第44話 洗脳でもされたのかな?
最悪最強のテロ組織【禍津會】の若井田と、理人の戦闘。
それは、強大な悪に屈しず、立ち向かう勇気を持つ立派な男であると、倒れる冒険者たちの目には映った。
自分たちが敗北し、その力の強大さを目の当たりにしているからこそ、なおのこと強くそう思った。
すなわち、理人という冒険者は、巨悪と戦う英雄であると、冒険者たちに強く認識されることになった。
しかも、自分たちが手も足も出なかった相手を打ち倒したのである。
彼らは、のちに生きて帰った後、そのことを冒険者仲間に広める。
そして、それを聞いた人はまた別の人へと。
そんな風に噂は伝播していき、理人は禍津會と戦う英雄という評判を、まったく望んでいないのに手に入れることになったのであった。
その絶望的な未来を、理人はまだ知らない。
◆
あああああああああっ!!
身体中がいたあああああああああい!!
『相変わらず貧弱じゃのう……』
臓器とか一部ないんだぞ!
元々の身体だったら、まだマシだったかもしれない。
しかし、今の俺は本当に貧弱。
激しい運動をし続ければ、すぐにぶっ倒れる。
そうならなかったのは、魔法の付与をしていたことと、面白半分でこいつ――――マカが手助けしてきたことだろう。
実際、三ケ田の突撃はまったく気づけていなかったので、マカには助けられたということになる。
まあ、しょせん愉快犯なので、真剣に感謝する必要はないと思っているが。
『とはいえ、この茶番も貴様の勝ちじゃ。誇ればいいぞ』
いや、別に誇れるところなんて何もないんだけど……。
全部お前の力じゃぁん……。
「さて、まだやるか?」
とはいえ、マカのことは誰も認識できない。
俺がやった風になるし、どうせそうなら格好つけて虚勢を張る必要があった。
戦いって、舐められたら結構面倒くさいんだもんな。
「くっ、ふふっ。まさか、同胞にこれほどの強者がいるとは……。あなたたちも助かりましたね。この方がいなければ、ここで死んでいましたよ」
倒れる冒険者たちに、からかうように言う若井田。
おい、余計なことを言うな。
俺がいなくても何とかしていたはずだ。
きっと、たぶん、おそらく。
「さて、まだやるかという定義によりますね。今の戦闘であるならば、もうやらないと答えましょう。このまま戦っても、私は敗北するでしょうし」
ふうっと息を吐く若井田。
ヨシ! じゃあもう一生戦わないってことだな!?
俺は望月のように、禍津會の活動に怒りを持っているわけではない。
好きにしてくれたらいいと思う。
ただ、俺にかかわらないようにしてくれたらいいのだ。
今回みたいなことは、二度としないでいただきたい。
「ですが、禍津會のテロ行為ということならば、断固として続けていくと答えましょう。私自身の復讐もありますが、無念のうちに死んでいった同胞たちの仇を取る。それは、私の……いえ、私たちの宿命です」
かたくなに曲げない信念。
それがテロ行為だとなんだか間抜けな感じもするが、まあ気持ちは分からなくもないのだ。
俺も転移者だし。
結局、どれほど言葉を尽くしても、暴力に訴えても、若井田は考え方を変えることはないだろう。
改めてそう思わされる。
「しかし、あなたが敵に回るのはとてもつらい。これほどの力を持つ者がいれば、私たちの思い通りに事はなかなか進まないでしょう。まさしく、巨悪に立ち向かう英雄、というところですね」
「おい、止めろ。余計なことを言うな、マジで」
俺を見てニコリと笑う若井田。
何が巨悪に立ち向かう英雄だ。
自分たちのことを巨悪って言うのも中二病だし、英雄とか俺の柄じゃないし。
だから、そんなキラキラした目を向けてくるな、クソ冒険者ども。
「さて、私たちは逃げさせてもらうとしましょう。できれば、戦場ではお会いしたくありませんね」
「それはそう」
「では」
同意した俺を面白そうに見た後、若井田と三ケ田は何らかの方法で消えた。
魔法か、アイテムか。
ともかく、禍津會の二人を、俺は見逃した。
「逃がしてよかったんですか?」
「まあ、あのまま戦っていたら、その余波で倒れている奴らも死んでいただろうし。なりふり構わずあっちが戦えば、俺も無事じゃすまなかっただろう」
奴隷ちゃんの疑問に答える。
俺もそうだが、若井田もある程度配慮して戦っていたように感じた。
でなければ、一人くらいは流れ弾に当たっていたと思う。
それがないということは、ある意味人質に取られていたのかもしれないな。
……俺にとって人質の価値があったかどうかは置いておくとして。
「あと、この世界とかどうなってもいいですしね」
「それはそう」
世界へのテロ行為を続けるらしいが、それはお好きになさってという感じだ。
こんな世界、守る理由なんてないし。
「よし、後は領主から報酬金を貰って終わりだ。イリファスの支部も潰れていることだし、これ、俺たちの功績にしない?」
「横取りとは、さすがですマスター」
倒れる冒険者たちに、俺は提案する。
山分けしようぜ、山分け。
すると、ボーッと俺を見ていたレイスが一言。
「英雄……」
…………ん?
もしかして、若井田に洗脳でもされたのかな?
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