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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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55/124

第55話 なるほどですね

 










 ユーキは、鬼剣(きけん)と畏怖される女騎士である。

 見た目はとても可憐な少女で、剣なんてまともに振るうことができるのかと思うほどだ。


 しかし、実際に剣を持たせて振らせてみると、その卓越した能力に誰もが驚愕する。

 後ろでポニーテールにまとめられている青の髪が、返り血で真っ赤になるほど、剣で人の命を奪うことができる。


 実際に奪ってきたからこそ、他国から恐れられているのだ。

 そして、理人はそのことまで詳しく知らなかった。


 落とし穴に落とされる程度で終わるほど、生半可な相手ではなかったのだ。


「よくもやってくれたなああああ……」

「ひぇ……」


 怒り心頭である様子のユーキ。

 当たり前のように無傷である。


 しかし、土汚れは目立っていた。

 自分の身体が汚れてしまったことと、まんまと思い通りにさせてしまった悔しさ。


 それらが含まれた怒りであった。


「じゃあ、今度は僕の番だね。てぇい」

「ふぁっ!?」


 ユーキが剣を振るうと、そこから巨大な光の斬撃が現れ、理人に襲い掛かった。

 見たことのない攻撃に、唖然として必死に避ける。


 何とか避けた彼が、斬撃が通った後を見れば、地面に深い亀裂が入っていた。


「なるほどですね」

『なにがじゃ?』


 得心がいったとばかりに頷く理人に、マカが尋ねる。

 こんなふうにしったような態度をとっているとき、だいたいろくでもないことを考えているときだ。


「ふっ、これほど強力な攻撃だ。そうそう連発することはできないだろうし、体力や魔力の消耗も激しい。勝ったな」


 そう、強い攻撃には、代償が伴う。

 この光の斬撃は、非常に強力だ。


 当然、代償も大きいだろう。

 あとは、何とか逃げまくって時間を稼ぎ、ある程度ベアトリーチェが満足したらさっさと降参し、倍になった報酬金を貰えばいい。


 完璧な作戦だった。


「まあ、疲れるのは事実かな。今日だけなら、あと千発くらいしか打てないし、連続な三百発くらいが限界かも」

「……なるほどですね」

『なにがじゃ?』


 なお、すぐにユーキ自身によって潰された模様。

 三百発連続ってなに? 千発ってなに?


 もうこの辺りの地形変わるじゃん。

 理人は白目をむいた。


「じゃあ、行くよ。死なないだろうけど、致命傷にはなるから頑張ってね」

「んおおおおおお!?」

『汚い悲鳴じゃなあ』


 次々に飛来する光の斬撃を必死に避ける理人。

 無様なその姿に、マカはご満悦である。


 ついでにユーキも楽しいのだが、あまり時間をかけるのも意味がない。


「よいしょ」


 素早く剣を二度振るう。

 しかし、それは理人を狙ったものではなく、彼の両隣に斬撃が走る。


 長い斬撃だ。

 まだ消えない。


「これで逃げられないね」

「…………」


 左右を塞がれてしまい、満面の笑みを浮かべるユーキを前にして、辞世の句を考え始める理人。

 前後と上が空いているが、斬撃を飛ばすユーキには無意味である。


 詰んだ。


「じゃあね」

「殺しとかはしないって話だったんじゃ!?」


 再び身動きの取れない理人に斬撃が飛ばされる。

 当初の話はぶっ飛んでいた。


 ちくしょー! と泣く理人。


『よし、覚えた』


 マカの言葉が聞こえてきたのは、そんな時だった。

 理人は腕を振るう。


 すると、ユーキが打つ光の斬撃と同じような、しかし色は正反対の真っ黒な斬撃が飛び出すのであった。


「えぇっ!?」


 驚愕するユーキ。

 観戦しており、ユーキの勝利を確信していたベアトリーチェもまた、目を丸くして驚いていた。


 何より、一番驚いていたのは理人であった。

 白と黒の斬撃がぶつかり合う。


 バチン! とすさまじい音を立てて、せめぎあいが始まった。


「ぐぎぎぎぎぎぎ……!」


 斬撃を飛ばす相手と戦うのは、なまじ初めてのユーキ。

 せめぎ合いになるのも、もちろん初めての経験だった。


 必死にこの勝負に勝とうとする。

 自分の主であるベアトリーチェに情けない姿をさらすことはできないし、何より転移者に敗北するなんて断じてごめんだった。


「だりゃあああああ!」


 気合一閃。

 全力の斬撃により、黒い斬撃を押し戻すことに成功した。


 そして、そこは理人のいたところを飲み込んでいってしまったのであった。


「ふーっ、ふーっ……! 僕の勝ちぃ!」


 跡形もなく地面ごと削り取られた理人に、勝利の雄たけびを上げるユーキ。

 なかなか強かったのは認めるが、それまでだ。


 にんまりと満面の笑顔でベアトリーチェの元へ向かおうとして……。


「やったぜ」

「っ!?」


 理人の声が背後から聞こえた。

 そして、首筋に添えられる手。


 ただ手を添えているだけなら、何の危機感もない。

 しかし、自分の放つ斬撃と同程度の威力のものを出すことができるのが、理人の手である。


 なまくらを突きつけられているよりも、はるかに恐ろしい抑止力を秘めていた。


「なっ……どうやって……」


 唖然とするユーキ。

 確かに、せめぎ合いに夢中になっていたのは認めよう。


 しかし、視界の端にでも接近する理人を見つけられたら、さすがにそちらに意識を割いていたはずだ。

 それすらもなかった。


 そのネタ晴らしを、泥だらけの理人が言う。


「斬撃同士がぶつかってお互いの姿が見えなくなっただろ? というか、気にする余裕もなかった。俺の身体が隠れている間に、地面を潜ってお前の後ろに来たってわけだ。見ろ、ドロドロだぞ」

「知らないよ」


 憮然とした様子の理人。

 自分でしたくせに不機嫌になっているのだから、どう反応すればいいのか分からない。


 まあ、彼からすると、マカに無理やりさせられたというところも大きいので、この機嫌の損ね方は理解できないわけでもなかった。

 そんな状況を見ていたベアトリーチェは、この試合を終わらせるための一言を発する。


「そこまで。勝者、リヒトさん」

「成し遂げたぜ」


 理人の頭の中には、膨れ上がった報酬金のことしかなかった。




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