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太陽が消えた日

 タピオカをドリンクに入れると、手軽に摂取できる。カロリーがあるから、魔力の回復も早くなるだろう。

 何よりあの黒芋を、美味しく食べられる!


 残念ながらストローがないので、タピオカドリンクはお預けだ。


「早速、魔王様にも報告しないとな」


「ええ」


 料理長の言葉に首肯(しゅこう)する。


 前世では、タピオカ粉に米粉を混ぜれば、小麦粉の代わりにもなった。


 パスタや食パン、パンケーキにカステラ、クレープ、シュークリームなどいろんな料理に応用できる。


 それならこれも、美味しくなるかな?

 

 ――待って。米粉が足りないわ!


 慌てて調理場のみんなに告げると、お祭り騒ぎはまたたく間に(しず)まった。


「じゃあ、黒芋だけじゃなく『こめこ』というものがないと無理なんだな」


「はい。お米を粉にしたものですが、それがないと粘り気がすごくて……」


「おこめ? あの、一生懸命栽培していたやつか?」


「ええ。(たる)で育てていた稲から採れたものが、お米です」

 

 そんなわけで、魔王への報告はいったん中止。私はさらに研究を重ねることにした。


 米粉を入れるともちもちしていたタピオカが、米粉なしだとただのゴム。黒麦の粉だとなんか違う。

 黒芋のねばつきは最強で、粉にしてもあまり衰えない。


「やっぱり、米粉を混ぜないと美味しくないのね」


 収穫後の種籾は、水に浸けてある。繰り返し作れば、お米はまた確保できるはず。


 ただそれだと、たくさん採れる黒芋に対して、米粉の量が圧倒的に足りない。しかもお米は、魔王の浮かべる光の球が届く範囲でないと、育たない。


「うまくいくと思ったのに、ダメかぁ」


 後日、肩を落とした私を料理長が(なぐさ)めてくれた。


「ま、一度だけでも美味しく味わえたから、礼を言わなきゃな。そのうち良い方法が見つかるさ」


 ルーは相変わらずお肉にしか興味がなく、もふ魔達はお気に入りのすり鉢が使えなくてがっかりしている。


 それでもまだ、終わりにしたくない。

 少しずつでも収穫できればいいと、私はせっせとお米作りに励む。




 そんなある日。

 稲の苗に水をあげていたところ、見知らぬ魔族に絡まれた。


「んあ? 人間臭いぞ」


「本当だ。美味そうな匂いだな」


 トカゲのような頭と(ひょう)の頭の魔族が、こっちを見てニヤニヤしていた。

 嫌な予感に襲われて、私はじりじり後ずさる。


「その格好(かっこう)は下女か?」


「非常食だろ。なら、味見くらいはいいよな」


 今日に限ってもふ魔は(そば)にいないし、ここは巡回の兵士も来ない死角だ。

 

「おい、お前。返事は?」


「わ、わたくしは魔王様から言いつかった大事な役目の途中です」


「ハッ、つくならもっとマシな嘘をつけ」


「そうだぞ。人間ごときが魔王様の名を語るな!」


 嘘じゃないのに、全然わかってもらえない。食事のための殺戮(さつりく)は禁止だと聞いているのに、この二匹は無視するつもりなの!?


 気がつけば、前後を挟まれ逃げられない!


「戻ります。通してください」


「いやだね。だが、腕の一本でもくれれば、考えてやらないこともない」


 理不尽な要求に、はい、そうですかと言うとでも?


 私はくるりと背中を向けて、そのまま走る。


「あっ」


「待て、人間!」


 危険が迫っているのに、待てと言われて待つバカはいない。


 全速力で調理場をめざすが、あっと言う間に豹の頭の魔族に追いつかれてしまう。


「もう逃げられないぞ。おとなしく、腕を(かじ)らせ……うわあーっ」


 肩を掴まれそうになった瞬間、豹頭がはるか後方に吹っ飛んだ。遅れてきたトカゲ頭は、驚いて目を見開いている。


「今、何が起きた?」


 すると、バタバタと走る音と城の兵士らしき声がする。


「こっちで何か聞こえた。なんだ?」


 トカゲと豹がうろたえているその(すき)に、私は急いで調理場に駆け込んだ。


「た、助けて、ください。知らない、方々、が……」


 上がった息で説明すると、サイクロプスの料理長が、木の麵棒(めんぼう)を手にした。


「ああ? ヴィーをいじめるとは、けしからん!」


 料理長を連れて戻ると、二頭の姿は消えていた。ホッとする間もなく、衝撃を受ける。

 

「そんな! 苗がめちゃくちゃだわ!!」


 私に逃げられて腹が立ったのか、それとも逃げ惑ったからなのか。さっきいた場所が、手当たり次第に踏み荒らされていた。


 苗の入った樽はひっくり返り、近くの畑にも侵入した跡がある。

 周りもいつもより薄暗い。


「何かが足りないわ」


 違和感の正体に気づいた途端、青くなる。


「光の球が消えている!」


 なんと、太陽代わりの光の球が、影も形もなくなっていた。


 怪しい彼らは、苗を樽ごと蹴飛ばして、その拍子に真上にあった光の球まで消してしまったのだろうか?


 私は半べそをかきながら、苗を樽に戻していく。手は泥だらけで爪に泥が入るけど、そんなの気にしていられない。

 

 お願い、元通りに復活して!


 料理長が兵士に事情を話してくれたようで、後からスクレットがやってきた。


「おや、まあ。なぜこんなことに?」


「わたくしにも、わからない。見知らぬ魔族に襲われ逃げたので。戻った時にはこの状態よ」


 ショックと怒りで震えが走る。


「ご無事で良かった」


 同情された気もするが、スクレットはガイコツなので、表情が読めない。


「ありがとう。でも、稲が……」


「見つけ次第、そいつらには罰を与えましょう。どうせ遠方から来た下級魔族が、魔王様の不在を知って、腹いせに暴れたのでしょうが」


「え、魔王様はいらっしゃらないの? お戻りはいつ?」


 彼がいないと光の球が作れない。

 日照不足では、苗が枯れてしまう!


「さあ? 今日でないことは確かですね。詳しくは、クリストラン様がご存じです」


「あの、嫌みな吸血鬼……」


 私は顔をしかめた。人間嫌いの吸血鬼に尋ねるなんて嫌だけど、背に腹は代えられない。


 仕方なく会いに行くと、吸血鬼のクリストランも嫌そうな顔をする。

 

「なんですか? 仕事の邪魔をしないでください」


「魔王様の、お戻りの日を教えてください」


「なぜ私が、人間なんかに教えないといけないんですか?」


「苗が枯れてしまうので、大至急連絡を取りたいんです」


「苗? ……ああ、あなたの勝手なお遊びのことですね」


「遊びではありません。真剣に栽培しています!」


「それが、お遊びだと言うんです。これ以上余計なことをして、魔王様のお手を(わずら)わせないでください」


「余計なことではありません。光を作っていただければ、食糧事情が解決できるんです! でも、もしなければ……」


「それはそれは、いい気味ですね」


 ダメだ。話が通じない。

 それならルーにお願いしよう。


「ああ、それから。あなたのペットに成り下がったフェンリルも、魔王様と一緒に遠征中ですよ。味方がいなくて残念ですね」


 吸血鬼は嫌みったらしくそう言うと、それはそれは綺麗な笑みを浮かべた。


次回、ヴィーともふ魔が活躍します(o^^o)



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― 新着の感想 ―
[一言] やばい、トカゲと豹も腹立つけど いい加減、吸血鬼をアイアンメイデンに入れたくなった 死ぬほど血抜きしたい・・・
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