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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第4章 禍津會のリーダー編

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第82話 噴き出る

 










「で、まあ残念なことにお前の仲間は多分フルボッコにされるわけだけど、まだ続けるか? 今なら謝罪と賠償で許してやらんこともない」

「俺たちを甘く見すぎじゃないか?」


 奴隷ちゃんがいることで強気に出る理人。

 だが、アマルディの顔に焦りの色はない。


 倒される愛国者たち。

 しかし、彼らを補って余りあるほどの人が、ぞろぞろと現れては奴隷ちゃんに襲い掛かっていた。


 それなりに戦えるようで、相変わらず彼女にダメージを与えることはできていないが、あっけなく倒されるということも少ない。

 まあ、確実に潰されてはいるのだが。


「どうだ? 同志は多いんだ。いくら強いとはいえ、この数が相手ならどうにもならないだろう。あんな激しい戦いを続けていれば、体力がなくなって動きも鈍るだろうしな」

「……それはどうだろう?」


 奴隷ちゃんがダウンする未来がまったく想像できない。

 一か月くらい不眠不休で激しい戦闘を続行できそうなほど、彼女は人外じみている。


 アマルディは奴隷ちゃんの体力切れを狙うようだが、はたしてうまくいくか……。

 まあ、うまくいったらそれは困るので、外れていてほしいが。


「ただ、まあ高みの見物を決め込む場合じゃないことは分かった。俺も戦うとしよう」

「奴隷ちゃんと?」

「お前と」

「……なぜだ」


 完全に高みの見物を決め込むつもりだった理人は、天を仰ぐ。

 ろくに戦えないというのに、どうして最近は戦闘が多くなるのだ……。


「まあ、もう終わっているんだがな」


 しかし、理人はにやりと笑った。

 スルリと植物のツタが地面から伸びて、アマルディの足首に絡みつく。


 ガッチリと止められ、身動きが取れなくなる。

 さらに、その地面が柔らかい沼に変貌する。


 底なし沼だ。

 走ることもできないので、アマルディはただ地面に飲み込まれていった。


 最後に、不敵な笑みを残して。

 それに多少違和感を覚えつつも、理人は満足げに頷いた。


 勝った。

 話をしている最初から、仕込みは済ませていた。


 話し合いで解決できないと悟った途中からではなく、最初からである。

 まったくアマルディのことを信用していなかった結果だ。


「さすがマスター。勝負が始まる前に勝負をつける。姑息です」

「それは完全に罵倒だぞ、お前」


 戦いながらも理人にツッコミを入れる奴隷ちゃん。

 彼女も直に片付けるだろう。


 すでに、多くの愛国者たちが地面に倒れている。

 だが、リーダーを倒されたというのに、平然と戦い続けていることに少々驚かされる。


 思っていたよりも、仲間意識というものが低いのだろうか?

 その疑念は、アマルディの声で解決させられた。


「転移者らしい攻撃だな。みっともなく、みじめだ」

「なん、だと……?」


 当たり前のように地中から現れたアマルディ。

 かなりシュールな光景だが、あまりにも想定していなかった出来事に、理人は愕然とする。


 馬鹿な……確実に地中で窒息死するはずなのに……。


「俺にそんな生半可な攻撃は効かないな、転移者。残念だが、お前はここで死ぬ」


 アマルディはそう言うと、理人に斬りかかった。










 ◆



「うおおおお!? 死ぬっ!?」


 猛然と近接戦闘を仕掛けてくるアマルディから、何とか逃げ続ける理人。

 基本的に彼の戦い方は、遠距離からの魔法攻撃である。


 斬った張ったの戦闘は、まったく向いていない。


『まあ、貴様は身体がボロボロだからのう。そんな激しい動きをしたら、また血反吐を吐くぞ?』

「(そんなのんびり言うな! むかつく!)」

『こりゃ理不尽じゃ』


 理人は汗を流しながら、自分の脳内で響く声に反論する。

 彼女はマカといい、理人に憑りついている、なんだかよくわからない存在だ。


「(ヘルプ! 奴隷ちゃんが来る前に死ぬ!)」

『いやー、わらわの力って基本的に魔法系統じゃし、こいつとの相性は最悪じゃね? まあ、限界というのは誰にでもあるものだから、とんでもなく強大な魔法を撃てば、効くかもしれんがの』


 マカはアマルディの力について、すでに理解していた。

 たまに、理人が苦し紛れに投げる石。


 それらはすべて剣ではじいたり避けたりしているが、一方でより殺傷能力の高い魔法攻撃は、避けることもせずにそのまま突っ込んでいる。

 アマルディは、魔法攻撃を無効化できる力を持っている。


 それ自体が魔法なのか、特別な力なのか、それともアイテムによるものか。

 さすがにそこまでは分からないが、魔法使いにとっては強敵であることには間違いない。


 加えて、近接戦闘能力も高い。

 力に頼り切って胡坐をかいていたわけではないのだろう。


 すなわち、理人に勝ち目はゼロだった。


「(じゃあ、お前の契約に従えなくなるぞ! 俺、ここで死ぬんだもん!)」

『いや、わらわの目的はきさまがここで死んでもちゃんと果たされるぞ。わらわにとって、どちらに転んでも問題ない。死んでよし』

「(最低だこいつ! 手を組む相手間違えた!)」

『まあまあ、そう言うでない。貴様のとっておきの力があるじゃろうが』


 マカの言葉に、ピクッと身体を硬直させる理人。

 そこを隙と見てアマルディが斬りかかってくるので、また慌てて避ける。


 とっておきの力。

 切り札ともいえる力。


 そんなものがあるんだったら最初から出しとけや、と思うタイプなのが理人である。

 そのため、そんな使い勝手がいいものがあったとしたら、彼はとっくの昔に使っている。


 それをしていないということは、できないということ。

 使い勝手が、非常に悪いのだ。


「(で、でもなあ……)」

『今の貴様にえり好みする余裕はないと思うが』

「死ね、転移者!」

「ひょえっ!?」


 マカの言う通り、アマルディの攻撃は苛烈を極めていた。

 過去の奴隷時代の拷問で色々と身体的なダメージが残っている理人は、すでに息も絶え絶えだ。


 戦いながら誘導されていたのだろう。

 奴隷ちゃんがいる場所からは離れた場所。


 加えて、アマルディの味方がぞろぞろと現れた。

 こんなに仲間がいたのかと、驚かされる。


「(……俺を殺すためだけにこれだけ用意したの? 馬鹿じゃねえの?)」


 理人はそう思った。


「さあ、もう逃げ場はないぞ。さっさと死んでくれ。あっちの奴隷の対応もしないといけないからな」


 ズドン! ズドン! とすさまじい音が鳴っている方を見るアマルディ。

 顔色が悪い。


 それはそうだろう。

 あの小さな人間一人が発せられる音ではない。


「お前ら程度じゃあ、絶対に奴隷ちゃんに勝てないだろ。あっちにやったお前の仲間、死屍累々だぞ」

「どれほど強くても、やりようはいくらでもある。さすがに体力も消耗しているだろう。仮に倒せなかったとしても、お前を出汁にしてやればいいだけだ。ずいぶんとお前に懐いているようだからな」

「それはそう。何とか懐かないようにしてくれないか?」

「いや、俺に言われても知らないが……」


 どうして奴隷から解放すると言っているのに、頷いてくれないんだ……。

 理人は頭を抱える。


「悩んでいるようだが、逆にここで死ねていいんじゃないか? 悩まされることもなくなるだろう」


 軽薄に笑うアマルディ。

 どれほど理人を殺したいのか。


 奴隷ちゃんもそうだが、彼も彼で分からないと思う理人。


「あー……別に死ぬのはいいんだが、まだやっていないことがあるからなあ。悪いけど、死ぬのは後回しにさせてくれ」

「この状況で、死から逃れる方法があるとでも?」


 頭をかきながら言えば、アマルディは誇示するように周りを示す。

 多くの愛国者たち。


 そして、何より魔法攻撃が効かず、高い戦闘能力を誇るアマルディ。

 絶体絶命であることは間違いない。


 だから、理人は使いたくなかった力を使った。


「ああ、お前らは……死んでくれ」


 そう言って、常時片目を覆っていた眼帯を外した。

 次の瞬間、何かが噴き出た。



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