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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第2章 テロリストと反社編

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第35話 はよ帰れ

 










 望月たちと一緒に賊の討伐依頼を受けてから数日後。

 あの後、三ケ田たちの方ではかなり深刻な事件があったようだが、報酬金はしっかりと支払われた。


 俺たちが受けたのは、あくまでも賊の討伐か捕縛である。

 それ自体は果たしているため、報酬金も満額出ていた。


 加えて、自分の正義感で暴走して決闘まで仕掛けてしまった負い目のある望月は、その報酬金のすべてを俺たちに渡してくれた。

 山分けではなく、である。


 結果として、一つの指名依頼丸まるの報酬金を手に入れたのであった。


「ふはははははっ! 小金持ちになったぞ、奴隷ちゃん!」


 そうなると、やはり笑いが止まらない。

 俺なんて、ただついていっただけである。


 それだけで、指名依頼一つ分のお金が手に入るなんて、最高だ。


「お金を片手に高笑いするマスター。小者すぎて素晴らしいです」

「馬鹿にしてんのか?」


 本当にこいつ俺の奴隷か?

 この世界の奴隷って、主人にこんな気安く話すことはできないはずなんだけど。


「まあ、これも全部奴隷ちゃんの頑張りあってだからな。好きなように使っていいぞ。節度を持って」


 気分が大きくなってしまったこともあって、つい調子に乗ったことを言ってしまった。

 奴隷ちゃんにそんなことを言えば、一瞬で溶けてしまうに違いない。


 俺は慌てて節度という言葉を付け加える。

 分かるな、奴隷ちゃん?


 主人の考えを慮って忖度するのも、奴隷の務めだぞ?

 俺の強い視線を向けられた奴隷ちゃんは、自信満々に頷いた。


 さすがやで……。


「数日持つでしょうか……」

「嘘だろ……?」


 何も通じていなかった。

 悲しい……悲しすぎる……。


 忖度の「そ」の字もなかった。

 指名依頼の報酬金ということもあって、かなり高額だぞ?


 舞子さんの依頼に比べれば低いけどさあ……。


「節度だぞ。節度を持つんだぞ?」

「必死すぎて笑えるわ」


 横やりを入れてくる女がいた。

 俺と奴隷ちゃんしかいないはずの家で、誰が喋りかけてくるのか。


 それは、勇者望月のパートナーであり、転移者であることを隠して暮らしているアイリスだった。

 俺を毛嫌いしているはずの彼女は、なぜか俺の家にいた。


 ……しかも、俺のベッドにうつぶせになって、雑誌を読んでいる。

 そのしぐさは、元の世界にいる年若い学生そのものだった。


 ……いや、俺のベッドでくつろぐなよ。

 何考えてんだ、この女。


「お前は当たり前のように居座っているけど、何しにきたんだよ」

「優斗が奴隷ちゃんに負けたこともあって、鍛え直すって言っているのよ。だから、最近は依頼を受けずにお休み状態なの。十年くらいなら働かなくても生きていけるほどお金はあるしね」


 何でもないように言うアイリスに、俺は愕然とする。

 何それ羨ましい。


 許せねえわ、ブルジョワ。

 ……いや、まあ俺も稼いだ額で言えば、常時指名依頼を受けているアイリスたちにはかなわないだろうが、そこそこ稼いでいる。


 一般人の生涯年収くらいはお金を持っているはずなのだ。

 だいたい奴隷ちゃんが溶かしちゃうので、ほぼ貯金はないのだが。


 悲しい……。


「お前はそれを手伝ったりしなくていいのかよ」

「あたしは別に近接戦闘タイプじゃないし、奴隷ちゃんに勝てなくても大して気にしないわ。転移者の地位向上とか、そんな大層な目標、あたしは持っていないもの」

「パートナーで意識に違いがあったら不味くないか?」


 元の世界での話になってしまうが、部活で目標がバラバラだと、練習に身が入らなくて結局目標までたどり着けないというのがある……と聞く。

 アイリスは望月と二人のペアなので、それぞれが違う方向を向いていたら、なおさら進みづらいだろう。


 思わず声をかければ、アイリスはなんてことないように笑う。


「大丈夫でしょ、たぶん。優斗もバカじゃないから、ちゃんとあたしのことを考えてくれているし。あんまり無茶をするようだったら、あたしから優斗にも言えるしね」

「ふーん。まあ、いいんだけど……」


 俺の心配なんて、余計なお世話だろう。

 俺よりも強いんだし、心配する必要なんてなかった。


 まあ、それはそれとして……。


「人の家、しかも俺のベッドを当たり前のように占領するのは止めてくれない? 俺、割と潔癖症なんだけど」


 俺、自分のベッドに他人が寝ているの、あんまり我慢できないんだけど……。

 すると、ギロリとアイリスが睨みつけてきた。


「は? あたしが汚いって言いたいわけ?」

「いえ、そんなことはありません」

「マスター、弱い」


 怖い……怖いんだもん……。


「あと、その薄着で足を動かしていたら、パンツ見えるぞ」


 よほど雑誌が面白いのか、ご機嫌な様子で足をパタパタと揺らす。

 こいつ、何を思ったのかスカートをはいてきているものだから、パンツが見えている。


 むっちりとしたお尻に食い込む布。

 卑猥だ……。


「今更でしょ」


 へっと冷たく笑いながら吐き捨てるアイリス。

 お、お前! 奴隷ちゃんがいる前でなんてことを……!?


「マスター。そう言えば、そういう関係の詰問がまだできていませんでしたね。これからしましょう。暇ですし」


 ズオッと、俺には何だかよくわからない黒いオーラを噴き出させる奴隷ちゃん。

 や、やられる……!?


「おっと。なんだか急に依頼を受けたくなってきたな。よし、奴隷ちゃん。一緒に行くか」

「……はい」


 めっちゃ早口で言えば、非常に不服そうにしながらも奴隷ちゃんは頷く。

 奴隷であることにこだわりがあるようで、俺が言えば、基本的に従ってくれる。


 よし、このまま誤魔化すか。

 俺がそう意気込んでいると、アイリスは非常に不満そうに見てくる。


「……あたしには何かないわけ?」

「はよ帰れ、疫病神」




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