罪悪感
鬼って。
「鬼って聞いてもピンと来ないだろ」
私の顔にそれを感じたんですよね。
駆先輩もちょっと苦笑いです。
「はい。えと、桃太郎とかに出てくる、みたいなやつですか?
赤鬼とか青鬼とか……」
今、目の前にいる彼らのうちの片方が「鬼」だなんていわれても、想像が結びつきません。
「夢ででも映像として見ていてくれるとよかったんだけど、そううまくはいかないか」
「すみません」
駆先輩の言葉に謝る私に至先輩の声が追ってくれました。
「別に君が悪いわけじゃない。
でも、すごいな。
夢の中だけのものだと思っていた『桜の樹』がこの目の前にあるなんて」
その瞳は懐かしいものを慈しむような、愛しい人に会ったような優しい眼差し。
まつ毛長いな、至先輩。きれいな瞳です。
つい見つめてしまった横顔に、急に恥ずかしさを感じて視線を逸らしちゃいます。
その視界の隅に入る大きな手。
「あっ」
思わず私のあげた声に、樹に伸ばした駆先輩の手が止まっちゃいました。
「あれ、だめ?」
私が触れないってだけで、他の方もこの桜が怖いわけじゃないですものね。
「いえ、すみません。
何でもないんです」
鬼が付けた幹の焼け跡。
鬼に取り込まれた仲間の男性。
日本刀を持った巫女。
桜の樹
「あの……。
白い鬼がお二人のうちのどちらかなら、もうどちらかは鬼に取り込まれた仲間の男性、ってことですか?」
「うん。俺たちはそうだと思ってる。
輪廻転生っていう物があるのなら、取り込まれて同化した二つの魂みたいなものが一人の体内から双子として生を受けたんじゃないかって。
突拍子もないだろ?」
笑う駆先輩の顔は全然このことをバカバカしいなんて思ってはいない顔です。
ちょっとチャラい感じの駆先輩がいうからこそ、このことはかなりお二人の中では確定された事実として認識されているみたいに感じちゃいます。
それじゃあ、あの
「あの日本刀の巫女は」
「君、だと思うよ。
その左手のここといい、ね」
まっすぐに貫くような至先輩の視線に、ギュッと握る左手は熱く熱を発しているように感じます。
今なら、触れるかも。
今なら分かるかも。
忘れていた大切な何かを、思い出したくなくて。
その事にずっと、罪悪感を持っている。




