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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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第71話 望月の戦闘

 










「くっ……!」


 激しい戦闘が繰り広げられていた。

 剣を抜いて激しく動き回っていた望月が、足を緩めて仕切り直しをする。


 しかし、決して止まることはない。

 傷という傷はない。


 今戦っている相手は、攻撃手段としてはそういう人が傷つくような攻撃をしないタイプのようだった。

 では、それでどんな攻撃ができるのかというところだろう。


 正直、望月は痛みを伴う攻撃をしてもらえる方が、対応が楽だったかもしれないと思っていた。


「いやぁ、良く動くなあお前。そんなに動くと的を絞れないからやめてほしいんだが。ちょっと止まってみろよ」

「止まったら僕が一度攻撃をするのを許してくれるんだったら、そうしてあげるよ」

「ふざけろ。お前の攻撃を一度でも喰らったら、それで終わりだわ」

「それはこっちのセリフだよ。一度止まったら、君に負けてしまうじゃないか」


 戦闘中とは思えないほどの軽口の応酬をする。

 激しい命の取り合いをしているときに、軽口なんて言っている暇はないだろう。


 とはいえ、今それをしていないというわけではない。

 どちらかが気を抜いたら、どちらかが倒されるという、まさに切羽詰まった状態ではある。


 では、どうしてこんな暢気ともとれるような会話ができているのかというと、今二人は千日手のような状況に陥っているからであった。


「本当、どういう原理なんだろ、これ」


 少し前まで、自分がいた場所で水が飛び散る。

 すぐに崩れていたが、少しの間だけ球体を形作っていた。


 その水の球体は、すべて的確に望月の顔の辺りに作られていた。

 少しでも立ち止まれないのは、これが原因だ。


 一度でも止まれば、すぐに顔を水球が覆い、窒息してしまうことだろう。

 そして、水だから掴んで引きはがすこともできない。


「リヒトさんのこともあるから、早く決着をつけたいんだけど……」


 チラリと周りを伺うが、そこに理人と奴隷ちゃんの姿はない。

 相手も男――――蒼佑以外は消えている。


 遠く離れた場所から、かすかに戦闘音が聞こえてくる。

 今、禍津會の二人――――響と杠を相手にして理人が戦っているのだ。


 もし、どちらか一人が残っていれば、すでに望月は倒れていただろう。

 それほど、禍津會の構成員の能力は高かった。


 さすがは大都市を一人で落とせる実力者だ。

 その力を、転移者の地位向上のために使ってくれればどれほど、と思うが、それは今更考えても仕方のないことだった。


 ともかく、一人でもてこずるような相手を、理人たちは二人相手にしているのだ。

 すぐにでも助けに行かなければならない。


 理人たちが倒されてしまえば、三人を相手にして戦う必要がある。

 さすがにその状態から勝つ自信はなかった。


「なかなか近づけないのがもどかしいね……」


 動くスピードは、まだ蒼佑が動きを見せていないことから、はっきりと比べることはできない。

 しかし、戦い方を見ていると、望月よりも早く動けるとは思えなかった。


 ならば、すぐにでも接近して倒してしまうことが一番の解決策に思えるが、それが可能であれば、おそらく望月たちが出張る必要もなく兵士たちに倒されていたことだろう。

 蒼佑に近づけば近づくほど、水球の発生速度と正確性が跳ね上がっていくのである。


 今、ある程度距離を取って動き回っているから、少し前まで顔があった場所に水球ができては落ちている。

 だが、距離を詰めていくと、どんどんとそれが近づいていく。


 水滴がかからない距離にあったのが、顔に触れるまでになる。

 肩あたりに水球ができることもあったが、確実に顔全体を覆うように出来上がる。


「(きっと、視界に収めた場所に水球を作ることができるんだ)」


 魔法のない世界……いや、実際にはあったかもしれないが、触れ合ったことはなかった望月からすると、こんな能力は奇想天外だ。

 だが、強力であることは間違いない。


「で、いつまでこれを続ける気だ? 俺も魔力の消耗があるが、それ以上にお前の体力の消耗の方が激しいし、先に尽きるのはお前だぞ」


 呆れたように言う蒼佑。

 正直、この千日手はやっている本人も面倒くさいしだるいのだ。


 さっさと決着をつけたいのだが、望月は冷静だった。


「それはどうかな? 僕も鍛えているし、あと一日くらいならずっと動いていられるよ」

「そうか。それくらい時間をかけていたら、お前の仲間を殺した俺の仲間がやってきて、今度こそお前は終わりだな」


 ふっとあざ笑う蒼佑。

 時間をかければ有利になるのは禍津會の方である。


 それを望むのであれば、面倒だが付き合ってやらなくもない。

 どうせ、勝つのは自分だと分かっているからだ。


 もちろん、望月もその未来に考えが及ばないはずがない。

 それは想定できている。


 だから、彼も早期決着をしようと動いていた。


「じゃあ、そうならないように、僕も仲間を頼ろう」


 何を言っているのかと眉を顰める蒼佑。

 この男に仲間なんて……。


「アイリス!」


 今まで一切戦いに参加してこなかったアイリス。

 望月が危ない状況になっても手出ししてこなかったので、彼女のことを非戦闘員だと考えていた蒼佑。


 高められていた魔力を見て、目を見張る。

 そして、アイリスは今までずっと我慢してきて、溜めてきた魔力を解き放つ。


「人使い荒いわね……!」

「うぉぉぉっ!?」


 蒼佑の身体が浮遊するほどの、巨大な爆発が発生した。

 彼は奴隷時代以来発したことのない大きな悲鳴を上げ、空に打ち上げられたのであった。




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