コーンポタージュ
脱力したまましばらくテーブルに突っ伏していた美人ママさんは、ゆっくりと頭を上げると髪の毛をかき上げながらスマホを取り出して電話をかけ始める。
「……美羽、見つけたわよ。うん、うん、角の……そう。悪いけど迎えに来てもらえる?」
電話をかけるママさんを悲しそうな目で見ていた小さなレディ美羽ちゃんは、小さく「パパ?」と口にする。
「そうよ、もうそろそろ時間だもの」
「はぐれちゃったせいで、あんまり一緒にいられなかったね」
シュンとした様子でポツリと言った美羽ちゃんの頭を、ママさんは愛しそうな目で何度も何度も撫でていた。
……ワケありっぽいけど、あたしが口を出せるものでもない。奥の厨房に引っ込んでママさんご注文のアイスティーのためにティサーバーを用意していたら、入り口の鈴がけたたましく鳴った。
「美羽!」
見れば大柄の男の人が飛び込んで来る。間違いなく美羽ちゃんのパパさんなんだろうけど、ママさんに負けず劣らず汗だくで息も荒い。きっとパパさんも必死で美羽ちゃんを探してたんだね。
微笑ましくて思わず目尻が下がる。
その時、脳裏に突然コーンポタージュが浮かんだ。
これって、きっと導きアイテムだよねえ。
「良かった……!」
泣きそうな顔で美羽ちゃんをかき抱くパパさんと「大丈夫だもん」と強がる美羽ちゃんを見ながら、あたしは手早くコーンポタージュを温めて、お皿に移した。コーンポタージュならウチのメニューにあるから、いつだって簡単に提供できるのだ。
「お待たせしました」
ママさんのティーセットとともに、コーンポタージュもテーブルにさり気なくコトリと置く。当たり前だけど、ママさんが不思議そうにあたしを見た。
「あれ? 頼んでないですけど」
「サービスなので、良かったらどうぞ」
これ以外に導きアイテムを渡す口実が見つからないから仕方ないけど、脈絡なくサービスする店主って変だよねえとはあたしも実は気になっているところだ。
「すみません、ご迷惑おかけした上に。美羽、良かったね。コーンポタージュ好きでしょう?」
ママさんが微笑んで美羽ちゃんの前にコーンポタージュを置いたというのに、美羽ちゃんは唇をキュッと噛んで俯いた。
あれ?
あれあれ?
あ、ヤバい、ちょっとどうしよう!
美羽ちゃんの瞳にモリモリと大粒の涙が盛り上がり、あっという間にポロポロと零れ落ちた。
「キライ! キライだもん! 美羽、食べなくっても平気だもん!」
小さなお手手に乱暴にふりはらわれたコーンポタージュのお皿が宙を舞う。ガシャンと派手な音を立てて落ちたそれは、床に無残に飛び散った。
うそ……お導き、失敗?




