第19話 ホッベマー侯爵領場所で優勝した相撲令嬢は表彰される
マウリリオ将軍は土俵にゆっくりと上がり、一万人の兵下たちに向き合った。
「諸君!! 我々国王軍混成編成第一軍は、フローチェ嬢に敗北した! その責任を取り、私は将軍位を降りたいと思う!!」
枡席にいる兵士達が立ち上がった。
「辞任なんてっ、やめてくださいっ!!」
「将軍はいつだってあなただっ!!」
「責任はあなたにはないっ!! 悪いのはヤロミーラとジョナスだっ!!」
愛されているわね、マウリリオ将軍は。
兵士たちの声でそれが解るわ。
「私は……、私は、一介の相撲取りになろうと思う。フローチェ親方、入門をお許しくださいますか?」
「良いわ、相撲道に邁進しなさい」
ユスチン氏とクリフトン卿がマウリリオに駈け寄った。
「良かったですな、将軍」
「先生、俺が兄弟子だかんなー」
みんな、良い笑顔だ。
皆、相撲を取れば、たちどころに迷いは消え、笑顔になる。
それが相撲というものだ。
マウリリオ将軍は兵に再び向かい合う。
「聞いての通りだっ! 君たちは王都に戻り、原隊に復帰して欲しいっ!!」
ざわりと、兵達に動揺が広がった。
「お、俺も、相撲がしたいっ!!」
「将軍だけずるいですよっ!!」
「俺もだっ!! 俺も相撲をするぞ~~っ!!」
一万人の兵士全てが立ち上がり、口々に参加を表明した。
「相撲はすばらしいっ、俺もやってみたいっ」
「将軍、俺たちも連れて行ってください、置いていかないでください」
「いまさら、ヤロミーラとジョナス王子には付きたくありません。私はリジー王子とフローチェ嬢に付きたい!」
「相撲の魔導効果を研究したいですっ!」
「あの付与効果の立ち上がりの秘密を解きたい!」
一万人の兵が立ち上がり、口々に自分の要求を主張し始める。
渦潮の鳴る音のように、土俵を中心に兵士たちの声が轟き渡る。
「そんなにお前達も相撲がしたいのかーっ!!」
「「「相撲がしたいです~~~!!!」」」
マウリリオが困った顔をして私を見た。
まったく、仕方が無いわね、この新弟子は。
私は片手を上げて、前にでる。
兵の声がピタリと止まった。
「うちの部屋の稽古は辛いわよっ! それでも良いなら来なさいっ!!」
「「「「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」」」」
兵士達は立ち上がり、拳を振り上げ声を上げた。
「フローチェッ!!! フローチェッ!!! フローチェッ!!! フローチェッ!!!」
「ひいい、部屋が一万人に増えた~、ちゃんことかどうすれば~」
なにか背後で呼び出しの人の嘆き声が聞こえたが気にしないようにしましょう。
しかし、結びの一番が終わったのに、土俵がなかなか消えないな。
『表彰式に先立ちまして、土俵に向けて国歌斉唱を行います、皆様ご起立おねがいします』
あら、そんな事まで。
私たちは慌てて土俵から降りた。
なんだかアデラが半透明の呼び出し先輩に言われて、旗と優勝杯を運んでいる。
君が代が流れるかと思ったら、アリアカ王国国歌の前奏だわ。
「「「「暁の大陸平原に命を受けて、走り戦い祖国を守る~♪」」」」
土俵を囲む一万人の兵士が合唱する。
何時聞いてもしみじみと良い歌だ。
ユスチン氏も、クリフトン卿も、マウリリオ元将軍も、目を閉じ唱和している。
私も歌う、リジー王子の綺麗な歌声がそこに被さる。
尊い。
はぁどすこいどすこい。
アデラはちょっと音を外しているわね。
故元横綱の親方が土俵に上がる。
私もアデラに呼ばれて土俵の横にあがる。
『表彰状! あなたは七月二日にホッベマー侯爵領場所で素晴らしい成績を残しましたので、ここに表彰します』
前世で憧れていた親方が私に表彰状を渡してくれた。
なんだか、とても嬉しい。
受け取って、実体のある方の呼び出しの人に渡す。
つぎは大きな大きなトロフィーだ。
結構重い。
さすがに、これはアデラには無理そうなのでユスチン氏に渡した。
沢山の半透明な人が表彰してくれた。
片言で褒め称えてくれた、パンナムの社長さんもいた。
やっぱり半透明の人たちは相撲の極楽から来ている人なんだろうなあ。
遠い所からありがとうございます。
カップもコーヒーカップ状の物や、クリスタルガラスの物、いろいろなトロフィーがあるね。
おお、これは、ガラスのトロフィーの中に椎茸が一杯つまった大分の農業組合からのトロフィーではないですか。
まさか自分が貰えるとは思わなかった。
ごっちゃんですっ。
副賞も、味噌、醤油、米と、バラエティにとんでいる。
ふふふ、これで、リジー王子に立派なちゃんこを食べさせてあげられるわ。
はぁどすこいどすこい。
だが、さすがに、副賞にガソリン一年分はなかった。
この世界には、ガソリンスタンドも無いし、車もないからね。
はあ、すごい表彰ラッシュでした。
私は土俵に礼をして降りた。
ずずずと土俵が沈んでいく。
貰った物やトロフィーは消えないようだ。
せっかくだから領都城の応接間にでも飾りましょうか。
さあ、今日はここで一泊して、明後日には領都入りね。
フローチェ部屋が一万人に増えてしまったわ。
まあ、大丈夫ね、相撲魂に従っていけば、何とかなるわ。
相撲はみんなを愉快にする神事なのだから。
どこからか跳ね太鼓が聞こえる。
私は思案顔のアデラの背中を押して動き始めた。
さあ、フローチェ部屋の新弟子一万人を野営させないとね。




