涙のわけは
「み、美羽、どうしたの!? す、すみません!」
慌てたママさんは、美羽ちゃんの涙を拭きながらも、あたしにペコペコと頭を下げる。
「いえ、こちらの方こそすみません。余計な事しちゃったから……」
本当にこっちの方こそ申し訳ない。今までお導きのインスピレーションが外れたことなんてかつてなかったから、なんの躊躇もなくやってしまったけれど、どう考えたってあたしが勝手に余計なことをしただけだ。
迷子になっても涙一つこぼさないこの可愛いレディを大泣きさせてしまうなんて、本当に申し訳ない事をしてしまった。
「それにしても、どうしたの? 美羽はコーンポタージュ大好きだったのに……味覚が変わったのかしら」
「いや……」
ママさんの不思議そうな呟きに、パパさんはなぜかとても苦い顔をした。
手早く割れたお皿の欠片を拾い、コーンポタージュをふき取っている間にも、テーブルからは美羽ちゃんのヒックヒックとしゃくりあげる苦しそうな嗚咽が聞こえている。
ああ、可哀そうな事しちゃったなあ。
こんなに泣いちゃうなんて、よっぽど嫌いだったんだろう。そう思っていたら。
「いや、実はコレでお袋とひと悶着あってさ」
パパさんがついに重い口を開いた。
「離婚してからはお袋がずっと飯を作ってたんだけど、なんせ和食ばっかりだから……」
ママさんの食事が恋しくなった美羽ちゃんが、コーンポタージュをねだった上に味付けの違いで気に入らずすねてしまったことで、パパさんのお母様が大層ご立腹になってしまったらしい。
元々苛烈な性格のお母様に派手に叱られた上に、それがきっかけでママさんの事を悪く言われた美羽ちゃんは、それ以来お母様の食事に一切文句を言わなくなったらしい。
「ずっと我慢してたんだな、美羽……」
痛ましそうに美羽ちゃんを見つめ、パパさんがその小さな体をぎゅっと抱きしめた。
途端に、大声をあげて盛大に泣き始める美羽ちゃん。きっと、今だって泣いちゃダメだって我慢しようとしてたのに、それでもあふれ出しちゃうくらいの思いだったんだろう。
ママさんも辛そうに、悲しそうに美羽ちゃんの背中をさすっていた。
「ごめん、ごめんな、美羽……」
涙ぐんだまま美羽ちゃんを抱きしめるパパさんは、ぎゅっと口を引き結び目を閉じた。
しばらくそのまま俯いていたパパさんが、やがてゆっくりと目を開ける。その眼には、強い決意の色があった。
「やっぱり、このままじゃ美羽のためにならない」
「隆さん……」
あたしは、その場をさりげなく離れた。
ここから先はきっと他人が聞いていいことじゃない。美羽ちゃんとその家族が、これからもっと幸せに暮らすために、考え結論を探していく大切な時間になるんだろう。




