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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第2章 テロリストと反社編

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第37話 全然簡単じゃない……

 










「馬鹿な……。また貯金が底をついた……」


 俺は愕然としていた。

 望月たちとの指名依頼を受けて、かなりの額の報酬金が手に入った。


 そして、一週間も経たない五日後。

 それらは全部消えていた。


 ちらっと奴隷ちゃんを見ると、素知らぬ顔である。

 おい、へたくそな口笛を吹くのは止めろ。腹が立つ。


 また仕事しないといけないのかよ……。

 そう思って絶望してた時に、望月とアイリスが尋ねてきたのであった。


 まあ、アイリスは頻繁にやってきて俺のベッドの上で好き勝手しているので、とくに目新しさはなかった。

 しかし、奴隷ちゃんの圧倒的な力を受けて鍛錬をしていたらしい望月は久しぶりな気がした。


 そして、そんな望月は俺を見て口を開いた。


「依頼、一緒に受けましょう」

「嫌です……」

「なんで?」


 即答で拒否すれば、不思議そうに首をかしげる望月。

 何でもクソもねえよ、馬鹿。


 逆に、なんで? だわ。


「止めろ止めろ。お前らにとって、俺らと一緒に依頼を受ける理由もメリットもないだろ」

「いえ。僕よりも高みにいる人の傍にいられて、一緒に仕事を受けることは、間違いなく僕のためになっています。これが、僕らのメリットです」


 ……確かに、自分よりも強い奴の戦いを、傍で見ることができるのはいいことなのかもしれない。

 俺はそういう感覚はまったくないけど。


 バトルジャンキーでもないし、大して戦う能力も持っていないしな。


「で、でも、俺らにメリットがないから……」

「僕らと一緒に依頼を受けるなら、全部指名依頼になります。さすがに全額報酬金をすべての依頼で渡していたら、僕たちも生きていけなくなるのでできませんが、それでも山分けしても普通の依頼を受けられるよりは報酬金を貰えますよ」

「…………」


 ゴクリとのどが鳴る。

 お金は欲しい。


 その言葉は、俺にとって非常に誘惑の強い言葉だった。

 ちくしょう。奴隷ちゃんが湯水のごとく使わなければ……。


「金欠、なんですよね?」


 知った風な口を……!

 クソ! 俺らの懐事情も把握してやがる!


 俺がそんな恥部を赤裸々に話すはずもないし、奴隷ちゃんも自分の立場というものをよく理解しているから、ペラペラ望月に話すとも思えない。

 ならば、誰か?


 いただろう。ここ最近、俺らの家に何度もやってきた、暇人の女が。


「貴様か、アイリス……!」

「できる敏腕女スパイと呼んでほしいわ」

「やかましい」


 何が女スパイだ。

 次に俺らの家に一人で来たら、捕まった女スパイR-18をするぞ。


「……奴隷ちゃんはどう思う?」

「私の傍で戦いを見ても、参考にならないとは思います」

「それはそうだな」


 奴隷ちゃんに振れば、そんな返しが。

 まあ、奴隷ちゃんの戦い方って、技術とか駆使しているわけではなく、もろ力推しだもんな。


 望月はそういう戦い方じゃないみたいだし、あまり見本にはならないだろう。


「いえ、色々と得られるものはあります。要は、それをどう自分風にアレンジして、取り込んで、活かすかということです。それは完全に僕のやるべきことなので、気にしないでいただきたい」


 これが勇者かと思わせられる。

 口だけだと思いたいが、望月なら本当に自分のものにするだろう。


 そんな直感があった。


「……お前らの指名依頼すべてに引っ付いていくわけにはいかない。依頼の内容と報酬金次第だ」

「ありがとうございます!」


 俺は結局望月の提案を受け入れることにした。

 まあ、よくよく考えれば、ちょっと面倒くさいけど大して働かずに大金が手に入るんだから、断る理由なんてなかったわ。


「(その狡さ、さすがです、マスター)」


 こいつ、直接脳内に……!?


「実は、今日一緒に受けたい依頼を持ってきているんです」

「随分準備がいいな。どんな依頼?」


 いきなりとは思うが、俺らも仕事をしなければならない。

 どんな依頼かな?


 簡単な奴でお願いしたいのだが……。


「はい、犯罪組織イリファスの調査です」


 全然簡単じゃない……。










 ◆



 犯罪組織イリファス。

 まあ、ぶっちゃけると、この世界にはこういった犯罪集団が結構ある。


 民度も文明レベルも低いし、それは当然だろう。

 というか、俺のいた現代日本でも、暴力団とか半グレとかいたわけだから、人間という存在が社会を築いている以上、そういった集団は確実に存在するだろう。


「問題は、かなり大きい組織ということね」


 アイリスは嫌そうに顔を歪めながら言う。

 へー、そうなんだ。


 俺、全然この世界について興味がないから、イリファスとかいうのもまったく知らなかった。


「そうか。そんなところにちょっかいをかけて大丈夫か?」

「ちょっかいをかけなくても、こっちを食い物にするような連中よ。抵抗しようとしないと、やられたい放題だわ」


 まあ、反撃されないと分かれば、ずっと食い物にするのが人間だ。

 いや、人間じゃなくても、他の動物でもそうか。


 少しは戦う気概を見せないと、一方的に搾取される。

 それが、命ならばしゃれにならない。


「それに、一気にこの組織を全壊させるつもりはないみたいです。というか、できないんですね。かなり大きな組織なので、それこそ各国が一斉に行動を起こすとかしない限り、壊滅させることはできないでしょう」

「じゃあ、絶対無理だな」


 あまりこの世界に興味のない俺でも、国同士がそんなに仲良くないことくらいは知っている。

 というか、隣国同士とかが仲いいというのは、元いた世界でもそうそうなかった。


 それは、たとえ犯罪組織を相手にするときでも変わらない。

 国と国の関係や付き合いというのは、人と人の関係や付き合いとはまったく違うからな。


「だから、今回調査するのは、イリファスの一つの支部よ。それに、今回は潰すことが目的じゃなくて、あくまで調査」

「そうか。それなら、まだギリギリ俺の身は安全か……」


 アイリスが侮蔑した目を向けてくる。

 お前らと違って弱いんだよ、俺は!


 正面から潰すとか言われなくてよかった。

 絶対に断っていたわ。


「とはいえ、かなり強大な組織なので、僕たちだけじゃなく、領主の私兵や他の冒険者たちと、複数のチームで行動することになりそうです」


 それを聞いて、何とも言えずにもにゅもにゅする。

 多くの冒険者で一つの依頼にぶつかることができるのは、表面的には心強い。


 仲間とは言えないが、同じ目標に行動する者が増えるというのは、味方を得たような感覚になる。

 しかし、もろ手を挙げて喜べないのは、それだけ多くの人員を雇わなければいけないほど厄介な依頼だという事実。


 依頼者からすると、金を払う額が増えるので、当然避けたいはずだ。

 それなのにもかかわらず、多くの冒険者を動員しようとしていることは、それだけ厳しい依頼だということ。


 しかも、領主の私兵が動くというのは、公的な色も含むということだ。

 くっ……急に行きたくなくなってきたぞ。


「で、イリファスってどういうことをしている組織なんだ? まあ、ろくでもないことは分かるんだけど」

「支部によって異なるようです。たとえば、後ろめたい人間の用心棒派遣であったり、薬物の売買であったり、性風俗のとりまとめであったり……」

「…………」


 アイリスの表情が強張る。

 それに気づかず、望月は話し続ける。


「今回、僕たちが調査する支部のしていることは……」


 心底嫌そうに顔を歪めながら、望月は言った。


「人身売買です」




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