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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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第59話 ふっ、雑魚が

 










「全部分かっているんですけどね。あれで隠せていると思っているのが、その程度だということを示しています。この国の未来は暗いですね」


 一人で人けのない場所を歩きながら、ベアトリーチェは呟く。

 本来、一人で行動することは許されない立場だが、王城の中でも特に警備の固い場所がここである。


 要人たちは、自分の身の安全を守るためなら、お金を使うことを惜しまない。

 まあ、王族もいるような区域になってくると、警備が厳しいのは当然と言える。


 だから、護身術すらままならないベアトリーチェでも、一人で行動することが許されていた。


「しかし、自由に身動きできないのはつらいですね。私の腹心の護衛が欲しいのですが……」


 なかなか見つからないと、ため息をつく。

 それもそうだ。条件が厳しすぎる。


 王女をどこに出しても守り切れるほどの強大な力を持っており。

 兄や父、他の要人たちに屈するような私利私欲の強い性格ではなく。


 非常に不安定な立場にいる自分に、心の底から忠誠を誓ってくれる存在。


「いるわけないですね、こんなの」


 冷静に分析するベアトリーチェ。

 そんな強い人間がいれば、まず兄のルドルフに取り込まれているだろう。


 それに、自分に忠誠を誓うメリットがない。

 粉骨砕身仕えたところで、見返りはほとんどないのだから。


「やはり、孤児院での活動は間違っていませんでしたね」


 とはいえ、まったく手駒がゼロというわけではない。

 彼女は慈善事業の一環として、孤児院の支援をしていた。


 それに関しては、兄や父から何かを言われることはなく、むしろ政治から目を反らしてくれたことで、あえて大金を融通してくるほどだった。

 無論、ただの慈善事業で済ませるベアトリーチェではない。


 苦しく過酷な状況にあった無垢な子供たちに、自分が救世主であることを強く印象付ける。

 洗脳という言葉は正しくないが、そういったことをするのは、大人よりも子供の方がより簡単で、深度が深くなる。


 要は、刷り込みである。

 ヒナの親鳥を教えるように、ベアトリーチェこそが救世主で、彼女のために何かをすることが至上の喜びであり、どのような命令を受けても疑問に思わないような手駒たち。


「皆優秀ですが、特に優れた戦闘能力を持つ者はいないんですよね」


 彼らはどちらかというと影だ。

 スパイや偵察、情報収集などをこなす。


 無論、命ずれば暗殺などもできるだけの力を持っているが、正面から強者とぶつかり合って殴り合いをできるような駒は誰もいない。

 不意打ちや奇襲が不可欠である。


 だから、ベアトリーチェにはそういった人材が必要だった。


「より優れた国家へ。裕福な世界へ。そのためには、私の力が必要不可欠です」


 王という立場に興味はない。

 その立場そのものに恋をしているルドルフとは違う。


 ベアトリーチェの考えを実行するには、王という立場が必要なのは言うまでもない。

 自分が女王になるのが無理ならば、王となる者を傀儡にすればいい。


 そこまではしなくとも、ベアトリーチェの考えを忠実に実行するような……。


「そろそろ、父と兄にクスリを飲ませましょうか」


 毒殺するつもりは毛頭ない。

 愚かだが、そんなことをすれば国は大混乱だ。


 だから、言うことをちょっと聞きたくなるようなお薬を飲ませよう。

 彼女の子飼いに、そういった薬を作ることのできる者もいる。


 孤児院での洗脳……刷り込みは大成功だった。

 ベアトリーチェがそんなことを考えながら歩いていると……。


「うおおおおお!? これで49人抜きだああ!」


 歓声が上がる。

 いつの間にか、警備が万全の場所から少し離れた、練兵場の近くに来ていたらしい。


 さすがにここは一人で行動すると咎められるので、すぐに戻る必要がある。

 しかし、歓声の内容に興味がわいたベアトリーチェは、こっそりと一人の兵士に話しかけた。


「何かされているのですか?」

「こ、これは殿下」


 超大物が現れたことで跪こうとする騎士だが、人差し指を唇の前で立てる彼女を見て、何とか踏みとどまる。


「現在、一人の騎士が49人を連続で打ち破ったのです。市民から生え抜きで騎士になったので、それを気に食わない代々騎士になっている貴族の連中が難癖をつけて絡んだことが原因です。こんなにも清々しく返り討ちにあるとは、笑えますな」


 最後の方は私怨が混じっていたので、ベアトリーチェは聞いていなかった。

 練兵場を見ると、倒れている多くの騎士たち。


 立っているのは、相対している二人だけだ。


「49人を……。しかも、市民からというのは、冒険者上がりですか?」

「どうでしょうか? 私も彼女と全然話せていませんので……」

「……彼女?」


 目を凝らしてしっかりと見れば、確かに立っている片割れは女だった。

 青い髪をポニーテールにまとめ、悠然と立っている姿は美しい。


 軽装であるため、身体の起伏もはっきりとしていた。

 あれ防具の意味あるのかとベアトリーチェは思うが、実際に49人も倒していたら、大丈夫なのだろう。


 基本的に、腕力や体力は男の方が強いので、兵という職業は男が多い。

 魔法というものがある以上、この世界ではあまり性差は関係ないのだが、実際に戦場に出て殺し合いをするとなれば、やはり男の方が多い。


 そんな中、女であり、しかも49人も連続して倒しているということは、ベアトリーチェをしても賞賛に値するものだった。

 どのような人間なのかと、久方ぶりに他人に興味を抱いたベアトリーチェが覗き込むと……。


「はい、ざこぉ」


 その女は、絶賛相手を煽っていた。


「お前らざこぉ。よくそんなクソみたいな力で僕に喧嘩を売ってきたよね? 恥ずかしくないの? そう思っていなかったのなら教えてあげるよ。君たち恥ずかしいから、二度と顔を外に出さない方がいいよ。ていうか、騎士とか名乗るの止めろよ。みっともないだろ」

「て、テメエ、好き勝手言いやがって……! もとはと言えば、お前が難癖付けてきやがって……」


 相対する男が憎々し気に睨むが、どこ吹く風。

 散々言いたいことを言ってスッキリしたのか、それともあまり周りの人間に聞かれたらマズイことなのか、途中で言葉を遮る。


「嘘を事実のように周知するのはいけない!」

「ぐああああああああ!?」

「ご、五十人抜きだあああああ!」


 ぶっ飛ばされてピクリとも動かなくなる男。

 まさしく死屍累々。


 しかも、倒れているのが普段から鍛えている騎士ということもあって、彼女がしたことはかなり凄いことだった。


「ふっ、雑魚が」

「……なんなんですか、この人」


 人格にとてつもなく難点がありそうだが。

 これが、ベアトリーチェとユーキの出会いだった。




今年もよろしくお願いします!

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