act.20:Go Big or Go Extinct
三首吸精邪巨神 ギドラキュラス
髑髏巨神 スカルキング
登場
ズゥンッ!!!
ブレイガーOは、その手に持ったモノを瓦礫の大地に下ろす。
三日月の形。
それは、そのマニピュレーターに持った片方からもう片方まででブレイガーOの全長を超える大きさだった。
引きづられ、大地を耕し後を残しながら進まされる、全てオリハルコン製の翼。
燃料切れのスクランブルウィンガー。
目の前すぐそこまで、ソレを引きずってゆっくりと進んできたブレイガーO。
[腕部への魔力リソース増加中]
目と鼻の先にギドラキュラスを捉えて、パンツィアはコンソールを操作してブレイガーOの腕部へパワーソースを全て注ぐ。
「すぅぅ〜〜…………」
ギギィ、と自分の全長を超える翼をブレイガーOは持ち上げ、構える。
「どっせぇぇぇいッッッ!!!」
ゴォンッ!!
一撃目は真ん中の頭。斜め上から。
バキィッ!!
二撃目は左の頭。
ゴシャッ!ゴーンッ!!ズンッ!!
三撃目、四撃目、五撃目……!!
ブゥンと空気を切り裂くように巨大な翼をぶつけて殴る!!
━━━キュルルァアァァッ!!
だが、八撃目でスクランブルウィンガーは掴まれ、奪われて投げ捨てられる。
巨大なオリハルコンの翼は弧を描き、ズガァン、と音を立て地面をバウンド。
二、三箇所クレーターができてからようやく、二つの丘の間で偶然水平になり丘へ突き刺さった。
まるで橋のように。
━━━キュルルルッ!!!
甲高い声で吠えるギドラキュラス。
ゴキッ、メキィと音を立てて傷が盛り上がり、やがて治る。
「面倒な奴だな……!
あのザンダラ並みの再生力って……!」
パンツィアは、計器の右上にある半透明の筒に丸い金属球が浮かんだようなボタンに手を伸ばす。
しかし、その瞬間見えてしまった。
「クソッ!!早く離れないと!!」
「モタモタするもんじゃねぇな、本当!!」
それは、まばらな人々。
大勢ではないが数え切れない数はいる。
「まだ逃げてないのか!?
どわぁっ!??」
瞬間、ギドラキュラスの吐き出した3つの赤い雷を真正面からまともに食らってしまう。
「ぐぅぅぅぅぅ……!!
踏ん張れ私達のブレイガー!!」
なんとか衝撃に耐えて脚部を踏ん張らせ、転倒は免れる。
ズンと一歩下がった先の地面に大きな足跡が付いた。
「ふぅ……超合金製じゃなきゃ死ぬ所だった……!!」
シュゥ、と煙こそ出るが、意外なことに塗料すら剥がれ落ちていない。
流石は超合金スーパーオリハルコンとは言える。
だが、相手も相手。
視界に再び赤い光が見える。
「何度もくらうかッ!!
神光切断砲━━━ッ!!」
ブレイガーOの目に見える部分の奥に、瞳のように魔法陣が浮かび、直後凄まじい閃光が放たれる。
ビィィィィィィィィィィィッ!!
眩い白と赤のぶつかり合い。
白が押し、赤が押し、一進一退の『光の鍔迫り合い』が繰り広げられる。
「行くぞッ!!
最大出力だぁぁぁぁぁぁッ!!」
神光切断砲の出力調整つまみを中出力の『青』から高出力の『黄』を超え、
「喰ぅらえぇぇぇぇぇぇッ!!」
限界出力の、『赤』へ。
ビィィィィィィィィィッ!!
ズバンッ!!!
極太の光が赤い雷を押し切り、ギドラキュラスの中央の頭を貫く。
「やった……!?」
神光切断砲を停止させ、ここから見える穴を見て思わず呟く。
だが直後、うぞうぞ蠢く細胞が穴を塞ぎ、数秒でギドラキュラスの傷が再生した。
「何ッ!?」
キュルルルッ、キュワァァッ!!
直後、とてつもない跳躍力でこちらへボディプレスを仕掛けるギドラキュラス。
「くっ!!」
とっさにブレイガーOは腕を伸ばし、寸前の所でギドラキュラスを投げるように地面へそらす。
ズバァン!!
土煙が爆発するように吹き上がり、両者の姿を隠す。
「コイツ、うわっ!?」
その煙を切り裂いて、2つの尾が薙ぎ払われブレイガーOを打つ。
再び倒れたブレイガーOの地面から噴煙のような土煙が上がる。
「ぐぅ……
ってうわぁぁッ!?!」
容赦のない追撃の踏みつけがやって来た。
寝ていては危険だと大地を耕すように転がって、すぐにブレイガーOを起こす。
「コイツ……!ただ力任せじゃあないぞ!!」
再び来た尻尾の水平攻撃に、咄嗟に空手の『サンチン』と言う構えをとったブレイガーOは尾の一撃に耐える。
相手の着地と同時に左拳を突き出すブレイガーO。
しかし、なんとギドラキュラスは、片手で受け止め、衝撃だけが周りに伝わるだけとなる。
「こ、このパワー……!!」
ギリギリとお互い片手だけで伝わる力によって、パンツィアは目の前の奴はブレイガーOと互角のパワーを持つと理解する。
「ただ、これでどうだ!」
パンツィアは超高熱火球砲へ右手を変形させて構える。
しかし、相手は発射寸前にその腕を左腕で払い落とし、虚しく地面をプラズマが爆散させる結果となる。
「何ッ!?
だったらぁ……!!」
素早くボタンを押して出力スロットルレバーを上げる。
「極大炎熱魔砲━━━━ッ!!!」
40%チャージ出力で、胸の水晶部から放たれる超高熱の極大炎魔法。
しかし、ギドラキュラスはそれをなんとか避けるように飛ぶ。
「逃すかぁぁぁッ!!!」
当たった大地を真っ赤に溶かし、木々や草を焼き払って薙いでいくよう発射したまま追う。
「いつまでも飛ぶ気か!?
止まったところを燃やしてやるぞぉッ!!」
そして、等々ギドラキュラスの跳躍の終着点が分かる。
このまま……!
「!?」
ダメだ。
極大炎熱魔砲は停止せざるを得ない。
ギドラキュラスが降りた大地の先には、
━━━━まだ明かりが灯り、逃げる人が残っている。
「卑怯な……!!
いや、どの道首都みたいな大人数の避難なんて、普通は間に合わない……!」
だからといって極大炎熱魔砲を撃って言い訳ではない。
それをいいように利用するとは……!
キュルルル……!
ギドラキュラスは、不敵そうに鳴く。
そして、唐突にその尻尾で、足元の建物を吹き飛ばす。
建物は、綺麗な放物線を描き、逃げ惑う人々の方角へと向かっていく。
「!!」
パンツィアは、瞬間ブレイガーOのロケットブースターを起動させた。
爆発魔法の反動で一気に加速してブレイガーOはギドラキュラスを追い越し、もうすぐそこまで落ちている瓦礫に右腕を伸ばす。
「させるかぁっ!!
反重力牽引魔法!!」
短い詠唱でブレイガーOの右手はプラズマキャノン発射形態へ変形し、プラズマの代わりにある魔法を雷のように打ち出す。
「きゃぁぁぁぁぁっ!!」
「伏せろぉっ!!」
その時、伏せた人々の真上で、ブレイガーOの放った魔法が瓦礫を捉える。
一瞬で落下が止まり、ブレイガーOの右手ヘと瓦礫が吸い込まれるように集まっていく。
「ぐぬぬぬぬぬぬ……!!」
バランスを崩さぬようにフットペダルを踏ん張り、皆が置いていった露店やら何やらも集め巨大な塊に変える。
「よくもみんなを狙ったなぁ!?
お返しだぁッ!!!」
魔法で引っ張られた塊は、まるでモーニングスターという鎖で繋がれたらハンマーのように振り回され、ギドラキュラスの3つの頭をいっぺんに殴り飛ばす。
キュルルル、ルァァアァァッ!!
しかし、ギドラキュラスは倒れない。
再び口から放たれた赤い雷を、ブレイガーOはまともに食らってしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁッッ!!
ぐ、ぐぅ……!!!」
いくらボディは超合金と言えど、衝撃も雷撃もコックピットには伝わる。
パンツィアはその小さな身体を踏ん張らせ、ブレイガーOの操縦桿とフットペダルにかける力を緩めない。
「避けられないからってぇ……!!
くぅっそぉぉぉぉぉぉぉッ!!」
***
「あ、あの巨人……避けないのか?」
足がすくんでしまった男が、ブレイガーOの背中を見て気づく。
「立って!!避けないんじゃあないの!!
避けられないのよぉーッ!!
私たちを助けるためにッ!!」
あぁ、と手を伸ばしてくれた女性に、ハッとした表情を見せる。
「クソッ!すまない、すまない黄色い巨人……!」
「謝っている暇があるなら逃げなさいよぉ!!
そこの坊や!!貴方も!!」
と、立ち尽くしてブレイガーOの背中を見ていた少年を無理やり走らせる。
「…………あの巨人、」
その彼は、逃げる間もずっとブレイガーOを見ていた。
「あのデッカい巨人……
太陽みたいな色だなぁ……!」
***
「くっそぉ!!
踏ん張れブレイガーO!!
反射魔法障壁展開だぁーッ!!」
赤い雷を掻き分け腕を前に出し、ブレイガーO専用の対非実体攻撃用の防御機構である反射魔法障壁展開を展開。
人の残っていない大地へ雷を反射させて逸らし、地面を踏みしめるよう力を込めて前に進み始める。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!!」
しかし、敵の攻撃は激しい。
文字通り一進一退の攻防は、ブレイガーOより先にパンツィアが参ってしまいそうな勢いだ。
「クソォォォォォッ!!!
打つ手なしのままやられるだなんてぇぇぇぇ!!!
絶対に、
嫌だァァァァァァァァァッ!!」
それでも、防御を止めるわけにも行かない。
他の武装もこの姿勢では使えない。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!!」
ジリ貧か、そう思われた瞬間、
ボゴォンッ!!!
空気を切り裂くような勢いで、なにかがギドラキュラスを横から吹き飛ばした。
「!?」
キュルルァアァァッ、と叫びながら、近くの頑丈な建物に頭から倒れこむギドラキュラス。
突然のことに驚いたパンツィアに、さらに驚くべき光景が起こった。
グルルルルルル……!
━━━燃えていた。
踏みしめた木造の建物が、植えられた木が。
いや、それを踏んだ脚が、
いやいや、その体全体が。
━━━キシャァァァァッ!!!!!
揺らめく炎に照らされた髑髏に顔。
黒かった体は灼熱の炎に赤く照らされ、
恐るべき形相だった目すら圧倒的な熱量の赤に染められている。
━━━キシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!
火山が噴火した轟音のような咆哮を放ち、
スカルキングは、灼熱のマグマのように燃えていた。
***




