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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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第75話 も、望月ぃ!

 










「という感じで、王族にも襲撃がいっているから、正直禍津會の討伐の指揮なんてできないほど混乱しているはずよ。だから、これでおしまい。あなたを助けに来てくれる仲間は、誰もいないわ」

「そ、んな……」


 倒れながら、望月は絶望する。

 禍津會に、こんなにもうまく掌の上で転がされるなんて……。


 追っていたはずで、追い詰めていたはずだった。

 しかし、それは全部夢想。


 信じていた人に裏切られるという最悪の結果で終わるのであった。


「でも、うまくいったな。俺たちを目の敵にする高い戦力の勇者を潰し、王女を弑して混乱を引き起こす。口で言うのは簡単だが、よくもまあこんなにうまくいったと思うよ」

「雪がうまくやっているかは分からないけどね。さっさとここから逃げ出すべきだわ」


 雪が失敗していたら、本当に望月の言う通り、ここに冒険者たちが集まるだろう。

 正直、それでも負けるつもりはない。


 大都市を一人で落とした精鋭たちが、複数いるのだから。

 しかし、集められた冒険者たちも、また精鋭。


 どうせ潰すなら、しっかりと準備をしてからの方がいい。

 それに……。


「でも、リーダーもいるんだもの。うまくいかないはずがないわ」

「そうだな」


 相変わらずの懐き具合だな、と蒼佑は苦笑いする。

 まあ、彼もリーダーに対してかなり熱い信頼を向けているので、人のことを言える義理はないのだが。


「それじゃあね、優斗。これから、頑張って復讐をするから、あの世から見ていてね」


 ドロリと濁った瞳で、そう告げるアイリス……もとい、愛梨。

 ひらひらと手を振って、蒼佑と共にこの場を去って行った。


「アイリス……」


 致命傷を負っている望月はそれを引き留めることすらできず、力なくその背中に名前を呼びかけ……動かなくなった。










 ◆



 俺は必死に走っていた。

 それはもう必死に。


 だって、そうだろう?

 背後から人を焼き殺せるだけの業火が、いくつもいくつも飛来してくるのだから。


 死に物狂いで逃げるのも当然だ。

 まあ、俺って内臓とかもダメージあるから、そんなに体力ないんですけどね。


 だから、本当ならとっくに焼死体になっていることだろう。

 マカの力で、何とか防いでいるけど。


『わらわの使い方が荒いのぅ……』


 お前の使い道ってこれしかないじゃん。

 普段から俺にちょっかいをかけ続けているのだから、これくらい許せ。


「すっごくすばしっこいわねぇ、あなた。逃げるのが得意なのかしらぁ?」


 呆れたように、しかしどこか面白そうに女――――響は笑った。

 包帯を全身に巻いていることから、かなり異質な見た目である。


 転移者であることから、彼女がとてつもなく苦労したことは、その見た目からして分かった。

 望月みたいなタイプが異例だもんなあ。


 だけど、こんな全力で殺しにかかられるのは困る……!


「本当に逃げたいことからは逃げられないけどな」


 今回みたいな。

 逃げようと思ってもなんだかうまくいかない。


 何かこういった現象の名前とかないのだろうか?

 迫りくる業火をマカの力で消しながら、俺は嘆く。


「でも、こんなにも捉えられないのは初めてかもしれないわぁ。自信をもっていいと思うわよ」


 パチパチとやる気のなさそうな拍手を向けてくれる。

 じゃあ、もうそろそろ諦めていただいていいですかね?


「まあ、あなたも凄いけどぉ……あっちはもっとすごいというか……えげつない?」


 包帯で表情を伺うことはできないが、声音的に随分と引いているような感じだ。

 まあ、俺もちょっと引いている。


 視線を向ける先には、禍津會のもう一人の女である杠と、特級戦力である奴隷ちゃんがいた。

 戦闘……をしているわけではない。


 一方的な追いかけっこである。


「むう。さっさと殺されてください。面倒くさいので」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理」


 奴隷ちゃんが追いかけ回し、杠が逃げる。

 時折奴隷ちゃんが攻撃を仕掛けるたびに、地割れが起きて街が破壊されていく。


 ……おかしいな。この子、魔法も武器も使わず、素手で戦っているはずなんだけど……。

 巨大な都市を一人で落とした禍津會のメンバーも、逃げの一択だ。


 杠はあまり表情は変わっていないが、冷や汗は大量に流しているし、目の下の濃い隈がさらに濃くなっている気さえした。

 ……大都市を一人で破壊しつくした禍津會の構成員を、一対一で追い詰める奴隷。


 なにこのパワーワード。


「マジで無理。響、代わって」

「あなたが逃げ一択になるような相手を、私が引き受けられるはずがないでしょ。私はこのままこの人と熱いデートをしているから、時間稼ぎしておきなさい」


 デート……?

 人を殺そうと追いかけ回すことって、この世界だとデートって言うんだ。


 へー。

 ……こいつ、転移者だったらこの世界の人間じゃないよな?


 こいつのいた地域だと、そういうバイオレンスなデートが流行っていたのだろうか?

 恐ろしい……。


 奴隷ちゃんの猛攻を、何とかという状態ではあるが逃げ続けている杠。

 彼女の身体は、バチバチと小さな電気がほとばしっていた。


 なるほど。要領はよくわからないが、電気を身体にまとわせて、身体能力を無理やり引き上げているのか。

 確かに奴隷ちゃんから逃げられるのは凄いと思うが、あれは後遺症がかなりきつそうだ。


「無理。身体がバチバチ悲鳴を上げている。これ以上したら死ぬ。まだ人間いっぱい殺していないのに、死にきれない」

「おかしいよね、生への執着理由が」


 死にたくない理由が人を殺していないからって、どんなバーサーカーだよ……。

 普通に死にたくないだけでいいじゃん……。


「……ああ、終わったみたいねぇ」

「んあ?」


 唐突に、響がポツリと言った。

 え、気づかないうちに殺されているパターン?


 慌てて自分の身体を見下ろすが、特におかしな点はない。


「じゃあ帰る。今すぐ帰る。さっさと帰る」

「諦めてくれるのか?」


 響はともかく、杠は今すぐにでも逃げ出すような感じだった。

 まあ、奴隷ちゃんならともかく、俺が相手なら逆に返り討ちにされるだろうから、追討するつもりはない。


「ええ。もともと、私たちはあなたを殺すつもりはないからぁ。目的は、勇者の殺害よ。それが終わったら、もうここに長居する理由はないわぁ」

「勇者の殺害……?」


 え、望月殺されたの?


「いつまで話をしているの。早く逃げる。もう無理」

「はいはい。じゃあね。またぁ」


 ひらひらと手を振って、禍津會の構成員たちは姿を消した。

 杠の方はほとんど瀕死みたいになっていたが。


 そんな、ネズミをいたぶる猫のように追いかけまわしていた奴隷ちゃんが、近くにやってくる。


「追いかけて殺しますか?」


 ……これ、本当に命じたら余裕でできちゃうのが怖いよなあ。


「いや、いいんじゃないか? それよりも、気になることを言っていた。早く望月のところに行ってみよう」


 慌てて移動する。

 戦闘の流れでかなり離れてしまったので、少し時間がかかって望月の元にたどり着いたのだが……。


「も、望月ぃ!」


 血だまりに沈む彼を見て、思わず悲鳴を上げてしまう俺であった。

 グロイ!




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