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【書籍化・コミカライズ】自分を押し売りしてきた奴隷ちゃんがドラゴンをワンパンしてた  作者: 溝上 良
第2章 テロリストと反社編

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第31話 喜んでぇ!

 










 こうして戦いは終わった。

 まあ、賊の中で一番強い三ケ田は望月に負けていたし、踏み込みだけで大勢を一瞬で再起不能にした奴隷ちゃんを相手に、戦おうとできるだけの気概を持つ者はいなかった。


 それもそうだろう。

 俺も絶対に嫌だし。


「では、この人たちのことをよろしくお願いします。くれぐれも乱暴をしたりはしないでくださいね」


 望月は拘束された賊たちを、武装した兵に渡していた。

 それは、一度返り討ちにされた領主の私兵たちである。


 さすがに自分たちよりも多い数を護送することはできないと判断し、呼んだようだ。

 まあ、それ自体は悪い判断ではないと思う。


 ただ、引き渡す相手が一度負けた私兵たちかぁ……。

 俺は何とも言えない顔をしていた。


「ええ、それはもちろんです。とくに、勇者と名高い望月さんのお言葉もあれば、丁寧に護送させていただきます」


 にこやかに人の好さそうな笑顔を浮かべる私兵。

 それに安心したのか、望月は穏やかに笑って三ケ田たちを引き渡した。


 彼女らの顔は明らかに引きつっていたが、それに気づくことはない。

 そうして、三ケ田たちは連行されていくのであった。


 まあ、結局依頼を受けたのは望月であり、俺は報酬金をかすめ取るだけの存在だ。

 だから、いちいち批判や忠告をする権利はないのだが……一応言っておきたかった。


「……本当にいいのか?」

「何がですか?」


 何のことかと不思議そうに首をかしげる望月。

 俺の視線が連行されていった先にあると知って、頷いた。


「ああ、彼女たちのことですね。本当なら僕たちが最後まで責任を持つべきなんでしょうけど、数も多いですしね。それに、どうしてもお二人にお話ししたいことがあったので」

「いや、話くらいはいくらでも聞くけどな。三ケ田たちをあの私兵たちに連行させたってことが、どういう意味になるかわかるよな?」

「はい?」


 本当に何を言われているのか分からないと首をかしげる望月。

 えぇ……? なんでわからないのぉ?


 マジでこの世界に来ても平穏に暮らせていたんだな、こいつ。

 逆に凄い。


 俺もあっちの世界にいたら望月のような考え方になっていたかもしれないが、こっちの世界に来てから、随分と擦れてしまった。

 もはや天然記念物ものである。


 俺は、なんだか居心地悪そうにしているアイリスを見る。


「……アイリス、お前ちゃんと教育しておけよ」

「……ご、ごめんなさい」


 俺にやたらとツンツンしていて、相性の悪いアイリスが、素直に謝罪する。

 それくらいのことだった。


 さすがに異常だと思った望月が尋ねてくる。


「えーと……どういうこと?」

「いや、あいつら、たぶん三ケ田たちのことは殺すぞ? もしかしたら、領主が三ケ田だけは生かして連れてくるよう言っているかもしれないが、ある程度は痛めつけられるぞ。あいつらに引き渡したってことは、そういうことだぞ?」


 元いた世界と違って、こっちの人間はしっかり仕事をしないというか、倫理観は低い。

 しかも、公権力でもなく、領主の私兵という立場の人間たちだ。


 多分……というか、ほぼ確実に、自分たちに煮え湯を飲ませた賊たちに報復するだろう。

 まあ、三ケ田くらいは領主が直々に報復したいと考えているかもしれないから、生かすかもしれないが……。


 少なくとも、望月の考えているように、無傷で牢屋の中に入ることなんてないだろう。

 俺たちのいた世界の警察のように、しっかりと仕事はしない。


「な、なにを言っているんですか? 言いがかりは止めてください。それに、人を信じようとしないのは、あまり良くないと思いますよ」

「初対面の人間をどう信用しろと?」


 無条件で赤の他人を信用できるわけないじゃん……。


「そんなこと、するはずないじゃないですか。そもそも、どうしてそんなことを……」

「あいつらが賊に返り討ちにされた私兵だろ? 仲間は何人か殺されただろうし、メンツをつぶされたということで領主からもそれなりに怒られただろうし。いやー、腹に据えかねないものはあるだろうなあ」


 人間は、他人からの評価を大なり小なり気にする。

 賊程度に負けた領主の私兵となれば、それはもう評価は下がったことだろう。


 領民たちからも偉そうにしていたら『賊程度に負けたくせに』と思われて舐められるだろうし、領主からはヘタをすれば給金を下げられたなんてこともあるかもしれない。

 まあ、しょせん全部俺の下世話な妄想に過ぎないから、実際はどうか分からないけどな。


「さっき、僕と約束してくれました。僕はそれを信じます」

「そっか。まあ、俺はそれでもいいと思う」


 望月の言葉を、俺は否定しなかった。

 人の考え方を変えるなんて、おこがましいことだ。


 望月が信頼するというのであれば、好きにすればいいと思う。

 これは、こいつが受けた指名依頼なんだし。


「で、話ってなんだっけ?」

「はい。先ほどの、ど、奴隷ちゃんの力を見て、改めて思いました」


 奴隷ちゃんというところで言いよどむ。

 ……俺も最近麻痺してきていたけど、そりゃ言いづらいよな。


 やばい。奴隷ちゃんに侵食されてきていた。

 俺は常識を変えられていたことに戦慄する。


 そんな俺に対し、望月は真剣な表情で頼み込んできた。


「彼女を解放してあげてください!」


 喜んでぇ!



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