第21話 領城の晩餐、リジー王子と味噌ちゃんこではぁどすこい
領城の大きな台所でジャガイモを剥く。
あたりはちゃんこのレシピを求める輜重兵や城のメイドでごったがえしている。
わたしの粗忽メイドが寄って来た。
「お嬢様っ! 味噌っていう大豆のスープストックはどれくらい入れれば良いのですか!」
「お鍋と食材の量によるわ」
「ああもうっ! それじゃ話にならないんですよっ!! 普通の大きさの鍋に具だくさんに入れた時はどれくらいの量ですかっ!」
「大さじに二つ入れて、味気なかったら足しなさい」
「わかりましたっ!」
さすがに一万人の新弟子はよく食べるわ。
副賞に貰ったお味噌も、お米も、もう底をつきそうね。
賞金も補給物資の買い入れで無くなってしまいそうだわ。
でも、大丈夫、お金が欲しければ土俵に埋まっているのだから。
また、戦って貰えば良いわ。
さて、私たちの分の鍋は整ったのでリジー王子の元に持って行きましょう。
「セバスチャン、おねがいね」
「はい、お嬢様。しかし、いつの間にお料理なぞお覚えになりましたか?」
「学園で習いましたわ」
嘘である。
本当は前世の女子相撲部で覚えたのよ。
合宿で何度も作ったわ、塩ちゃんこも、味噌ちゃんこも。
懐かしいわね。
セバスチャンに大鍋を持ってもらい、私はご飯の入ったお櫃、がわりの箱ね。
さて、みんなが居るダイニングに行きましょう。
「お嬢様はお変わりになられましたな」
「そうかしら、自分では解らないわ」
「自信の無い弱い部分が消え、芯の強さが前に出られた感じですな」
「ありがとう、セバスチャン」
前世を思い出したからかしら、なんだか最近の私はくよくよ悩む事が無くなったわ。
心の重心も低くなったのかしらね。
なんだかとても生きやすくなったわ。
ダイニングに入ると、お父様とリジー王子が歓談なされているわ。
あと、ユスチン氏と、クリフトン卿、マウリリオ元将軍がテーブルについている。
私は魔導コンロを置き、ちゃんこの鍋を置いた。
「お、来た来た、フローチェ親方早くたべようぜ」
「もう、もうちょっと待ちなさいクリフトン。煮えるまで時間がちょっとかかるわ」
「ほう、これはお前が作ったのかい、フローチェ」
「はい、お父様、料理は学園で覚えましたの」
「おお、学園なぞ何の役にも立たないと思っていたが、実用的な事も教えてくれるのだな」
本当は学園では教えてくれませんけどね。
ちゃんこが煮えるまで、ご飯を椀によそっていく。
「わ、真っ白、なにこれ? フローチェ」
「ご飯です、蓬莱の方の主食ですね」
「へえ、わあ、良い匂い」
ご飯をくんくん嗅ぐリジー王子の姿は心が柔らかくなりますね。
尊いお姿です。
はぁどすこいどすこい。
「ん、味がない? ちょっと甘いか」
「こら、行儀がわるいぞ、馬鹿弟子め」
「味が無いんだよ、なんだろうこれ」
クリフトン卿がフォークでご飯をぱくぱく食べている。
「単体で食べる物じゃないわ、ちゃんこを食べながら食べるのよ。パンみたいな物よ」
「主食と言うことですか、ふむ、珍しいですね」
マウリリオ元将軍が不思議そうにご飯を見ている。
「メインのメニューは、この鍋に入っているシチューかい? フローチェ」
「シチューではありませんわ、お父様、ちゃんこと言いますの」
「ほう、良い匂いだね、不思議と食欲をそそる」
「いつものちゃんこと違うね」
「今日は味噌仕立てのちゃんこですよ。ホッベルズ特産の魚貝類も沢山入れてますわ」
ホッベルズは貿易港であるのだけど、漁港でもあるのね。
沢山の魚や貝が毎日水揚げされるわ。
今日は市場にアデラを走らせて、鱈とエビ、ほたてを買ってこさせたわ。
お鍋はくつくつと煮え始めて良い匂い。
蓋を開けて、ちゃんこをお椀に盛る。
お箸でみんなでつつきたい所なんだけど、こちらの人にはそんな習慣が無いから。
ちょっと寂しいけれど、しょうがないわね。
「いただきます」
「なに、それ、フローチェ」
「相撲式の食前の挨拶ですよ、リジー王子」
「そうなんだ、いたきます」
舌足らずに頂きますをするリジー王子が可愛い。
もう、溶けてしまいそうだわ。
尊い。
はぁどすこいどすこい。
「む、はふはふ、これは熱いが、ふむ、美味いな」
「気に入って頂けましたか、お父様」
「うむ、魚貝のブイヤベースのようだが、不思議な味だな」
お父様が味噌の出汁をスプーンですくって飲んでらっしゃるわ。
「お、これはうめえ、良い味わいだぜフローチェ親方」
「ふむ、色々な味が渾然となって、不思議な塩味で調和しておりますな。なんとも白身魚のつやつやとした彩り、エビの赤、野菜の緑、目にもとても美しい」
「ほふほふ、これは、美味しい。フローチェ親方にはこんな才能もあるとは」
味噌仕立てちゃんこだったので、すこし心配だったけど、おおむね好評ね。
よかったわ。
「あふあふ、熱くて美味しいっ、こんな美味しいもの食べた事が無いよっ、フローチェ」
「まあ、よかったわ、沢山たべてくださいましね、リジー王子」
「あ、ご飯と一緒に食べると、もっと美味しいっ、すごいっ」
よかった、パクパク食べて下さっているわ。
うんうん。
お父様の、私とリジー王子を見る目が「でかした」と言っているようだけど、そんなのではないのよ。
本当ですわよ。
はぁどすこいどすこい。




