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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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第53話 さっさと始めるぞ

 










「えーと……どうしてそう思われたんですか?」


 俺は冷や汗を大量に流しながら、ベアトリーチェに問いかけた。

 いや、図星とかではなく。


 世界最悪のテロ組織に参加していると吹っ掛けられる恐怖が、誰に理解できるだろうか?

 そんな経験をする人なんてほとんどいないだろうから、俺の気持ちを理解してくれる人もほとんどいないだろう。


 悲しい。


「禍津會は、転移者の集団だと聞いています。リヒトさんも転移者。まず、ここでつながりができます」

「いや、さすがに論理が飛躍しすぎでは……? 別に、すべての転移者がそこに加入しているわけではないでしょう?」


 こじつけにもほどがある!

 止めていただきたい!


「そうでしょう。絶対は世の中にありえません。ですが、かなり高い割合で参加していると私は推測しています」

「それはなぜ?」

「そもそも、転移者が生きて奴隷という立場から解放されるということが、非常に珍しいからです。逃げ出すというのも含めていいですが、より少なくなりますね。脱走奴隷なんて、大概殺されるでしょうから」


 それは正論だろう。

 王女が言っているというのは何とも言えない不快感があるが……。


 分かっているなら何とかしてくれよと思わないでもないのだが、彼女からすれば、俺たち転移者は庇護すべき国民ではないからな。

 それも仕方ないだろう。


「その数少ない生き残った転移者。その多くが禍津會に参加しているのではないでしょうか? 全員が何かしらの優れた能力を持っているはずです。だから、禍津會は強大なテロ組織になりあがったのでしょう」


 ……まあ、若井田も三ケ田も、普通の人間ではなかった。

 他にどういう人材がいるのかはあれだが、あのレベルなら、世界を壊すというのもあながちできないこともないのではないかと思わせられる。


「いやあ、でも俺が関係しているというのは……。そもそも、禍津會という名前を知ったのだって、最近ですし」

「なるほど」


 知ったのは、当然舞子さんのカミングアウトである。

 あの人も転移者だから、まあベアトリーチェの言っていることは間違いではないよな。


 生き残っている多くの転移者が、直接構成員になっていなくとも、舞子さんのように協力者になっていることはありそうだ。

 言わないけど。


「ですが、気になるのは、あなたが禍津會の構成員と戦って、生き延びたということです。先ほども述べましたが、禍津會に参加している転移者は、全員が優れた能力を持っているはずです。あなたも奴隷から解放されている以上、そういった力があるのでしょうが……」

「いや、偶然と他力本願です」


 自信を持って言える。

 俺が奴隷から解放されたのは、俺の力なんかじゃないと。


 だから、俺に興味を持たないで。

 お願い……。


「ユーキからも話を聞きましたが、卓越した力はないように思うとのこと。そんな人が、どうして禍津會との戦いを生き延びられるでしょうか?」

「そうはいっても……」


 俺の力ではなく、マカの力なんです!

 そう声を張り上げたいが、当然できない。


 彼女たちは、マカのことを知らない。

 こいつのおかげだと言っても、絶対に姿を現さないだろうから、頭がおかしい人みたいになってしまう。


 それは避けたい。


「それは、他にも仲間がいましたし、何より頼れる奴隷ちゃんがいましたから」


 奴隷ちゃんに押し付けたろ。

 この世界の冒険者に買われた奴隷って、大体囮とか肉盾とかの役割になるらしいから、あながち使い道を間違っていない。


 というか、本音しか言っていないしな。

 超頼りになる、奴隷ちゃん。


「……奴隷にメイド服を着させてどこにでも連れ回すというのは、なかなか鬼畜ですね。こういった社会制度を作っている施政者側として言うセリフではないかもしれませんが」

「違うんです……違うんです……」


 俺がそんな冒険者たちと一緒に見られるのは凄く嫌だ……。

 ベアトリーチェ様! むしろ、俺が飼われているような状況なんです!


「しかし、本当に禍津會とつながりはないのでしょうか?」

「ないですねぇ。まあ、証拠を出せと言われても、どうしようもできないんですけど」

「それはそうですね」


 ないことを証明することは難しい。

 文明レベルがゴミのこの世界ではそれも求められるかと思ったが、少なくともベアトリーチェはそういうことはしないらしい。


 良かった。恥も外聞もなく泣き叫ぶところだった。


「それでは、失礼なことを言ってしまいました。申し訳ありません」

「いや、気にしないでください」


 俺は別に何とも思っていないけど、確かにテロ組織の構成員と疑われたら、いい気分になる奴はいないだろう。

 俺は気にしていないけど。


 本当に。だから、ちょっと色を付けて報酬を支払ってくれさえすれば、何も言わないから。


「では、禍津會のことを教えてください。為政者側にいる者として、あの秘密組織の情報は喉から手が出るほど欲しいので」

「俺もほとんど知らないですけど、知っている範囲でいいなら」


 俺はベアトリーチェに、知っているだけの禍津會のことを報告するのであった。

 まあ、話せることなんて、若井田と三ケ田、そして目的くらいしかないんだけどな。


 さすがに舞子さんのことは話せない。

 だって、確か仲がめちゃくちゃ悪かったはずだし。


「なるほど、ありがとうございました。とても有意義な情報でした」


 俺の話を聞き終えたベアトリーチェは、コクコクと頷きながら言う。

 大したことは話せていないし、おそらくそのほとんどをすでに知っていたのではないだろうか?


 ただ、まあ満足してくれたのならそれでいい。

 家に帰してくれ。


「いや、喜んでもらえたなら。……ところで、もう俺の仕事は終わりですか?」

「それでも構わないのですが……。さすがにこれだけ短時間だと、護衛という名目で報酬を支払うのが難しいのです。もう少し付き合っていただけると幸いです」

「……なるほど」


 本当は無視して逃げたいのだが、お金は大事だ。

 奴隷ちゃんが湯水のごとく消費していくからな!


 確かに、依頼を受けて一時間も経たないうちに終わって大金を払う、というのは具合が悪そうだ。

 正直、ベアトリーチェの立場が悪くなるのは知ったことじゃないのだが、俺に累が及ぶ可能性があるのであれば話は変わってくる。


 ここは大人しく従って……。


「そうなると、護衛としての力量が必要になるね! その強さを確かめるために、僕と一戦、しよう!」

「報酬はいらないので帰ります。では」


 ニコニコと笑いかけてくるユーキに、俺もにっこりと笑って踵を返した。

 無報酬は痛いが、俺の命が大事だ。


 命を大事に!

 しかし、ユーキの次の言葉に俺は足を止めた。


「まあまあ、そう言わず。僕に勝ったら報酬を倍にしてあげるから」

「さっさと始めるぞ。日和っていないで、戦場に上がれ」


 ちんたらするな。さっさと行動しろ。

 これだから女騎士は……。


 俺はキリッとした表情で、呆れたようにユーキを見つめるのであった。


「こ、こいつ……!」




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