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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第2章 テロリストと反社編

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第42話 あ、お待たせしましたー

 










「禍津會。君はそんなところに入ったのか?」

「そりゃ、あのままだったら徹底的に痛めつけられてから殺されていたもん。選択肢なんてないだろ。それに……」


 望月は禍津會を許せない。

 強い視線を三ケ田に送ったのだが、逆に三ケ田はギロリと望月を睨みつけた。


「あたしは、この世界に復讐したい。だから、禍津會の考え方はあたしに合っているんだよ。少なくとも、お前みたいなきれいごとを言う腑抜けよりは、はるかにね」

「……ッ」


 ギリッと唇をかむ望月。

 それが、他の転移者にどれほどの悪影響を与えるのか、分かっているのか!?


 叫ぼうとするが、その前にゴールとデール兄弟が口を開いた。


「禍津會? 聞いたことないなあ」

「僕もだよ」

「おや、でしたら、私どもももっと頑張って知名度を上げていかなければなりませんねぇ」


 ニコニコと笑う若井田。

 知名度を上げるということは、この世界でより破壊と殺戮を広げるということだから、明らかに望月の思想とは相いれない。


「私たちの目的は、この世界の破壊と人々の絶滅です。そのために、積極的にテロ行為にいそしみ、荒廃と破壊のために尽力しているところでございます」

「な、んだ、その組織は……。お前たちに、何のメリットがあってそんなことを……!」

「先ほど三ケ田さんが申し上げた通り、復讐ですよ。突然この世界に連れてこられ、訳も分からず略奪され……。幸い私たちは生きておりますが、多くは死んでいます。その同胞の敵討ちをする必要がある。違いますか?」


 胡散臭い風貌の若井田だが、その言葉には強い意志が込められていた。

 彼が本気でそう思っていて、それを実行するのだと決意していることが伝わってくる。


「違う! そんなことをしても、復讐の連鎖になるだけだ!」

「では、私たち転移者に我慢しろと?」


 即座に返ってきた疑問に、言葉を詰まらせる。


「復讐の連鎖を止めたいのであれば、そちらが我慢すればよろしい。こちらに押し付けられても困ります」

「……ッ!」


 何を言っても無駄だと、望月はここに至ってようやく理解した。

 この二人……少なくとも、若井田は話し合いで解決できるような人間ではない。


 どれほど言葉を尽くしても、暴力で脅しても、彼はずっとこの世界への報復をたくらみ、実行することだろう。

 この短い会話で、それを理解できてしまった。


「さて、どうされますか? 一応、今回の目的はこの支部の人間を皆殺しにすることでしたから、目的は果たしています。こちらに突っかかってこないのであれば、見逃して差し上げますよ。奴隷として飼われていた人間たちもいるでしょうし、そちらを助けに向かわれれば?」

「……彼らは助けないのか?」

「転移者はいませんでした。全員こちらの人間です。ならば、助ける道理はない」


 今は殺さないだけで、いずれは殺す。

 たとえ、それが被害者であっても、この世界の人間であるならば変わらない。


 積極的に助けるはずもなかった。

 禍津會との戦闘。


 それは、ずっと追っていた望月でさえもためらうことだった。

 そんな中、一足先に答えを出した者がいた。


「……私は戦わない」


 それは、レイスであった。

 自分たちを殺すと言われておきながら、若井田と三ケ田に対して強い敵意は向けていなかった。


「なっ!? どうして……!?」

「私が今回の依頼に参加したのは、イリファスへの復讐だ。彼らはその構成員を殺した。私にとって敵ではない。もちろん、殺されそうになったら抵抗するから、いずれ戦うことになるだろうがな」

「僕は……」


 レイスもレイスで考えがあって、この依頼を受けた。

 それが復讐だったと知って、望月は大きな衝撃を受ける。


 自分はどうすべきなのだろうか。

 悩んでいると、リーリスが大声でがなり立てた。


「こ、こいつらを殺せ! そうすれば、領主様に掛け合って、さらに報酬金を上乗せしてやる!」

「リーリスさん……?」

「お、そういうことなら」

「僕たちは戦おうかな?」


 領主がそんな依頼をしていないのでは? と疑問が浮かぶ。

 しかし、ゴールとデール兄弟は、リーリスの口車に乗ってやる気になっていた。


 そんな彼らを見て、やれやれと首を横に振る若井田。


「無益な争いはしたくないのですが……仕方ありませんね。あ、そう言えば、先程言ったことは、少し誤りがあります」

「がはっ……!?」


 悲鳴が聞こえた。

 リーリスの喉に、ナイフが突き刺さっていた。


 血を吐き出し、倒れる。

 今、何が起きたのか見えなかった。


 大きな衝撃を望月に与える。


「そこの男以外、という枕言葉をつけ忘れていました」

「な、何で殺した!?」

「おや、知りませんでしたか? 彼はイリファスの構成員ですよ?」

「はっ……!?」


 ギョッとして、倒れるリーリスを見る。

 領主の私兵ではないのか!?


「今回、やけに支部に突撃させたり誘導したりするようなことはなかったですか? あなたたち有望な冒険者を一気に潰して、その混乱の中支部を移動させようとする作戦だったようですよ。うまくいけば、人身売買の商品にするつもりだったようですが」

「そ、そんな……」


 心当たりは、ないでもなかった。

 そもそも、最初は見張りの周期と出入り口の把握だけだった。


 それが、中への潜入、そして幹部の捕縛へと、どんどんと要求が上がっていっていた。

 冒険者たちが乗り気であったことを除いても、やはりおかしい。


 若井田に指摘されて、初めて理解した。


「さて、あまりこれ以上時間をかけたくないので、退散するとしましょう」

「おーい、何勝手に完結しているんだい?」

「お金のために、僕たちに捕まってくれよ」


 この場を去ろうとすると、ゴールとデール兄弟が呼び止める。

 リーリスは死んだが、雇い主は領主だ。


 彼らを捕まえて大きな報酬を手に入れることはできるだろう。

 金を稼ぐことを第一に考える兄弟は、若井田と三ケ田を逃がすつもりはなかった。


「うーむ、困りました。いい加減、面倒くさくなってきましたね」


 笑顔のまま、やれやれと首を横に振る。


「じゃあ、全員死んでもらいましょうか」


 膨れ上がる殺気。

 元々やる気だったゴールとデール兄弟はもちろんのこと、悩んでいた望月や戦うつもりのなかったレイスも構える。


 だが、それは何の意味もなさなかった。

 一分と経たないうちに、彼らは全員地面にはいつくばっていた。


「……な、何を、された……?」


 勇者と称される望月をしても、どのような攻撃をされたのか見当もつかなかった。

 気づけば、倒れていた。


 そんな感覚だった。


「さて、全員寝ています。三ケ田さんでも殺せますよね?」

「舐めてんの? ……まあ、正直無抵抗の人間を積極的に殺したいとは思わないんだけど……」


 ため息をつきながら、三ケ田は歩く。

 一番近くにいた望月の元へと向かうと、ナイフを取り出す。


「悪いね。この世界に生まれたことを恨んでくれ」


 悪いと言いながらも、その目は冷たく、明確な殺意が込められていた。

 望月は逃れようとするも、身体がうまく動かせない。


 そして、人の命を刈り取るナイフが振り下ろされて……。


「はあ、やっと落ち着いたか。だから、無理すんなって言ったじゃん」

「む、無理なんかしていないわ」

「あの体たらくを見せて、まだ言えるんですね」

「奴隷ちゃん!?」


 部屋の外から、そんなのんきな会話が聞こえてきた。

 三ケ田も振り下ろそうとした腕を止める。


 若井田は……満面の笑みを浮かべて、扉を見ていた。


「あ、お待たせしましたー……って、なにこれ?」


 扉を開けてひょっこりと顔を出した理人は、想像していなかった状況に唖然とするのであった。




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