ライカンスロープ④
「イブ、ナビの画面に現れたら地図が見えないじゃん」
「高速で地図なんて見ないでしょ。それに道分かるでしょ」
「そうだけど、すっごく気に成って運転に集中できない」
「そんな事より、これで未来への道筋が少し開けた」
「道筋?」
「そうよこれから色々動き出すわよ」
「ちょっと待って、まだ俺に働かせるの?」
「大丈夫よ。レイジはトップとして構えて居れば良いのよ」
「何をさせるの?」
「最終目標は人類の地球から巣立つ事かな。でもその前に温暖化対策や戦争撲滅をまずはやらないと」
「巣立つってのはよく分からないが、温暖化や戦争なんて簡単に無く成らないし時間掛かるよ」
「レイジは向こうの世界で空飛ぶ板に乗ってたわよね~?」
「スカイボードな」
「あれは重力制御を魔法付与して作ったのよね」
「そうだけど、あれで温暖化抑えるにしても飛行機くらいしか作れないし制御が難しいよ」
「制御なんてAIにさせれば良いし、あの技術って発電にも使えるのよ」
「確かにあの力でモーター回せば発電できるけど、そんな物作ったら世界中の資源国や発電に係ってる企業や財団から攻撃されそう」
「そうね、地球でも何でもその技術が出来そうになると消されて来たからね」
「おいおい、人類滅亡を防ぐ前に俺は攻撃されたら反撃して滅ぼすぞ。向こうの世界では魔王を倒した賢者でこっちでは魔王になるのか?」
「そんな事させない為に私イブちゃんが居るんじゃない。だからこれからライカンスロープを始め地球に住む特殊な者たちに協力をお願いするんじゃない」
「地球にはまだあんな人達が居るのか~。妖精とかも居たりして」
「居るわよ。だけど多分レイジが思っているのとは違うわよ」
「そうなんだ。異世界に行ったのに獣人もエルフも居なかったから残念に思っていたら地球に居たのか」
「色々居るわよ。まず会って貰いたいのは鬼人と呼ばれる人達ね」
「鬼人?」
「もともとは滅んだ星からの難民だったんだけどね。2700年前から日本に住んでいる種族よ」
「滅んだ星の難民って宇宙人なの?」
「宇宙人って宇宙に住んでれば誰でもそうでしょ。鬼人の起源は確かに他の惑星に有るけど、今は全員日本生まれで日本の国籍も待っている日本人よ」
「それなら日本にはいっぱい鬼人は居るの?」
「純粋な鬼人は1800人くらいかな。鬼人は他種族特に人間と子孫を残すと鬼人の能力や特色を失うのよ」
「普通の人でも鬼人と子孫が残せるんだ。だから純粋な鬼人の数が少ないんだね」
「純粋じゃなくても能力を受け継ぐことは可能だけど、あえて純粋な鬼人を増やさない様にしているの」
「そうなんだ」
「それで新しい家にはハウスキーパーと運転手が必要って考えてるでしょ?」
「確かに考えているけど鬼が風呂掃除とかしてくれるの?」
「なんか勘違いしてるみたいだけど、確かに昔話に出て来る鬼の殆んどが鬼人をモデルにしてるけど、鬼人の見た目は日本人にしか見えないから」
「角とか生えて無いの?」
「生えて無いわよ。見た目で違うのは身体お硬質化能力かな~。能力使うと赤くなる人と青くなる人が居るぐらいかな」
「おお、正に絵本の鬼だ、そんな人が家事なんかしてくれるの?」
「もともとあの種族は近接戦闘に優れていて現在は多くの者が特殊警備などの仕事に付いている。だからメイド兼ボディーガードに付いて要る者も居る」
「それってやっぱりイブのやろうとしてる事は危険って事じゃ無いの?」
「もちろん世界中のネットワークを抑えているから大丈夫だけど、安全と秘密漏洩対策の為に鬼人は必要なのよ」
「それならしょうが無いけど」
しかし家に鬼が居るってどうなんだろ。節分は出来ないな~。女性って言ってもかなり体格が良いんだろうな~。
「レイジは変な想像してるみたいだけどかなり変な方向に行ってるな」
「そうなの?」
「来週会いに行くから」
「来週って引っ越しとか有るからもうちょっと落ち着いてからで良いんじゃないかな?」
「貴方お父様にしっかり働いて居るから文句言うなって啖呵切っていたのに言ってる事が違うんじゃない」
「でも異世界でも頑張ったんだし今は新婚だからシルフィーと一緒の時間が作りたいしね~」
「子供みたいな事言ってないで、鬼人と会うのだってシルフィー連れて行けば良いでしょ。それに鬼人の住むところは九州の福岡よ」
「九州か。美味しい物いっぱいあるし出張以外で行った事無いからついでに観光したいな」
「じゃあ鬼人の長とのアポを取っておくね」
「ああ頼む。それより斗真が務める研究所はどうなってるの」
「大丈夫よ。千葉に有る別の研究所をレイジの名義にするから。それに人材も現在スカウト中だから。それと来月には関西特殊化学工業の件が世間に発覚して社長が解任と横領で摘発されてそのまま会社を買収する段取りに成ってるから」
「前に作ったアーカイブって会社はどうするの?」
「あの会社がすべての会社の親会社になるのよ。社長は貴方だけど秘書として私が付くから何も心配無いわよ」
「それって俺はイブの操り人形なの?」
「そんな訳無いでしょ。最終的にはレイジの判断を優先させているんだから」
「俺は操り人形でも良いけどシルフィーと幸せに暮らせるなら何でも良いよ」
「私が秘書役に成ってレイジの負担は減らすから、シルフィーにこの世界を楽しませてあげて」
「もちろん最優先事項だからね」
それから朝方まだ薄暗い中自宅に着き、そっとベッドで寝ているシルフィーを起こさない様にベッドに潜り込んだ。
「お帰りなさい」
「ただいま。ごめん起こしちゃった」
「それよりレイジさんは大丈夫?」
「大丈夫だよ。ちょっと眠いけど」
「今日2時からインテリアの打ち合わせだからそれまで寝ててね」
「うんおやすみ」
「おやすみなさい」
疲れていたのか言葉を交わすと直ぐに夢の世界に行ってしまったレイジを見て、シルフィーもレイジの体温を感じながら眠りにつく。




