ばした。


 ■□■□


 朱色に塗られた柱の立ち並ぶ回廊かいろう

 青白い月は、闇の中にほのかに光るように咲く桜を照らし出す。

 風に舞う花びらはさながら一枚の絵画を見ているように時が止まったかのような錯覚を起こさせた。


 長い白髪はくはつを揺らす青年の手のひらにわだかまる白い闇が大きな桜の樹の幹を焼く。

 風に溶け込む不可視みえないの刃のその軌道を、散る花びらが映しだした。

 冷酷な瞳は、もう片方の手のひらで握りつぶしたひとの命のともしびを物とも思わない。


 走り込む細い足が、草履ぞうりの踏み込みに桜の凶刃きょうじんを飛び越えた。

 袴姿で振るう細身の日本刀は月の輝きを照り返す。


 ■□■□


 例えるなら、急ブレーキを踏まれた車内にいたような衝撃にガクンと身体が揺さぶられました。


 白昼夢はくちゅうむなんて言葉が軽いくらい。

 頭の中にダイレクトに流れ込んできたような映像に、私は今その場にいたかのような錯覚さえ覚えそうです。


 目の前の桜の樹、幹の焼け跡、私たち三人の手。


 ゾッとするような白い鬼の冷たい瞳。


 細身の日本刀を振るい、強い意志を感じさせる巫女。


 命に代えても守りたい物がある、男の決意の顔。


 思い出したのは古くから受け継ぐ記憶と、『力』。

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