第67話 禍津會の目的
ギルドに向かうと、何人かの人が集まっていた。
人というか、パーティーだな。
複数のパーティーの人々が集められていた。
そして、彼らはあまり熱心にギルドに来ない俺でも知っているほど、名の通った冒険者たちだった。
……俺の場違い感が凄い。
別にパーティーを誰かと組んでいるわけでもないし……。
俺の仲間は奴隷ちゃんだけである。
すると、疲れ切った様子のギルド職員がやってくる。
顔も蒼白で、とても悪いことが起きた後のようだ。
……いや、ルーダから聞いているから、あれなんだけどね。
「お集まりいただきありがとうございます。今ここに集まっていただいた皆さんは、我々ギルドが信頼するに足ると判断した、高い能力をお持ちになられる冒険者です」
そう言われると、何人かは胸を張っていた。
俺はその中に入らず、白い眼を職員に向けていた。
節穴かな?
俺のどこを見たらそう判断できるの?
高い能力ってなに? 俺が欲しい。
「お集まりいただいたのは他でもありません。現在、王国が攻撃を受けています。主要都市を、同時期に襲撃されました」
「国境を越えられたのか? しかし、大規模な軍勢だったら動きは遅いだろうし、すぐに気づいて対応できるだろう。数はどれくらいだ?」
かなり衝撃的な報告だが、さすがはギルドからも認められる冒険者たち。
すぐに状況を把握しようと動き始める。
俺は早く家に帰ってふて寝するために動き始めてもいいだろうか?
「非常に少ないと聞いています。少ない所は、単独での攻撃です」
「単独? それは攻撃と言えるのか? ただバカが暴れているだけだろう」
「ってことは、外国の攻撃ってわけでもなさそうね。どうして私たちを集めたのかしら?」
「そうだ。緊急事態だと聞いたからわざわざ来てやったんだぞ」
職員の報告に、冒険者たちは白けた声を上げる。
それはそうだ。
一人で何ができるというのか。
確かに個の力が強ければ脅威になりうるかもしれないが、街を単独で落とせるというのは、もはや国内全体で数えられるほどしかいないだろう。
……いや、身近にできそうな人いたわ。
奴隷ちゃんっていう、何で奴隷をしているのかさっぱり分からない人なんだけど。
そんなことを考えていると、職員がポツリと呟いた。
「……落ちました」
「は?」
「主要都市は、ほぼ落ちました。征服を受け支配されているという意味ではありません。壊滅です。街は破壊されました」
「な、に……?」
愕然とする冒険者たち。
職員の顔色も悪い。
誰も信じられていないし、そもそも職員も信じられない気持ちでいっぱいなのだろう。
しかも、征服ではなく破壊が目的だというのが質が悪い。
征服もダメなんだけど、そっちはまだそこを利用したりするために、むやみに攻撃をしたりはしないだろう。
一方で、そんな気持ちを一切持っていなければ、徹底的に攻撃を続けることになる。
街や文化は破壊され、そこに住まう人々も……。
……あれ? なんだかそんなことを仕出かしそうな奴らを知っている気がするぞ?
「主要都市には、常備軍もいるはずだろう?」
「全滅です」
「そんなバカな……」
小さな街ならまだしも、大きな街にもなると、一定の兵が配置されている。
治安の維持や外国からの攻撃があった際に機動的に動くことができるようにという意図だろうが……。
そんな正規軍でも敗北したということは、よほどの敵だということだ。
想像するのは難しいだろう。
「攻撃が始まって一日も経っていないのに、ほとんど単独のごく少数で、主要都市が軒並み落とされたというのか!?」
「信じがたい話ですが、事実です。その街のギルドとの連絡が取れなくなりました」
……こりゃ、ルーダも慌てて俺のところに来るわけだ。
巻き込まないでほしいというのが一番思っていることだけど。
クソ! 外国に逃げるべきだったか……!?
「その攻撃をしている奴らの情報は?」
先程から静かにしていた望月が問いかける。
うわぁ、すっごい真剣な顔。
女の冒険者の中には、見ほれている者もいるほどだ。
俺はすっごく怖いのだが。
尋ねられた職員は少し口ごもるが、協力を依頼する立場なのに隠し事はできないと判断したのか、口を開いた。
「……【禍津會】。彼らは自分たちのことを、そう呼んでいます」
うわっちゃーお。
「禍津會……!」
「なんだその組織? 聞いたことないぞ」
「私もよ。最近興った犯罪組織かしら?」
一人険しい顔をするのは望月だけで、あとは全員がはてな顔だ。
俺もそっちの能天気な方でいたかった……。
なまじ知っているだけに、冷や汗が流れる。
「最近できたような弱小零細犯罪組織が、王国の主要都市を一気に破壊することができるか?」
「彼らには可能です」
当然と言えば当然の疑問に、望月がはっきりと断言する。
勇者として名高い冒険者の言葉に、他の奴らは疑問を呈すこともできない。
とはいえ、信じられないと言うのも事実だろう。
それを補足するように、望月が口を開いた。
「僕たちは、一度禍津會のメンバーと遭遇し、戦闘をしています。僕たちは、手も足も出なかった」
「そいつの言っていることは事実だ」
望月の言葉を補うように支持するのは……えーと、誰だ?
ああ、そうだ。前回イリファスの支部を潰そうとしたときに参加していた冒険者の……レイスだ。
今も元気にイリファスに攻撃をし続けているらしい。
怖い。
レイスに続いて、二人のよく顔の似た男たちも頷いていた。
えーと……久々の登場だから分からん。
「死神にゴールデール兄弟もか? お前らで勝てないって、そいつらはいったい何なんだよ!?」
ああ、兄弟はそんな名前だったか。
しかし、レイスの二つ名ってめちゃくちゃ仰々しいな。
彼らは冒険者の中でもかなりの実力者らしく、周りの冒険者たちは非常に驚いていた。
「最近まで、表に出てこないで結成されていた裏社会の犯罪組織。ひそかに人を殺したり村を滅ぼしたり、暗躍していたようです。ですが、まだほとんど分かっていません。分かっていることは、その組織の名前と、構成員が少ないということ、我々に対して強い敵意を抱いているということ。そして、一人一人が一騎当千の力を持っているというだけです」
「最後が厄介だよなあ……」
ポツリと誰かが呟いた言葉に全面的に同意する。
数っていうのはとても重要で、だから人は群れて仲間を作ろうとする。
理論的に説明することは難しくても、本能的に理解している。
基本的に、数が多い方が勝つのだ。
しかし、唯一の例外が、卓越した個の能力。
数の差をものともしないほどの高い能力があれば、たとえ寡兵でも戦うことができる。
無論、そんな高い能力を持っていて少数派にいるというのは珍しいことだ。
その珍しい連中がそろいもそろっているのが禍津會ということで……。
「目的は結局何なんだ? そこを何とかすれば、事態を収束させることもできるんじゃないか?」
「この世界の破壊」
望月は隠すことなく言った。
「禍津會の目的は、この世界の破壊と人々の殺戮です」
「そんなむちゃくちゃな……」
「どうしてそんなことをされなきゃいけないのよ!」
「それは……」
さすがに言葉を詰まらせる望月。
善良で、しかも転移者の地位向上のために頑張ってきた彼だからこそ、これから先は言いづらいのだろう。
「おそらくは……」
後を引き継ぐように口を開いたのは、職員だった。
「禍津會が、転移者だけで構成された組織だからでしょう」
あーあ、言っちゃった。




