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第35話 偽りの聖女は人型竜に花道で高速回転させられる

 帰って来たリジー王子の涙の跡をハンカチで拭いてあげる。


「立派でしたわよ、リジー王子」

「兄上に、僕の気持ちは伝わったかな?」

「ええ、きっと伝わりましたよ、ほら、あんなに落ち込んでますわ」


 対岸の砂かぶり席で、がっくりとしたジョナス王子をヤロミーラが慰めている。

 これで目を覚まして、元のジョナス王子に戻れば良いのだけれど。


 ドミトリー氏とアデ吉が土俵にあがり、箒で土をならす。


 カンカカンカンと拍子木がなる。


「よっしゃ、俺の出番だなっ」

「ファラリス、頑張るのよ」

「おうっ、まかせとけっ、フローチェ」


 ファラリスが立ち上がった。


 またアデ吉が土俵に立ち白扇を開いた。


「ひがぁぁしぃぃ~~~、ファラリスゥ~~~、ファラリスゥ~~~、にぃしぃぃ~~~、ヤロミ~ラァ~~~、ヤロミ~ラァ~~~」


 ファラリスが土俵に上がった。


 続けてヤロミーラが土俵に上がってくる。


「あれ、あいつ、マワシしてないぞ」

「マワシなんかしないわよっ!!」

「棒持ってる」

「武器はありなんでしょっ!」


 ヤロミーラはあろうことか、魔導具の杖を持っている。


 半透明の行司さんが渋い顔をした。

 行司さんの格は、ちょっと上がっているわね。


『飛び道具はさすがに』

「魔法使いの表道具よっ!! いいじゃないっ!!」


 審判委員長の半透明の親方と半透明の行司さんが相談を始めた。

 暇になったファラリスは四股を踏んだり、ユスチン氏から力水を貰ったりしている。


『ファラリス関はどう思うね』

「んー、どっちでもいいぜ、別に効かないし」

『解った、特例で、一回だけ許可しよう』

「ふふん、あたりまえねっ」


 ヤロミーラは片頬で笑いながら杖を振り回した。

 火炎か、氷の術か?

 魔導具に付与された術がなんなのか解らない。


「早くやろうぜっ」

「ふふっ、ぼく、ごめんねっ、勝つのは私よっ」


『みあってみあって』


 ファラリスは稽古を二日つけただけだけど良い感じに相撲になっているわね。

 ヤロミーラは腰高で、杖を抱えているわね。


 二人はにらみ合った。


『みあってみあって』


 ほぼ同時に二人は仕切り線に拳をつけた。


『はっきょいっ!!』


「くらえっ、サンダーストーム!!」


 ヤロミーラが杖をファラリスに向けると、先から轟音と共に稲妻が出て、ファラリスを襲った。

 まさか、軍用になるほどの中魔法を封じた杖だなんてっ!!

 ファラリス、あぶないっ!!


 と、思ったが、ファラリス本人には効いてないようだ。


「???」


 バリバリと体をかけめぐる稲妻を見て、不思議そうな顔をしている。


「な、なんで死なないのよって、十万ボルトの電流なのよっ!! おかしいわよ、あんたっ」

「なんだよ、これ?」

「電撃攻撃よっ!! 秘策中の秘策なのよっ!! 軍隊級の魔術を出せる杖なんかっ、滅多にないんだからっ!!」

「くすぐったい」


 ファラリスは羽虫を捕まえるような動作をした。

 その片手にはバリバリとうごめく雷があった。

 彼が、ぎゅっと握りつぶすと雷は消滅した。


「な、なによ、あんた、ふ、普通の人間じゃないわね」

「そうだよ」

「な、何者なのっ!! ひ、卑怯よっ!!」

「ドラゴンだけど?」

「ひいいいいいいいっっ!!」


 ヤロミーラの絹を裂くような悲鳴が鳴り響いた。

 というか、自業自得がこれほど似合う状況もないだろう。


 ファラリスが一歩進んだ。


「なあ、あんた、弱いな」

「こ、こないでっ、こないでっ!」

「もの凄く弱いな」

「きいいっ!! また騙したわねっ!! フローチェッ!! わ、私が、こんな怪物を選ぶだろうと思ってっ!! お膳立てをしたわねっ!!」


 ヤロミーラはこちらを向いて怒鳴ってきた。

 フローチェ部屋の全員が、顔の前で、ないない、と手を振った。


 もう、勝負を捨てて、逃げようとヤロミーラが土俵の外に出ようとしたとき、ファラリスが動いた。

 神速の動きで間合いを詰めて、突き押し!


 ヤロミーラのお腹にファラリスの平手が入って、彼女はぐぼっという顔をした。

 そのまま回転しながら土俵を割り、花道をきりもみしながら飛んで行って、壁にぶつかり、何回か反射して地面に叩きつけられた。


 じ、自動車事故の酷い奴の動画みたいに吹っ飛んでいったわね。

 生きてるかしらヤロミーラ。


 あ、微妙に動いてる。

 さすが頑丈ね。


『ファラリスゥ~~~~』


 軍配が東に上がった。


「あんまおもしろくない、やっぱフローチェかリジーとやりたい」

「また、明日、一緒に稽古をしましょうファラリス」

「ん、わかった」


 ファラリスは笑った。

 リジー王子がタオルでファラリスの汗を拭いてあげていた。


 はあ、尊い。

 はぁどすこいどすこい。


 土俵を、呼び出しの人が掃き清めていく。


 対岸のエアハルトと目があった。

 薄く笑っている。


 三番勝負の二番は取った。

 もう、エアハルトと相撲を取る意味はない。

 粛々とジョナス王子陣営を断罪すれば良い。


 だが、それでは私の気が晴れない。

 私の心の奥の相撲スピリッツがささやくのだ。


 アリアカ国番付西の横綱、エアハルトを討てと。


 結びの一番が、刻一刻と近づいてくる。

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― 新着の感想 ―
いわゆる勝てばよかろうなのだァァァァッ!!をぶっぱして、ドラゴンに何の効果も無かったんだから最初からオチが見えていたw
[一言] 相撲の予備知識がある上で軍隊級の魔法を持ち込むって…この人あかん
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