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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第4章 禍津會のリーダー編

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第87話 えっぐ

 










「暇じゃぁ……」


 マカはふわふわと宙に浮かびながら、退屈そうにつぶやいた。

 風に合わせて足先にまで届く白い髪が、ふわふわと遊んでいる。


 色々な姿勢をとるものだから、実りすぎともいえる胸部も柔らかく揺れ動く。


「誰にも認識されないというのも、困りものじゃな。まあ、認識されたらされたで大変じゃが」


 他人から認識されて初めて自己というものを確立できるが、マカの場合はそれができない。

 今は、思念体と呼べるような、はっきりと存在がしていない状態である。


 無論、頑張れば実体化もできるのだが、あまりそれは好まない。

 正直に言うと、彼女はとても嫌われていた。


「と言っても、別にわらわのせいじゃないと思うんじゃが……」


 ぶすっと頬を膨らませるマカ。

 彼女は、よくわからない存在だ。


 たとえば、人と人の間で生まれた子は人間である。

 エルフならエルフ、ドワーフならドワーフ。


 異種族同士でも、ハーフエルフであったり、ハーフドワーフであったり。

 はっきりと、その存在が何なのかということは分かる。


 だが、マカはそれが分からない。

 そもそも、自分が誰から生まれたのか、どういう種族なのか、それが判明していないのだ。


 だが、強大な力があった。


「じゃから、攻撃されたのかのう……」


 悲しそう……というよりは、不思議そうに首をかしげるマカ。

 人間は、理解できないものを恐れ、遠ざけようとする。


 種族も分からないマカは、まさしくその排斥の対象となった。

 加えて、その強大な力を、彼女は他者に分け隔てなく与えようとした。


 必要としている者に、過大ともとれるほどの強大な力を。


「わらわは善意でやったのにのう。それに、奴らも喜んでおったのじゃが……」


 不満を露わにするマカだが、これは微妙に真実とは異なっている。

 強大な力を与え、受けた者が喜んでいたのは事実だ。


 当たり前だ。自分の思い通りに事を進めることができるようになるのだから。

 基本的に、マカが与える力は暴力である。


 そのため、むかつく奴に復讐するためであったり、あるいは跡目争いをしている兄弟を殺すためであったり。

 まあ、こんな怪しい存在に力を求めてくる者は、だいたいが後ろめたい者であった。


 じゃあ、それは『困っている人を助けてやりたい』という気持ちを、マカが持っていたと言えるだろうか?

 それは断じて違う。


 彼女は、その身に余る強大な力を手にした人間が、壊れていく様が好きだった。

 退屈しのぎにはちょうどいい面白さがあった。


 所詮他者から与えられたかりそめの力でしかないのに、それが本当に自分のものだと錯覚して図に乗った人間たち。

 最高のタイミングでマカが力を取り上げてやれば、何ともみっともない醜態をさらしてくれて、笑わせてくれた。


 彼女から力を借りた人間の末路は、どれもこれもロクでもないものばかりだった。


「今は封印されておるから、昔のようなこともできんしのう……」


 それさえなければ同じことをしていたという発言だ。

 マカはそのあまりにも悪辣な趣味のために、封印を施されていた。


 それは、強大な力を持つ彼女でも、すぐに破壊できないほどの立派な封印だった。

 まあ、これをするための数千という人間が犠牲になっているのだから、それも当たり前か。


 無論、マカもこの状況を受け入れ続けているはずもなく、着実に封印を弱めていっている。

 あとどれくらいかかるかは分からないが、確実にいつかは封印は破壊されることになっていた。


「それまでの間がのう……。退屈で死にそうじゃ」


 他の誰にも認識されない思念体となって、ふわふわ浮きながら世界を見て回るというのは、なかなか面白い。

 世界には、毎日いつでも誰かが絶望している。


 それを見るのは、楽しい。

 だが、自分で人間を絶望に追いやれないもどかしさというものを、より強く感じてしまう。


 暇つぶしに見ないわけにはいけないのだが、そうすると今の封印されている状況がより口惜しく感じる。


「……わらわと同族、同類がいればのう」


 ポツリと小さく呟かれたマカの言葉は、彼女の本当の願望を表していた。

 端的に言えば、友人と呼べる存在。


 パートナーでも、同志でも、呼び方は何でもいい。

 ただ、自分という存在を受け入れ、理解してくれる人がいてほしい。


 マカ自身、意識的にその欲望があるということを認識しているわけではない。

 無意識的に、そんな欲望があった。


 仮に、彼女と同じような人がいれば、ここまで破綻的な性格はしていなかったかもしれない。


「クソ! 離せ! 何なんだお前らは!?」

「ん?」


 ふわふわと浮いて、風の流れに身を任せていると、そんな怒声が聞こえてくる。

 まあ、人が誰かに怒りを抱くことなんてそこらじゅうで毎秒起こっていることなので、大したことではない。


 だが、かなり切羽詰まっているような声音だったため、マカの気を引いた。

 そちらに行けば、栄養状態が良さそうなガッチリとした体格の男が、複数の武装した男たちに囲まれていた。


 この世界では見ることのない、スーツというものを着用していた。


「あー……転移者か。そう言えば、わらわから力を受け取った奴も多かったのう。このような扱いを受けていれば、当然か」


 マカは、当然転移者という存在を認識している。

 別の世界からやってくる人間たち。


 望んでこちらに来ているわけではなく、またこの世界での運命は、往々にして悲惨なもの。

 一言で言えば、かわいそうな人間たちだ。


 当然、そんな不条理に巻き込まれた転移者たちは誰もが怒りや恨みを抱くものであり、マカに力を欲してきたものは多かった。

 無論、誰もが力に飲まれて凄惨な末路をたどったわけだが。


 だから、色々と楽しませてもらったマカとしては、この世界のほとんどの存在と違って、転移者に好意的であった。

 彼女の好意は相手を破滅させるというのは置いておく。


 引っ立てられていた転移者の男が声を張り上げる。


「拉致しやがって……! け、警察に通報するし、裁判所に訴えてやる!」

「どうしますか?」

「あー……」


 面倒くさそうに声を上げる男。

 警察とか裁判所とか弁護士とか議員とか、転移者がよく使う言葉である。


 まったくもって理解できないが、あちらの世界では強い力を持っているのだろう。

 だが、この世界では完全に無力である。


 粗雑な剣を、男の腹に突き刺した。


「ぎゃあああああああ!?」


 悲鳴を上げて地面をのたうち回る男。

 正直、全然深く刺していない。


 皮膚を多少破くほどである。

 それでも、人から刺されるという経験をしたことがない男は、大騒ぎする。


 これも、転移者が下に見られる理由だ。

 ちょっとの怪我で、大騒ぎする。


 死に至る確率はほとんどないというのに、だ。

 軟弱にもほどがある。


 のたうつ男を、冷たく見下ろす。


「適当に治療して檻の中にぶち込んでおけ。結構ガタイもいいし、鉱山奴隷には使えるだろ」

「はっ。さっさと歩け、デブ」

「ひっ、ひいいっ!」


 すぐに引っ立てられる男。

 今度は、抵抗しなかった。


 顔一面に恐怖を貼り付け、悲鳴を上げながら連れていかれた。


「あれもすぐ死ぬじゃろうな。封印されていなかったら力を渡してやっても面白そうなのじゃが……」


 そんなことを考えながらまた移動しようとすると、会話が聞こえてきた。


「なあ、あいつはどうなっている?」

「さあな。あのクソのお気に入りだし、ろくでもない目に合っているのは事実だろ」

「あの転移者もかわいそうになあ。何だったら、気に入られなかったら、さっさと殺されて楽になれていただろうに」

「まさに生き地獄だもんな」

「……ほーん」


 何だか随分と心惹かれる話である。

 マカはその『クソのお気に入り』とやらに会いに行くことにした。


 高度な警備、複雑な建物内部構造などがあるが、思念体であるマカにとってはザルである。

 ふわふわと飛んでいき、建物の奥深くの中枢にやってきて……そこに着いた。


 光が一切入らない、暗闇の世界。

 ろうそくの火で、うっすらと周りが見えていた。


 湿度も高く、水滴が落ちてピチャピチャと耳障りな音を立てている。

 地面は固く冷たい石がむき出しで、ずっとここにいたら身体のいたるところが痛みを覚えるだろう。


 そんな場所に両手足を鎖でつながれ、血みどろになっている男がぐったりと頭を下げていた。


「……えっぐ」


 さすがのマカもこの状況は引いた。




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