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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第3章 転移者の報復編

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第52話 つながり

 










 俺の話を聞きたいとやたらしつこい奴は、王女だった件について。


「首吊り、ギロチン、薬物投与、アイアンメイデン……」

「処刑法を考えるの止めて。本当に」


 いや、普通ため口くらいでそんなことにはならないと分かっているけれども!

 でも、怖いんだもん!


 この世界の文明レベルってクソ低いから、本当に理不尽な理由で当たり前のように命を奪われるし。

 人間の尊厳なんかも当然だ。


 ひっひっふー。


「別にそれくらいで処刑なんてしませんよ。人の命は有限です。しっかりと利用してから処分しないと、もったいないじゃないですか」

「あ、ああ、そうですよね。安心……安心……?」


 薄く微笑むベアトリーチェに、俺は安堵しようとして……できなかった。

 何かとんでもないことを言っていなかった、この王女?


 人を見た目で判断するのは絶対ダメだけど、明らかに見た目と違うことを言っていたぞ。

 裏社会で過酷な闘争を潜り抜けてきた猛者のようなことを言っていなかった?


「では、少しお話しましょうか。この孤児院は個人的にパトロンになっているので、スペースを貸してくれるようです。こちらへ」

「お姉ちゃん! 遊ぼ!」


 そう言って歩き出そうとしたベアトリーチェに、子供が飛びついてくる。

 それも、複数だ。


 全員、安心しきったように彼女に甘えていた。


「ああ、すみません。これから、少し大事な話をするんです」

「えー、つまらない」

「また一緒に遊んであげますから」

「……うん、またね」


 随分物分かりがいいなと思った。

 しっかり教育されているのだろう。


 奴隷ちゃんも見習うべきである。

 教育していないお前が言うなとか、そんな正論は聞かない。


「随分と慕われているんですね」


 パトロンをしてくれていたら、それも当然か。


「うがった見方、さすがマスターです」


 奴隷ちゃん?

 俺は口に出していないのに、なんで知っているの?


 怖いんだけど?


「子供がそこまで理解しているかは分かりませんが、慕ってもらえるのは嬉しいことです。私のことを良く思ってくれるのであれば、パトロンをしている甲斐もあるというものですから」


 ……うーん?

 別に変なことは言っていないような気がするのだが、言葉の節々が引っかかる。


 何だろうな……?


「どうぞ、お座りください」

「あ、失礼します」


 その違和感に気づけないまま、俺たちは応接室にたどり着いた。

 王女の言葉を受けて柔らかい椅子に座っていると、子供がお茶を持ってきてくれた。


「姫様、お茶です」

「ありがとう」

「うん!」


 ベアトリーチェに褒められて嬉しそうに破顔した子供は、上機嫌に去っていった。

 それを見送り、俺は口を開く。


「いや、本当に慕われていますね。子供から好かれるというのは、やはり嬉しいことでしょう?」

「そうですね、本当にうれしいです。子供は純真無垢で、これから何色にも染めることができますから。すでに思考の凝り固まった大人よりも、はるかに使い勝手がいい」

「……うん?」


 やばい。

 どんどん違和感が強くなっていく。


 この王女は、いったい何を言っているんだ?

 俺はどうしても気になってしまい、彼女に質問してしまう。


「えーと……こういった慈善事業のパトロンをしているのはどうしてですか?」

「まず、私の立場では、こういったことにしか手を出せないということが一つ。軍事や政治に口出しはご法度ですから」


 それは理解できる。

 王女は、王位継承順位はそんなに高くないのだろう。


 上にいる者からすれば、そんな彼女が色々口出ししてくるのが煩わしいのだ。

 つまり、今の国家の中枢は、軍事や政治には興味があって、こういう社会保障的なものには興味がないということだ。


 そこまではいいのだが……。


「それに……良い手駒を大量に作ることができますから」

「……はい?」


 て、手駒?

 ラスボスみたいな発言をしていないか、こいつ?


「子供は純真です。この孤児院に集められている孤児は、皆つらい思いをした経験があります。親の助けが必要な時にそれらを受けられなければ、当然でしょう」


 あー、やばい。

 これ以上聞いたら、絶対にやばい。


 しかし、王女の発言を途中でさえぎることもできない。

 もう俺の負けじゃん……。


「だから、そんな苦しい場所から救い出してくれた人がいれば、心の底から慕ってくれます。その裏に何があるのかも調べようともせず、純真に」


 言葉にされる悍ましい思想。

 子供の洗脳じゃないか。


 口にするだけでも悍ましい行為を、王女は何でもないように言い続ける。


「すると、盲目的に私に従ってくれるありがたい手駒が出来上がります。私は力がありませんから、こうして人々に助けてもらわないと生きていけません。とてもありがたいことだと思っています」

「なるほどですね」


 俺はこのやばい女の機嫌を損ねないように平然とした態度で頷く。

 一方で、考えていることは全然違った。


 こいつ、見た目通りのふんわりしたお嬢様じゃないぞ!?

 やばい! 関わりたくない!


「ああ、すみません。私の話なんてどうでもよかったのに」

「いや、そんなことは……。というか、そこまでぶっちゃけた話、俺なんかに話してよかったんですか?」

「……どうして私があなたに話をしたと思います?」


 え、殺されるの?

 ここまで知られてしまっては仕方ないって感じ?


 ふざけんな! お前が勝手に話始めたんだろうが!


「私はあなたに話をお聞きしたいんです。秘密があるかもしれません。だから、まずは誠意をもって、私の秘密をお話ししたんです」

「い、いや、でも、それで俺が話すとは……」


 別に秘密なんてないのだが、圧力をかけられているみたいで日和ってしまう。

 もう何でも話しますよ、王女殿下。


「ええ、だから、強制力はありません。私が秘密を話して、あなたがどうするのか? その情報を得られるだけでもいいのです」


 ひい。

 命令でなく、こっちで考えろスタイル怖い。


 こういうのが一番困るんだよ。

 どの判断を出しても責められるから。


「それに、漏れた時は漏れた時です」

「その時は、僕が君の首をスパッとするからね!」


 笑顔で何言ってんだこいつ。

 俺はユーキを呆れたように睨む。


 マジでスパッとされそうだからしゃれにならない。

 奴隷ちゃんをけしかけるぞ、おおん?


「ああ、そうそう。私があなたにお聞きしたいのは、禍津會のことなんですが……」

「ああ、それは俺もよく知らないんですけど……」

「あら、そうなんですか?」


 俺の返答に、王女は意外そうに眼を丸くした。

 いや、禍津會なんて舞子さんから教えられて初めて知ったんだけど。


 まあ、あの人がパトロンだっていうことは黙っておこう。

 次の瞬間、ベアトリーチェは俺の顔を凍り付かせることを言ってのけた。


「私、あなたが禍津會とつながりがあると思っていました」


 えぇ……?




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