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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第2章 テロリストと反社編

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第39話 じゃあ、俺たちは待機で

 










「まあ、調査と言っても、やることなんて大したことないんだけどな」


 俺は誰に聞かせるつもりでもなく、一人で呟いた。

 すると、隣で潜んでいたアイリスがジトッと睨んでくる。


 だからなんで俺の隣にいるんだ、こいつ。

 望月の近くの方がいいだろうに。


「静かにしなさいよ。大した事ないって、とても大事なことでしょ」

「あー、すまん」


 俺たちの任務は、イリファス支部の出入り口がどこにあるのかということと、見張りがどの程度いて、どういった時間に、どの場所を歩いているのかを調べるということだ。

 中に潜入するなんてことはしないし、威力偵察でもないので、ぶっちゃけばれたらダメなのだ。


 つまり、荒事が起きる可能性というのは、限りなく低い。

 起きてしまった時は依頼失敗ということだ。


 大声を上げて逃げ出すのみ。

 ……俺、そんなに足が速くないから、その時は奴隷ちゃんに担いで逃げてもらう所存。


「本格的に潰すときに、今回の調査の結果はとても重要なものになります。一生懸命やりましょう」

「ああ」


 望月の言葉に頷く。

 俺はその時はいないから、別にどうでもいいかな。


「……と言っても、こんな人里離れた場所で、見張りの人間をぞろぞろと立てていたら、ここにやましい施設があるって言っているようなもんだよな。なんで街の中に作らなかったんだ?」


 すでに、何人かの見張りがいることは確認していた。

 さすがにこの依頼を受けている冒険者たちは精鋭のようで、誰も気づかれていない。


 所詮犯罪組織の人間か。大したことないらしい。

 しかし、人がほとんど寄り付かない場所に、いかにもな人相の人間がちょろちょろ動き回っていたら、何かありますと言っているようなものじゃないか。


 頭が足りていないのか?


「他の支部はそう言うところが多いみたいですね。街中に紛れて活動しているようです。ただの馬鹿ならいいんですが……」

「意図的にこういうところに拠点を置いていたとしたら、厄介よ。何かしているということを、大っぴらに言っているようなものだし」


 なるほどと頷く。

 たとえ、他の連中にばれてもどうにでも出来る自信があるのか。


 それとも、こういった場所でないといけない理由があるのか。

 狭い街の中ではできないようなことかあ。


 まあ、犯罪組織なんだからろくでもないんだろうけど。


「しかし、リヒトさんの言ったようなことを避けるために、あまり大量の見張りは立てていないようですね。出入り口も、こっち側にあるのはあの一つだけのようです」


 いくつかのチームに分かれているが、俺たちが発見できた出入り口は一つだけだった。

 その辺りを見張りがちょろちょろしている。


「よし、じゃあその情報だけ持ってさっさと帰ろう」

「いえ、見張りの周期などを知るためには、もう少し張っていた方が……」


 正論を言うな。

 だいたい、俺は制圧には参加しないから、周期とかどうでもいいんだわ。


 早く帰って金を貰いたい。

 そう思っていると……。


『なんじゃ。中が気になるんじゃったら、言えばよかろう。わらわが助けてやる』


 俺にだけ――――奴隷ちゃんには感づかれかけているが――――聞こえる声。

 不穏なことを言っている!?


 は!?

 いや、求めていないから余計なことは止めろ!


 しかし、遅かったということもあるし、そもそも俺の意見なんてろくに聞かない奴だ。

 ドサリと音がしたと思うと、見張りの男が倒れていた。


 なにやってんだ!


「あれ、急に倒れた……?」


 余計な事しやがってよおおおおおお!!

 誰も頼んでねえだろうがよおおおお!!


「…………」


 何が起きたのかと全員が呆然としている中、一人だけその見張りの元へ近づいていく奴がいた。

 生存確認をして……え? 死んでるの?


 嘘……怖い……。

 戦慄していると、そいつがそのまま出入口に向かっていく。


 なんばしよっとね!!


「あ、ちょっと。どこに行くんだい?」

「中に潜入する。より情報を得られるチャンスだ。いずれ潰す時、何か役に立つかもしれない」


 そう言うのは……レイスだったか。

 ルーダが言っていたのを思い出す。


 ちなみに、あいつは別チームである。

 まあ、何が起きても死にそうにないし、大丈夫だろう。


「危険だ。今回の依頼はそこまで求められていないし、ここは下がった方が……」

「別についてきてくれと頼んでいない」


 望月の言葉を無視して、さっさと支部の中に入って行ってしまった。

 そっすか。


 じゃあ、あの人に任せて、俺たちは帰ろう。


「……確かに、一理あるな。領主様に掛け合うが、よりよい情報が手に入れば、ボーナスを出そう。志願者はレイスと共に中に潜入しろ」


 リーリスまでもトチ狂ったことを言い出した。

 強制でないだけマシか。


 まあ、こんな危険なことに飛び込む奴なんていな……。


「お金が出るんだったら」

「僕たちも行くよ」


 ゴールとデール兄弟がスタスタと歩いて行った。

 守銭奴め。


「じゃあ、俺たちは待機で」


 俺はニッコリと笑いながら提案する。

 しかし、望月は……。


「……いえ、彼らが心配です。それに、良い情報を手に入れられれば、計画より早くイリファスの支部を潰すことができるかもしれない。苦しむ人を少しでも減らすことが早くできるのであれば、僕はそうしたいです。行きましょう」


 嫌です。









 ◆



「うわぁ。これってどれくらいの価値になるんだろう……」


 支部の中の一室。

 そこには、ぎっしりと積み上げられた薬物があった。


 全部やばい奴だよなあ。

 俺が奴隷時代に使われた奴って、この中にあるのだろうか?


 あまり知りたくもないことだが。


「ザッとこれくらいですね」

「ザッと価値を把握できる奴隷ちゃんってなんなの……?」


 俺の問いかけにサッと応えられる奴隷ちゃん。

 その知識はいったいどこで……?


「お手柄だ。これらの一部を領主様の元へもっていき、証拠とする。ボーナスは期待していていいぞ」


 薬物を確認しながら、リーリスが言う。

 やったぜ。


 ボーナス、とても良い響きだ。

 あっちの世界にいた時、結局貰ったことなかったし。


 ……悲しい。


「ある程度歩いて中の様子も分かったし、そろそろ戻ろう。もう鉢合わせしても不思議じゃない」

「いえ、これは最初で最後のチャンスです。できる限り情報を……」


 俺の提案を、望月が否定する。

 ま、マジか。


 お前のパートナーの顔色の悪さ、把握していないのか?


「いや、もうやめておいた方が……」


 そんなことを言いながら、別の部屋へ。

 そして、そこで最悪のものを見てしまう。


「……あーあ」

「…………ッ」


 そこにいたのは、首輪をつながれた、死んだ目をした人間たち。

 すなわち、奴隷だった。




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