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手袋
「あの、これ落とされましたよ」
そっと差し出された手袋
その恋は突然に始まり
そして突然に終わった
始まりがあれば
いつも終わりがある
それは、まるで
一対の手袋のように
でもあなたが拾った
あの日の手袋は
今でも片方だけ
私の心に残っている
手袋をつける代わりに
あなたの握ってくれた
右手の温もりのように
心の内から
温かいものが込み上げてくる
初めての恋が編み始めた
毛糸の先が
手袋となって失くなるまで
その全てが
全てが愛おしい
恋に初恋や失恋はあるけれど
愛に初愛や失愛はないから
きっとこれからも
いつか誰かと
何度恋に落ちたとしても
月がスピカを隠す夜
私は右手を抱きしめ
夢に手袋を拾いにいく




