110/168
バーテンダー
静かな夜のカウンター
バーテンダーが立っている
アイスピックで氷を削り
グラスを丁寧に磨いていく
曇り一つ残さず
さぁ準備は整った
やがて
ぽつり、ぽつりと
お客たちがやってくる
シェイカーを踊らせ
グラスに液体の虹を作り出す
彼はカクテルの錬金術師
カウンター越しに語られる
笑い声、時には涙
全てを静かに受け入れて
その一杯ごとに
カクテルに込めた物語
恋の始まり、夢の終わり
ゆっくりと溶ける氷が薄め
飲み干されていく
消えていく
バーテンダー
彼はカクテルの魔術師
色と香りの魔法を紡ぎ
客の心を酔わせる
微笑みと優しい眼差し
悲しみも喜びも
一杯のカクテルに変えてゆく
すべてを受けとめて
疲れた心を癒すため
ひとつとして
同じものなどない
一日のように
一生のように
その一杯を差し出してゆく
一人ひとりに寄り添うように
彼のカウンターは
心の止まり木
灯りが消えるその時まで
今夜もここで、静かに立ち続ける
その一杯のために
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」




