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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第4章 禍津會のリーダー編

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第81話 知らん、こっちが聞きたい

 










 ごうごうと燃え盛る理人の家財。


「しくしくしくしく」


 理人はそれを見て静かに泣いていた。


「明らかな攻撃ですね。出てきてください。手てこなかったら、一人ずつできる限りの苦痛を与えたから殺します」


 冷たい奴隷ちゃんの言葉に、それを実行した彼らがゆっくりと現れる。

 ぞろぞろと現れたのは、この国を憂う【愛国者】たちである。


 そんな彼らを率いるのが、アマルディであった。

 奴隷ちゃんが何の感情も写さない目で見据える。


「そんな物騒なことを言われなくとも、俺たちは逃げも隠れもしないさ」


 アマルディはそう言って腕を広げる。

 逃げも隠れもしないというアピールだ。


 まあ、襲撃を仕掛けている方なのだから、彼らが逃げるというのはおかしな話なのだが。


「目的をお伝えください。金銭的なものなら、多少なら融通することができますよ」

「ああ、それはいらない。俺たちは金を目的に行動しているわけではない」


 奴隷ちゃんは賊だと思っているようだ。

 それはとても心外だ。


 アマルディはそう思った。

 賊などという、自分のために他者の命と財産を奪う悍ましい存在ではないのだ。


「俺たちは、禍津會に苦しめられているこの世界の人々を救いたい。その想いで結成され、行動してきている。お金なんかじゃ振り向かない」


 何と高潔な思想なのだろうか。

 他人を救いたいと思い、それを実行に移すことができるのは、確かに美徳である。


 アマルディのやっていることが、その言葉通りであれば、だが。


「金ではないなら、では何が目的ですか?」

「もちろん、禍津會に協力している転移者を、そんなことを止めるよう説得することだ」


 自信満々に胸を張るアマルディ。

 彼に従う人々も、誇らしげにしている。


 しかし、つい先ほど奴隷ちゃんたちが逃げなければ、間違いなく命を落としていたであろう攻撃を受けている。

 説得とは、到底思えない。


「まず、マスターは禍津會の構成員ではありませんし、協力もしていません。それに、先程の攻撃は、間違いなくマスターを殺しに来ていた。言っていることと矛盾するのでは?」

「何も矛盾していない。禍津會は恐ろしい組織だ。露見した際に、その時近くにいる人を傷つけるかもしれない。不安の芽だ。その芽は、早々に摘むのが良いと思わないか? 不安がなくなるんだ」


 痛いところを突かれたという雰囲気すらない。

 それが当然なのだと、明らかにおかしな論理を本気で信じていた。


「そして、説得できないのであれば、残念ながら殺すだけだ」

「しくしくしくしく」


 かなりシリアスに冷たいことを言っているアマルディ。

 恐怖に震えても不思議ではないのだが、理人はまだ家財を失ったショックでさめざめと泣いていた。


「最初からそのつもりだったのでしょう。論外ですね」

「話が早くて助かる。……それはいいんだが」


 頬を引きつらせながら、アマルディは視界に入れないようにしていた理人を見る。


「ずっと泣くのは止めてくれないか?」

「しくしくしくしく」

「悲しんでいるマスター、かわいいです」

「えぇ……」


 かなり特殊なようで、それなりに困惑するアマルディ。

 すぐに気を取り直して、理人たちを睨みつける。


「さて、ともかく、この国を救うため、協力してもらえない転移者には消えてもらおう。やれ」


 アマルディの言葉に従って、【愛国者】たちが一斉に襲い掛かった。









 ◆



 愛国者とは言っているものの、実態は微妙に断る。

 確かに、彼らはこの王国を愛していると言える。


 大切に想っているし、守りたいとも思っている。

 だが、守るということだけを考えるのであれば、苛烈なまでに転移者を追い詰める必要はないだろう。


 今まで、無抵抗で無力な転移者、それを庇う者たちすらも虐殺してきた。

 そのことから分かるように、彼らの行動原理の多くを占めているのは、【復讐】である。


 禍津會……転移者たちが反旗を翻し、多くの人を殺して街を破壊した。

 それに対する復讐だ。


 望月が最も危惧していたそれ。

 復讐には復讐を。


 その連鎖を止めることができず、また復讐。

 終わりのない負のスパイラル。


「まあ、それも違うのでしょうけど」


 次々に襲い来る愛国者たちをいなしながら、奴隷ちゃんはそう呟いた。

 そう、その復讐というのも、彼らの行動原理にはふさわしくない。


 実際、彼ら自身は復讐だと思っているが、根底は異なっている。


「要は、転移者が好き勝手していることと、転移者に上に立たれることが、我慢できないだけだろうな」


 ようやく泣くことから立ち直った理人が呟く。

 結局はそれであった。


 今まで下に見ていた転移者が、搾取されるだけでしかなかった転移者が、不敬にも噛みついてきたのである。

 しかも、それはそれなりに痛かった。


 それが、彼らの癪に障った。

 格下だと思っていた存在から噛みつかれるほど腹立たしいことはない。


 それに、転移者が最下層にいるからこそ、色々と成り立っていたものがあるのだ。

 それを根底から覆されるのは、非常に具合が悪い。


「この世界はそれでうまく回っていたじゃないか。勝手に行動されても困るんだよ」


 アマルディは戦闘に参加せず、理人と和やかに会話をする。

 その内容は明らかに邪悪だが。


「そう言っているあんたは、禍津會とは戦わないのか?」

「あいつらを倒すのは、国の役目だろう。主要都市を落としているんだ。それも個人で。戦ったら、タダでは済まないのは目に見えているからな。それは困る」

「へー、勝てないっていうわけではないんだな」

「当然だよ。俺たちは強いからね」


 誇らしげに胸を張るアマルディ。

 その力で無抵抗な転移者を、数の暴力で虐殺していれば、言うことはないと思うが。


 だが、それを白けた目で見ている理人は、ちらりとその頼りになる仲間たちを見る。


「……あっちはもう終わりそうだけど?」


 奴隷ちゃんが地面を踏み砕く。

 小さな人間のやることだ。


 なのに、それだけで大地が悲鳴を上げるように揺れた。

 多くの愛国者たちが宙に打ち上げられる。


 そのまま受け身も取れずに地面に叩き落とされれば、それだけで動けなくなる。

 魔法や武器による攻撃もある。


 ひ弱な奴隷に対するレベルの攻撃ではない。

 それらは確実に奴隷ちゃんの身体に届いた。


「……全然効いていないんだけど。てか、刃物が通らない人体ってなに?」


 唖然とするアマルディ。

 魔法攻撃がノーダメージというのは、まだ納得できる。


 何かしらの手段で防御力を高めていたら、それもありうるだろう。

 だが、鋭い刃を大の男が思いきり振るって、人肌にかすり傷もつけられないというのはどういうことだろうか?


 ガキン! という、人体を斬ったとは思えない音が出ているが。

 そして、当然のように無傷の奴隷ちゃん。


 カウンターにワンパンし、ぶっ飛ばしていた。


「……何あの奴隷」

「知らん」


 アマルディの問いかけに、理人は真顔で答えていた。

 こっちが聞きたい。




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