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act.2:大陸の夢と最先端の技術が詰めた計画


 ポーッ!!


 汽笛の音を響かせて、機関車が走る。


「しっかしねぇ、」


 機関車の運転席の上、天井に座り黒煙を浴びる1人の女性、


 いや、長い髪の両脇から伸びる角が、人間とは違う瞳の形が、人間ではないことを示している美女が、そう口を開く。


「案外、遅いのね。初めて乗ったけど」


 と、下の運転席にいる相手に語りかけるよう言う。


「そんなこと言うんだったら手伝ってよぉ〜!!

 人手不足で1人でやってるんだよぉ!?」


 そこにいた1人の女エルフは、白い肌をススで汚し、服がはだけて豊満な胸が揺れるのも気にせずに、ひたすら石炭を炉へ入れていた。


「なによぉ、あんたらブレイディア急行が貧乏なのがいけないんじゃない」


「うっしゃい!!

 あと私はユグドラシア鉄道の方だもん!

 ……なんやかんやで統合されてるっぽいけど…………」


 はいはい、と上にいた女性が、下の運転席へ滑り込む。


「あとここ従業員専用!」


「いいじゃない、今日乗ってるの私だけだもの?」


「ぐぬぬ〜〜…………まったく」


 ふぅ、と一息つき、速度計と温度計を見る女エルフ。


「…………もう、ブレイディアの竜騎兵部隊に戻らないの?」


 ふと、そう言葉を投げかける。

 女性の方が、視線を落とす。


「…………」


「なんか言ってよ、マルティナ、」


「その名前の由来、話したっけリルファ?」


 ふと、マルティナと呼ばれた女性の言葉に、女エルフ━━リルファが怪訝(けげん)な顔を見せる。


「私が見つかったの、聖マルティア国の山でね。

 向こうの竜の巣の中で、一体だけ人間みたいな姿だった私が、いたの。


 それで、友好の証に私が寄贈されたのが、大体八十年前。

 国の名前にかけてだなんて、我ながらロマンチックでしょ?」


 ふと、マルティナは外に浮かぶ空を見上げる。


「私は、ずっとあの空を飛んでいるんだと思ってた。

 あの守護竜レア様と同じ、数少ないドラゴンリュート、人と竜の姿を行き来できる竜だったもの……

 竜騎兵部隊では、常に先頭で旗持ち。

 もちろん、速さでもあの白っこのラインが車ではトップだったのよ!?

 色んな竜騎兵を乗せてきた…………」


 でもさ、と徐々に下を向いていく。


「…………でもさ…………あんなの、そうするしかないじゃん。

 訓練中のミスで玉突き事故して……私は、背中の子を、ぶつかった子を守るために……」


 ぎゅ、と自分を抱くようにした腕の先、指が触れる背中。


「……翼、切るしかなかったの?」


「名誉の負傷だしね。


 ……嘘。本当はちょっと後悔してる……!」


 指先の力が強く、もうなくなったものをつなぎとめるように力が入る。


「……でも、どうしようもないんだ。

 もう飛べない。速く風を切れない。


 もう……いつのまにか、私より遅くなったこの機関車も……


 追いつけないし追い越せない」


 涙を流しているわけではない。


 ただ……その震える背中は確かに泣いていた。


 それは、エルフ由来の超感覚だとかそういうもので感じたのではない。


 きっと、今のこのドラゴンリュートの彼女を見れば、誰もがそう思うはずだ。




「私……もうあそこのいるのも辛くってさ…………

 でも、出てきちゃってあれだけどさ……


 これから、どうすればいいかな?」



「…………終点だよ、マルティナ」


 その答えにリルファは答えられなかった。


「……もう、終わりか。遅い割に速、」


「あれ?オルファス?」


 ふと、駅を見ていたリルファの目に、見慣れた駅長の顔が見える。


「よぉ、客がいたのか」


「ん、この子だけだけど」


「今日はこれで最後だ。

 ここ買い取った人がよ、なんかするらしいから、ユグドラシア鉄道のお前も呼べってよ」


「会社違うじゃん!」


「線路同じだろ!

 つーか、そっちはもうお前以外やってねーだろ!」


「えー、みんなちょっとお昼寝に忙しいだけだよ〜?」


「ったく、気が長げーなー、200歳越えのババアエルフはよぉ!」


「あーっ!!190歳のくせにそれ言う〜〜??んもー!」


「んなこたいい!!とにかく、事務室まで来いや!」


 はいはい、と止めた機関車をそのままにして降りるリルファ。


「これこのままでいーの?」


「後続いないしねー!時期も時期だし誰も乗らないよ」


「呑気ねぇ。あ、私面白そうだし付いてっても?」


「いーよー!」


       ***


「はじめまして、私がパンツィア・ヘr」




「やぁあだぁぁ〜〜っっ!?!

 可愛い!!モノ凄く可愛いぃ〜〜〜〜♪」



 リルファは、パンツィアを見るなりそう叫んで抱きつき、頬をスリスリしはじめた。


「あ、あのぉ……」


「バッカかお前ッ!!仮にも今日から俺たちの大将だぞ、リルファ!!」


「だってすっごくちっさくて可愛い子なんだもん!!」


「ちっさくないです!!!いや今はちっちゃいけど、きっと一年後には伸びますから!!きっと!!」


「え〜〜〜〜?????ヤァダァよぉ〜〜!小さいままでいてよ〜〜、スリスリ〜〜♪」


「あわわ、」


「あ〜、悪りぃなヘルムスさん。

 コイツ、やたらちっっこくて可愛い物が好きでよ」


「ちっこくなーい!!絶対大きくなってやるゥーッ!!!」


 なおも抱きつかれたままもがくパンツィアの姿は、さしずめ嫌がる飼い猫を愛でる飼い主の様な様子だった。


「それで、パンツィア会長?

 僕達はどうすればいいのかな?」


 と、パンツィアと共にやってきていたクッキードが、そう言葉を切り出した。


「ああ……じゃあ、まずいったん離れて、」


「ヤダ」


「……じゃ、このままで失礼します」


 仕方なく、一人のエルフに抱きつかれた状態でパンツィアは話し始める。


「買い取った以上、私はここを立て直します。

 まずは、かつての栄光を取り戻すとしましょうか」


「かつての栄光?」


「ええ、オルファスさん。


 大陸最速、でしょ?

 ブレイディア急行は」



 全員、一瞬驚いた顔をする。


「でも、機関車をこれから作るにしたって、図面はすぐでも、機関の改良にはもっとも時間が、」


「別に機関車を走らせると入ってませんよ、クッキードさん」


 さらに驚く。どう言うことなのか?


「おそらく、蒸気機関では、もう大陸最速なんて夢のまた夢。

 だから、根底から変えます」


「おいおい、一体どう言うことだ?

 俺にはさっぱりだぞ?」


「僕も」


「私も」


「そもそも部外者」


「ま、待ちたまえ!質問があるがいいか?」


 ふと、壁際にいた同じ顔の男性二人組のうち右側の人間が声を上げる。


「そういえばあなた方は?」


「こっちは、サウスブレイディアラインの経営者様のドラルズ兄弟だ、会長」


「自己紹介をせずすまない。カトリ・ドラルズ、こっちは弟のラトル・ドラルズ。

 我々は、これでもブレイディア急行とは仲良くしたい身でね」


 赤い服の方の兄、カトリが右手を差し出したので、パンツィアも握手を交わす。


「どうも。パンツィア・ヘルムスって言います」


「……そうか、聞き覚えがあると思ったが……お嬢さんが反重力魔法の開発者か」


 ふと、続いて手を出した弟のラトルが言葉を漏らす。


「あら、知っていらしたんですか」


「君の発明を、大陸間空中輸送船へ応用したブレイディアの公爵家とはそこそこ仲が良くてね。

 君にも、特許の金が入っているとは思ったが、それでここを?」


「詳しく話すと冗談みたいな経緯があるんですが……まぁ色々ありまして」


「そういえばだ、機関車では不可能、と言う言葉で思い出したよ。

 君は、反重力魔法以上に力を入れているらしいな……


 特殊な内燃魔導機関……ジェットエンジン、だったかな?」


 おぉ、とラトルの言葉に感嘆の声を漏らす。


「……なぁ、クッキード。お前わかるか?」


「分かるも何も、アレはすごい芸術品さオルファス……!

 完成すれば、今の蒸気機関、魔導機関なんて、一気に過去の物だよ……!

 彼女は天才だ……!」


「なるほど、さっぱり分からねぇが、大体わかった気がするぜ」


「あーでも……使うのはそっちじゃないんです」


 と、流石のクッキードも驚く一言を放つパンツィア。


「ただ、大陸最速を目指す、って言うぐらいなら……


 私なら、このぐらいの速度を目指そうかなって」


 す、と右手の人差し指と中指を立てる。


「2……?」


「今の……2倍の速度を……?」


「いえ、時速『200km』です」


『えぇ!?!?』


 それは、現行で動く機関車の3倍以上の速度だった。


「ちょ、ちょっと!

 あんた……あんたあの姫さまの友達よね?私分かる!?」


「?」


「あー、そん時竜形態だったか……

 私マルティナ。ちょっと前まで竜騎兵部隊で竜騎兵載せてたわ」


「あっ!あのちょっと黒曜石みたいな綺麗な色の!」


「そう!

 まぁ別に私部外者のただの野次馬だけど、それはそれとして、200キロって正気!?

 私の全力とか、最悪あのラインの最高速度じゃないの!!」


「可能なら後50キロは引き上げます」


「はぁ!?!」


 みな、まるで頭がおかしくなった人間を見る様な顔をするが、まぁ予想通り。


「ありえねぇ……」「どうやるつもりだ……??」「どうする気だ……」


 静かな顔でそんな言葉を受け流し、壁の時計を見る。


「そろそろ着く頃かな」


「あ、さっき連絡していた相手ですか?」


「そうですクッキードさん。

 まずは……」


 と、ふと真上にゴゴゴゴ、と言う音が聞こえ始める。


「なんだぁ!?」


「まずは、イーグル工業に戻りますか」


       ***


 イーグル工業の真上に止まった、パンツィアの『私物』でもある、大型輸送用飛行艇『ドレッドノート』。

 そこから、大量の機材と材料がイーグル工業の車内へ運び込まれていた。



「やぁ、パンツィア。

 こやつめ、よくもこう言う面白そうなことにワシを呼びおってからに!」


 工場でまず出迎えたのは、カーペルトだった。


「カーペルトさん、遠路はるばる」


「うぇ!?!前国王陛下ァ!?」


『マジで(か)!?!』


 マルティナの言葉に驚きの声を上げる皆。


「む!マルティナではないか!!

 どうしてこんな所に……?」


 とうのカーペルトも、竜騎兵部隊にいた竜であるマルティナとも面識があったのか、そう言って彼女へ近づく。


「いやぁ〜、もうどうしていいかわかんなくってブラブラ列車に揺られてたら……こんなところに?」


「…………そうか……辛かったのぉ、マルティナ。お主は、ワシの生まれる前から、ずっと竜騎兵の駆る竜としての務めを果たしてきたと言うのに……」


「やめてください!

 思い出すと……辛いんですよ、これでも」


「……すまんな。

 では、どうせここまで乗りかかった船よ!すこしこの計画に付き合え!」


 かかか、と笑い、所で、とパンツィアに詰め寄るカーペルト。


「早速じゃ、図面を見とくれい」


「もうできたんですか、カーペルトさん!?」


「ワシはお前が飛ぶより前から、ずっと空気と戦っておったんじゃぞ?」


 皆、疑問符を浮かべる中、カーペルトはふっふっふ、とまるでイタズラを思いついた子供のように笑った。


       ***


「先頭車両の大まかな形状は、こうじゃろうて」


 工場の作業場に張り出された紙には、信じられない列車の案が書かれていた。


「な……!!」


 それを見て、この場の人間のほとんどが絶句。


「なんだ、コレ……??」


 クッキードの呟いた図面に書かれた先頭車両は、これまでの蒸気機関車の形状とはあまりにかけ離れていた。


 言うなれば、3角。


 例えるなら、包丁やナイフの先端と言うべきか、ヤイバを上にして、(みね)にあたる垂直な面をレールに向け、車輪をつけたような、


 煙突もなく、まず機関車の心臓たる『機関』がない。


 運転席に至っては、傾斜している部分にそれらしきものがあるのが分かる、異形と言わざるおえない何か!


「おい、何だこれは?

 列車って言っていいのか??

 見たことなさすぎるし、何がどうなってんのかさっぱりわかんねぇぞ??」


「これは、空気抵抗を考えた場合、最も優れた、とまではいかないにしろ、」


「地上を200キロも出すにはうってつけの形状というわけじゃ」


「いや待てよ爺さん!!

 機関はどこだ!?」


「んなもんは無い!」


「じゃあどうやって走るんだよ!!

 風にでも引っ張って貰うってのか!?」


「いえ。


 車輪部分そのものが動くようになっています」


 はぁ、とオルファスがキレたように声を上げた時、


「オイ、低脳ども!!くっちゃべってる暇があるなら少しは手伝いに来い!!」


 と、いつもの暴言とともにアンナリージュがやってきた。


「誰が低脳だこのクソチビ!?」


「お前だ、そこのダークエルフ。

 そんなお前と話すつもりもない。

 おいパンツィア!!」


 暴れ出し、押さえ込まれるオルファスを抑え込む中、パンツィアが前に出る。


「協力ありがとうございます、アンナリージュさん」


「金塊を分けてもらったからな。

 お陰で錬金術師の本来の目的も大きく近づけた」


「それで……行けますか?」


「どれを言っているか分からんから、車体の方から答えてやる。


 こいつの要求にうってつけの金属があった。

 知ってるか?アルミナ鉄、アルミだ」


「アルミ……!加工とか難しいと現行では聞きますが?」


「オリハルコンが量産できる以上、アルミなんぞここの猿どもでも数日で量産できるようにはなる」


『誰が猿共だこのチビィィィィィィィィィィッ!?!』


「ほら、威勢だけはいい」


 相変わらず口も悪く、後ろで怒りの形相の工場の皆も無視して、スタスタとアンナリージュは、工場の作業台へ向かっていく。


「それと、もう一つの方だが、


 向こうのアイツの方がやる気で、早速取り掛かっているぞ」


 ふと、その時響く笑い声。


 ━━━ヴェへへへへへへ……!!


「あ…………クルツさん来てたんだ……」




 その声の元へ来ると、一つの人影があった。


「そもそも出力を上げるにはまずサイズをあげるのが一番じゃあないか……そこかあ同出力の小型化を目指せばいい……ふふふ、ああいいぞぉ、私の才能が刺激される……!」


 異様な格好の、白い肌の魔族。

 そんな彼は、工場の機器を使い、なにかを製作していた。


「ちょ、あんたなにやっているのさ!」


「止めるなぁ!!今、神にひとしきりインスピレーションが舞い降りている!!」


 不気味なほどの笑顔で、注意した工場の女労働者へ言い放つ。


「まぁまぁ、そう言わずクルツさん」


「おや、パンツィア学長。

 いやすまないね、私は今凄まじいまでの技術革命を起こそうとしているのだ……まぁ見たまえ、」


 クルツと呼ばれた魔族のとこの手元に、一つの機械があった。


「なんだ……コレは……!」


「そこ丸い君!いい質問だ!!


 これこそ、大元の発想はパンツィア学長のものだが、それを私がついに強化し実用できるものとしたぁ!!


 その名も雷魔法駆動機械(モーター)!!


 魔力を電気エネルギーに変換し、高効率で動力とする存在!!


 まずはァ……中身を見てくれェ!!」


 皆が圧倒される中、クッキードをわざわざ前に持って来させ、その機械の内部を見せるクルツ。


「コレって……魔力回転機(コイル)に、磁石が刺さって……電磁石??

 磁力魔法陣で囲んで……??」


「コレに魔力を流してみよう……」


 そう言って自らの魔力を流した瞬間、電磁石が回転を始める。


「うぉ……!?」


雷魔法駆動機械(モーター)はいわば、内燃せずにシャフトを回す機械。

 通常の内燃機関と違い場所をとらず……フフッ、それでいて同じパワーを出せるぅ……!」


「つ、つまり、コレを使えばあの奇妙な動力車の……?」


「それは少し違う。君、考えても見たまえ。

 このサイズで、似たパワーだ。


 『車輪全てにモーターを仕込めばァ』、より速く!進むことができるゥ!!」


 その発想に、クッキード以下全員が口を開くほど驚く。


「まぁでも効率的には、全体の1/2、いや2/3ぐらいが良いかなとは?」


「じゃな」


「全部仕込んだらそりゃ速いだろうが無駄の多いだろ、ダン」


 対し冷静な魔法博士3人は口々にそう言う。

 驚きもしない。


「こういう場合、分かりやすく誇張した方が説明がしやすいだろう?

 どのみち、これまでの蒸気機関車の概念は、粉々に砕ける!」


 再び、ヴェハハと大きく背を仰け反らせて笑うクルツ。


「恐ろしいのは私の神の如き才能だぁ!!

 この計画を糧にィ……私の研究はより大きく前進するゥ!!」


 不気味な高笑いを続ける彼に、この場の知らない人間たちは背筋に悪寒が走っていた。


「な、なんなんですか、この人は……」


「あ、この方は、クルツ・ダンさん。

 元『傀儡魔王』で、今は私の設立した研究機関で、自動人形(オートマトン)の改良を研究している、ちょっと変わってますけど、割と頼りになる魔法博士です」


「自動人形!?そんな研究がこれと関係あるんですか!?」


「君は中々良い質問をするなぁ!?」


 突然背後に回られ、クッキードは思わず飛び上がる。


「まず、モーターの利点を教えよう。

 実は、パワー自体はあまり大きく上げるのは構造上難しい。


 しかぁし!!その逆は容易!!


 構造は意外なほど単純!そして何よりも、出力増減幅の変更も容易!!


 これほどオートマトンの駆動系にぴったりなものはぬぁい……今のところは」


「は……!

 そ、そういうことか……!!」


「分かってくれて非常に嬉しい。君の名は?」


「あ、クッキード・イーグル……この工場の一応責任者です」


「なぁんとぉ!?これは上々!

 よろしく頼もう、では早速だが皆を集めてくれ!!

 君らの列車の駆動系を早速設計しようじゃないか……明日中に現物を完成させよう!!」


「え、ちょ、ま!」


「善は急げだぁ!」


「助けてー!?!」


 クルツに捕まったクッキードは、早速作業場に立たされて、慌てて追いかけた作業員たちも…………多分すぐにクルツのペースに巻き込まれるだろう。


「なぁ会長さんや。アレで『ちょっと変わってる』だって?」


「まだ言葉は通じる人なんですよ、オルファスさん」


「はは、後でアイツになんか奢って……んな金ねぇわ」


「これどうぞ。前金です」


「あんたも大概おかしいぞ」


 そう言いつつ、オルファスはパンツィアから割と分厚いトレイル通貨のダラー札束を貰った。


「それはそうと、次行きましょうか」


「次ってなんだ?」


「ちょっともう一回、駅へ。皆さんも行きましょうか」


       ***


 再び、クッキードと工場の面々以外の皆で駅へ戻る。

 いつの間にか、駅には大量のオークやらゴブリンの作業員たちが、何か工事をしていた。


「オイオイ、まさか解体でもすんのか?」


「改装ですよオルファスさん。

 ちょっと通魔線と、発電施設とを仕込まないといけなくって」


 ふと、駅内部のゴブリンが一人こちらに気づき、声をかけてくる。


「パンツィアさん!!ここの絵、どうします?」


「あ!オルファス、あちらは外さない方がいいですよね?」


「その肖像画はこの急行の魂だ!!

 ぶっ壊したら承知しねーぞ!!」


「はいかしこまりやしたー!!」


 案外、丁寧に汚れよけの布を被せ始め、ふぅとオルファスも胸をなでおろす。


「兄貴が見たら、『何こっぱずかしいこと言ってんだ』って言われそうだけどよ……」


「創始者の方、偉大な人だったんですね」


「凝り性だけどな」


「凝り性?」


 ふと、疑問符を浮かべるパンツィア。


「おや、知らないでここを買い取るに?」


「カトリさん達は知ってるんですか?」


「有名な話でね。ちょうどいい、オルファス見せてやるといい」


 へ、と呼ばれたオルファスは、駅の線路の方へ手招きする。




「ほう!コイツは……」


 まず先にカーペルトが驚いたのは、線路の両脇である。


 わざわざ、柵を設け、線路と線路の間には溝まで掘ってある。


「金欠で売られた原因でもあんだけどよ、この急行には踏切も、バカ以外渡れる道路もねぇ。

 場所によっちゃ、わざと地面の上に橋を作って道路やそういったもん全部避けてる。

 坂も傾斜が15度以下だ。

 とにかく工事やら維持にも金かかってよぉ……そこまでして最速を手に入れたかったんだろうな」


 ほぉ、と皆が感心する。


「そーいえば、ここ来るとき全然羊とかそういうの横切らなかったわね」


「私、今までずぅ……っとここで機関車走らせてたけど気づかなかったよぉ〜」


 驚くマルティナとリルファに呆れつつも、オルファスは線路の先を見る。


「まぁ今となっちゃ、意味のねぇこだわりさ。俺も惰性でそれを貫いてただけだしな」


「いや、お陰でやりやすくなりましたよ」


 オルファスの言葉に、しかしとパンツィアは言う。


「これで、時速200kmが出せる条件はかなりクリアー出来ました。

 あとは、線路の魔力伝達工事を済まして、車体を作るだけです」


「あんた本気か?いや、本気じゃなきゃここまではしねぇだろうけどよ」


「私、自他共に認めるスピード狂なんですよ。

 本来の研究も、全てが『音速を超える』為のものですし」


 ふと、そう語るパンツィアの顔を、まじまじと見つめるオルファス。


「……?」


「……あんたの今の顔、妙なこと思いついた兄貴そっくりだわ。


 この線路考えついて実際に昔の技術の限界を超えさせた時のよぉ……ありゃ付き合わされた賢者が可哀想だったぜ……」


 ぽん、とその頭に手が置かれ、グリグリと頭に力を込めて撫でられる。


「見たくなってきたぜ、俺は。

 時速200kmってやつがよ……会長」


 ぽん、と手を離し、オルファスは不敵な笑みを浮かべる。


「なぁ!この場に残った奴もみんなそうだろ!?」


 そして問いかける。

 種族も所属も超えて、なぜか集まったこの面々に。


「パンツィア会長、あんたが言った以上、従うぜ。

 必ず超えてくれよ、時速200kmってやつをよ!」


「……もちろん!」


 改めて、二人は固く握手を交わす。

 ここから、全てが動き出すのだ。


「…………ところで、だな」


 ふと、その背後からドラルズ兄弟が近づいて、パンツィアへラトルが話しかける。


「俺も、いや俺たち二人もその話に興味のあるんだが……それ以上に、すこし提案したいことがある。


 聞いてもらってもいいか?

 おそらく、君らにもメリットがある」


 二人は、慎重な面持ちで、ある提案を始めた。


       ***

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