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魔王とタピオカ、そしてからあげ※

いつも読んでいただき、ありがとうございます♪

今回は感謝をこめて、

ヴィーのレシピを大公開( ´ ▽ ` )

「なんだ、これは。こんなものを我に飲めと?」


「ええ。自信作です」


 魔王の問いに、私は大きく(うなず)く。途端にメイド用の白いキャップに包まれた青い髪が、はらりと(ひたい)にかかった。


 圧倒的な美貌の魔王は立派な二本の角を持っていて、黒髪は襟足(えりあし)が肩につく程度の長さ、切れ長の目には金の瞳が(きら)めいている。すっと通った鼻筋と高い頬骨(ほおぼね)、すっきりした(あご)のラインや形の良い唇は芸術品のように美しく、どれだけ見ても飽きることがない。


 ここは魔王の私室で、彼は数刻前、城に戻ったばかりだ。

 むき出しの石の壁には複雑な装飾が(ほどこ)され、床は磨かれた大理石、テーブルは魔法で強化されたという黒曜石。椅子はゴシック調の()った作りで、背もたれと座面が赤くて柔らかそう。

 けれどそこに座る魔王は、嫌そうに眉根(まゆね)を寄せていた。


 テーブルの上の『タピオカドリンク』が、よっぽど気に入らないのだろう。


 グラスの底にある黒い球状のタピオカは、前世では馴染(なじ)み深いものだが、この世界では初めてだ。何かの卵のようにも見えるので、警戒しているのかな? 


 この地で取れる黒芋と米粉を混ぜたタピオカに、グァバに似た果物の果汁を使い、ストローは吸血樹(きゅうけつき)の枝を利用した。全て一から作っているため、見た目よりも相当手間がかかっている。


「美味しいですし、甘いものは疲れた身体によく効きます。毒味も済ませておりますし、料理長も太鼓判を押してくれました。さあ、どうぞ」


 期待を込めた目で見つめると、魔王は大きく息を吐く。


「毒など我には効果がないが……。まあ、よい。(だま)されたと思って飲んでみよう」


 魔王の感想は、初めて飲む前の私と一緒だ。

 (あきら)めたような表情が、なんだか可愛い。


「そなただから信用するのだぞ。他の者の(すす)めであれば……」


「魔王様。前置きは結構ですので、さあ、早く」


 にこにこしながら()かしたところ、魔王は黒く長い爪の生えた手で、タピオカ入りのグラスを(つか)む。

 伏し目がちでストローに口を付ける姿は、コマーシャルかと見紛うほどに麗しい。


「ゴホッ、ゴホッ」


 見惚(みと)れていたら、魔王が思いっきりむせている。


「……あ。言い忘れましたが、ゆっくり飲んでくださいね。丸いのは、よく噛んで」


「遅いぞ! 飲めと言うから、飲んでしまったではないか。…………ふむ」


 真面目な顔でタピオカを()む魔王。

 改良を重ねたもちもちした食感と果汁の爽やかな酸味が、口いっぱいに広がっているはずだ。


 ――あ。今、もしかして笑った?


 口角を上げただけだけど、続けて飲んでいるところを見ると、気に入ってくれたみたい。


「まあ、悪くない。これ一つで栄養が取れるなら、わずかな時間で魔力が回復できるだろう」


 魔王の「悪くない」は「良くできました」のことなので、私は満面の笑みを浮かべる。


「底の黒い塊は、よくある黒芋を粉にしたものに、新種の米の粉を合わせたものです。お米作りが広まれば、魔界のどこでも口にできるかと」


「こめ? それがあれば、食事がまともになるのか?」


「まともどころか、大改革です! すぐには無理ですので、徐々に増やしていきましょう。それから、新作は他にもあります。魔王様が頭を悩ませていた問題を、解決するに至るかと……」

 

 言い終える間もなく、扉が開く。

 次いで、黒くてまん丸なもふもふ悪魔――『もふ魔』が飛び込む。


「きゅいーーー!」


「ぎゅいーーー!」


 二匹はゴムまりのように(はず)み、突進してくる。私は思わず腕を伸ばして、一匹を抱き留めた。


「ぎぃーきゅきゅ?」


「ヴィーまだ……ってあなた達! 今はお仕事中だって言ったでしょう?」


 小悪魔達のつぶらな瞳を見ると心が揺れるが、あえて厳しく(たしな)めた。


「きゅーー」


「悲しそうな顔をしたって、ダメだから」


「……くっ」


 ――え? 今のって、まさか魔王?


 魔王は握った手を口に当て、(こら)えているようだ。

 目が細められているから、これって絶対笑っているよね?

 

 この調子なら、死なずに済むかしら。

 死亡フラグを回避して、自分の居場所を確立できる?


 そもそも魔王に、私を処刑する気はあるのだろうか?




 私はもふ魔を床に下ろして、真剣な口調で告げる。


「新作とは、コカトリスです。処分に頭を悩ませていらしたご様子なので、調理してみました。お持ちしてもよろしいですか?」


「ああ、構わぬ」


 すぐに揚げたてのからあげが入ったお皿を運び、テーブルの上に置く。

 調理場で摘まみ食いでもされたのか、数が結構減っていた。

 

「これが、そうか?」


「ええ。『からあげ』というものです。今はまだ米粉が足りませんが、多く栽培すればたくさんできます」


「こめこ? ……ふむ。まあ、食してみるか」


 魔王が黒く長い爪で、からあげを摘まむ。

 そんな姿も絵になって、からあげがエリクサー(万能薬)のようにも見える。


「なるほど、悪くない。だが、甘いものの前に食べたかった」


「……あ」


 タピオカドリンクを勧めたい一心で、ついあっちに力が入ってしまった。

 だってタピオカの方が、作るのに苦労したのだ。


「も、申し訳ありません」


「いや、我が不在の間によくやった。インプともども褒めてつかわす」


 ようやく認められた気がして、嬉しくなった。「つかわす」って、どこかで聞いた気が――?


 ちなみにからあげの材料は、こんな感じだ。



 ◇◆◇ヴィーのもみもみからあげ◇◆◇


 鶏肉 400~500グラム

(モモまたはムネ)

 塩  小さじ1

 粗挽き黒こしょう(なければ普通のこしょう) 小さじ2分の1程度

 粒マスタード 大さじ2

 (粒のないマスタードの場合は少なめ)

 小麦粉または片栗粉、もしくはタピオカ粉&米粉 大さじ3~


 1.鶏肉を一口大に切り、ビニール袋へ

 2.分量の塩を入れてもみもみ

 3.分量のこしょうを入れてもみもみ

 4.分量の粒マスタードを入れてもみもみ

 5.30分~ねかせる(室温が高い場合は冷蔵庫へ)

 6.粉を入れて袋の口を手で握り、振って粉をまぶす

 7.180℃の油で揚げる


 ヴィーのひとこと

「現代風にアレンジしてみたわ。もふ魔がいない場合はご自分、またはお子さんにもみもみしてもらえば良くってよ」

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 確かにタピオカは卵っぽい あーから揚げは最強でしょ! 味見したのは・・・
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