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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第2章 テロリストと反社編

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第38話 合同依頼

 










 今回は複数の冒険者で一つの依頼を受ける合同依頼。

 そのため、事前に説明会が開かれるようで、結局受けることにした俺と奴隷ちゃんはギルドに向かった。


 通された会議室には、すでに他の依頼を受けるであろう冒険者たちがそろっていた。

 あんまりギルドに来ないからほとんど顔見知りはいないのだが、こちらに近づいてくる数少ない知り合いがいた。


「おう、リヒト。やっぱり、お前も来ていたか」


 鍛え上げられた巨漢を揺らしながらやってきたのは、ルーダである。

 ちょくちょく絡んでくる男だ。


 こうした合同依頼に知り合いがいてくれるのはありがたいことなんだが……。


「ルーダ。なんか久しぶりだな。そして死ね」

「ぐぇっ!? な、なぜ……?」


 腹に貧弱パンチを叩き込むと、意外といいところに入ったのか、ルーダは苦しそうにする。

 ふっ……俺の手首も痛い。


 どれだけ硬いんだ、こいつの腹筋。


「この前俺を見捨てただろ」


 俺が思い出すのは、ギルドで望月とアイリスに絡まれた時のことだ。

 捨てられた子犬の目をして訴えたというのに、こいつは見捨てやがった。


 許せねえ……。


「で、お前もイリファスの調査に参加するのか?」

「ああ、もちろんだ。報酬金もかなりでかいし、何よりお前が参加すると思っていたからな!」

「……気持ち悪いぞ」


 なんで判断基準が俺になっているんだよ、こいつ……。

 まあ、最近はあまり話せていなかったからという意味だろう。


 そうでないと困る。


「しかし、ルーダも参加するってことは、本当にいろいろな冒険者が依頼を受けたんだな」

「ああ、それも結構有名どころもいるぜ」


 周りを見渡しながら言えば、ルーダも頷く。

 すると、たむろしている冒険者の一部を、顎で示す。


「たとえば、あそこにいるのはゴールとデール兄弟。勇者の望月とアイリスペアもいるし、あれはレイス嬢だな」

「なるほど」


 誰だそいつら。全員知らん。

 もちろん、望月とアイリスは知っているが、他は全く知らん。


 有名なのだろうか?

 まあ、それだけ強い奴らがいれば、安全に大金が手に入るのだから、悪くない。


 そんなことを考えていると、領主の私兵たちがぞろぞろと会議室に入ってきた。


「よく集まってくれた。私は今回の指揮をとるリーリスだ。では、今回の依頼、イリファス支部調査の概要と、作戦の説明をする」









 ◆



 リーリスとかいう男から説明を受けた俺たちは、さっそく判明している支部へと向かっていた。

 あいつは領主の私兵だな。


 多分、望月がこの前三ケ田を引き渡した領とは違うだろう。

 引き取りに来ていた私兵が誰もいなかったし。


 全員がまた一緒に行動しているとは思わないが、一人くらいは混じっていないとおかしい。

 誰もいなかったということは、そういうことだ。


 ……しかし、三ケ田はかわいそうにな。

 あいつ次第だけど、何とかうまくやっていてくれたらいいんだが。


「というか、お前はついてきて大丈夫なのか? 正直、街に残っていた方がよかっただろ」


 俺は隣を歩いていたアイリスに声をかける。

 軽やかな足取りは、さすが勇者のパートナーというところか。


 俺はもう肩で息をしているというのに。

 は、肺のダメージがこんなところで……。


「は? あたしが足手まといって言いたいの?」

「うん」


 ギロリと睨みつけてきたアイリスに、怖気づくことなく頷いた。

 すると、即答されたことで、彼女の方が気圧されていた。


 アイリスの力は確かなもので、俺よりもはるかに頼りになる。

 だが、今回のような相手の時は別だ。


 正直、身体がまともに動かないのではないか?

 奴隷時代のことを思い出して、身体が硬直してしまうのではないか?


 そんな懸念があった。


「今回に限ってはそうなりそうだろ。望月、知っているのか?」

「……知らないわ。でも、大丈夫よ。人身売買なら、まだ」


 アイリスは絶対に認めないだろうが、それでもキツイんだろうなと思った。

 人を人として扱わず、物のように扱う。


 それこそが、彼女にとってのトラウマである。

 人身売買だって、まさに人間を商品にしているわけだから、かなりしんどいと思うが……。


「人身売買でまだ大丈夫って、凄い会話だよな」

「本当よ。あっちの世界にいたら、考えられないことよ」


 あっちの世界でもそういうことはあったのだろうが、どうにも現代日本で生きていたら馴染みがない。

 あってたまるかというものなんだけど。


「まあ、無理するなよ。そうなったときは、望月にはばれるだろうが、俺がいたら頼ったらいい」

「……考えとくわ」


 そう言うと、スタスタと望月の元へと歩いて行った。

 耳が赤くなっていたけど、分かりやすいなあ。


 まあ、俺なんかに頼るよりも、先に望月を頼るだろう。

 俺の出番はないな。


「マスター……」


 さて、後ろで怖い目をしている奴隷ちゃんにどう対応するか。


「よし、奴隷ちゃん。社会の悪を破壊するために、今日も頑張ろう!」

「そんな心持でいたこと、私たち一度もないと思うのですが」


 強引に打ち切る。

 何とか誤魔化せたようだな……。


 ギリギリセーフというところか。

 ……奴隷ちゃんがじっと見てきているのは気にしない。


 気にしたら怖いから。


「では、ここからは手筈通り、いくつかチームに分かれてもらう。異常が発生すれば、即座に離脱。大声を張り上げながら危険を知らせてくれ。その時は、他のチームも離脱しろ。今回は討伐ではなく、あくまで調査だからな」


 リーリスの指示に、各々が頷く。

 ここから数キロ離れた場所に、イリファスの支部がある。


 携帯電話とか無線とかがないから、どうしても原始的な方法になってしまうんだな。

 不便だ。


「……これって偵察に来ているってばれたら、またややこしい感じになると思うんだが」

「まあ、その辺りは領主が考えることだし、あたしたちが考えることじゃないわ」

「そりゃそうだ」


 別にこの世界のことを気にする理由なんてないし。

 そんな俺たちに、望月が声をかけてくる。


「では、行きましょう!」


 犯罪組織イリファスの調査という指名依頼が、始まったのであった。




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