第26話 相撲令嬢は差渡し三十メートルの対巨獣用土俵をコールする
「対巨獣用土俵召喚」
私がコールすると差渡し三十メートルはある特大土俵がせり出してきた。
魔法は便利ね。
「お、お嬢様、ななな何をなされるつもりですかっ!!」
「うるさいわね、相撲よ、早く呼び出しなさい、アデラ」
「む、無茶ですっ! ドラゴンとなんかスモウできる訳がないじゃないですかっ! ここは表向き降伏して、夜陰に紛れて魔獣使いのおじいちゃんを暗殺しましょうっ!」
「聞こえておるぞよ、メイドさん」
魔獣使いのドミトリー氏は砂かぶりの席に座り込んでこちらを見ていた。
今日も観客席が沢山出来ていて、私たちの一万五千の軍勢は枡席に座り、幕の内弁当を食べ、日本酒を飲んでいた。
みんな、お相撲の興行を楽しんでいってね。
「魔獣使いが呼び出した魔獣となんか、真面目に戦う人は居ませんよっ! 相手はドラゴンですよ、ドラゴン! 格闘技が通じる相手では無いですっ!!」
「相撲に不可能は無いわっ」
「あると思いますが……」
「早く呼び出しなさいっ」
アデラが渋々土俵に上がった。
ドラゴンがきょとんとしてアデラを見ている。
「ひがあああしい~~~フローチェ~~~、フローチェ~~~。にいいいしいい……、お爺さん、ドラゴンさんのお名前は?」
「ファラリスじゃ、というか何をするつもりかのう、この子はわしの命令しか聞かんが」
呼び出し係の人は、声を張り上げた。
「にいいいいいし~~~~、ファラリス~~、ファラリス~~~」
「な、なんじゃとうっ!」
ドラゴンは困惑の表情を浮かべながら、ズシンズシンと音を立てて土俵に足を踏み入れた。
「聞こえる? ファラリス?」
「?」
なんだとばかりに小型乗用車ぐらいあるファラリスの頭がこちらに向いた。
「これから、あなたと私で一騎打ちをするわ、ルールは簡単、足の裏以外の部分が土に付くか、土俵の外に体が出たら、負けよ」
うむ、ファラリスは二足歩行の竜みたいだ、都合が良い。
四足歩行の相手に相撲をしろと言っても可哀想だしね。
しかし、近くで見ると、とても綺麗なドラゴンだ。
赤い鱗がピカピカと光を反射している。
夢のような綺麗で勇ましいドラゴンだ。
精悍で凶暴そうな顔に角が生えている。
背中にはゴツゴツとしたトゲが生え、大きな羽が生えている。
均整が取れた体つきで美しい。
胸から腹に掛けて、真っ黒な紋が刻まれていた。
魔獣使いが使う隷呪紋だわ。
「ふぉっふぉっふぉ、愚かなフローチェさまよ、今すぐ降参せねば、そのドラゴンが火を噴き、あなたさまを丸焦げにしますぞっ」
「ドミトリーさん、それをやっても良いけど、相撲開始前の攻撃として反則負けになって、ファラリスは一ヶ月ぐらい私と戦えなくなるわよ」
「なっ、なんじゃとっ!」
「もう相撲は始まっているのよ」
「くっ! 儀式魔法の強制力かっ!!」
コンンココンコンココンとリズムの良い拍子木の音。
アデラを筆頭に報奨金の旗を持った半透明の呼び出しさんたちが土俵をまわる。
今日の土俵は大きいから、一回りするのも大変ね。
行司さんが土俵に上がってきた。
「ファラリス、ルール的に、立ち会いの時に一回だけは土俵に手を付けるけど、その後土俵に手を付いたらあなたは負けるからね、羽も駄目よ」
私は塩をまきながら、ファラリスに声をかけた。
「フゴウ」
ファラリスはうなずいた。
人の言葉が解るみたい、賢いわね。
『みあって、みあって~』
私はファラリスとにらみ合った。
大きい目だ。
私の上半身ぐらいはあるだろう。
口も大きくて私なぞは一口で食べられてしまうな。
しかし、相撲になるのだろうか。
ファラリスの足首までで私の身長ぐらいはある。
組み合う事が出来ない。
張り手投石機で走りながら牽制か……。
だめよ、そんなの相撲じゃないわ。
使える技は……。
張り手投石機
あとは、
居反りとか撞木反り……が、ワンチャン。
踏み潰されるかもしれないわね。
とりあえず、相撲魂の最大回転数で押し相撲をしかけましょう。
押し相撲は全ての技の始まりなのよ。
『みあってみあって~~~』
私とファラリスとの間の気が高まった。
同時に仕切り線に拳をついた。
『はっきょいっ!!』
私は走った。
初めての体験だ。
対戦相手の体の下を走っても体に付かないのは。
ファラリスは爪で私を攻撃しようとして固まった。
「だめじゃっ!! 爪は使うなっ!! 地面に付いてしまうわいっ!!」
ファラリスにドミトリー氏の声援が飛ぶ。
ふっ、解っているじゃない、おじいちゃん。
その隙にファラリスの足に取りついた。
まるで大木だわ……。
瞬間、私に閃光が走った。
てっぽうを、すれば、いいじゃないっ!
私は息を吸い込み、ファラリスの足に向かって、てっぽう、てっぽう、てっぽう!!
ズドーン!! ズドーン!! ズドーン!!
GYAAAAAAAAASU!!!!
てっぽうを打つたびにファラリスの足がぐらぐらと揺れて、後ろに下がる。
効いてる!!
てっぽうっ、てっぽうっ、てっぽう!!
「どっこいっ! どっこいっ! どっこいっ!!」
ズドーン!! ズドーン!! ズドーン!!
自然に乙女らしくないかけ声がでるわ。
でもかまわない。
わたしは一塊の相撲取りなのだからっ!!
ファラリスが攻撃されているほうの右足を引いて、私目がけて土俵を踏みつけた。
ドカアアアアン!!
ドラゴンの四股は爆弾並の威力があるわねっ!
でも大丈夫、すり足高速移動で避けまくるわ。
このまま、てっぽう&ウエイで勝ち星を上げてやる。
「ええい、すばしこい奴め、ファラリス!! 火炎放射じゃっ!!」
「グワアッ!!」
ファラリスの頭が天を仰ぎ、びゅうううと空気を吸い込み始めた。
いけないっ! 面攻撃の火炎放射は土俵の上では避けるすべが無いっ!
効果は抜群だ!!




