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黒い森の悪しき魔女は三度恋をする  作者: 猫葉みよう@『婚約破棄された腹いせに〜』電子書籍配信中
第六章

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37_救出と予兆(2)

 その後、イーリカはノアに付き添われながら、捕らわれていた空洞のひとつを出て出口へと向かう。

 ライトは後ろからついてきている。


 ランタンの明かりが足元を照らす中、出口へ続く道を歩きながらイーリカはあたりを見回す。


 自然の洞窟かと思っていたが、壁面を見れば人の手で削られたような跡があった。


「ここは閉鎖した鉱山の跡地だよ。この辺りの山はカーネリアンやアゲート、アメジストなんかが採れるからね」


 イーリカの疑問を感じとったノアが答える。


「足元に気をつけて、出口はもうそこだ」


 そう言われて見ると、ぽっかりと開いた向こう側には明るい日差しが差し込んでいた。


 気づくとイーリカの歩調は早まっていた。


 洞窟の外に出てみれば、そこには木々が生い茂る濃い緑の森が広がっていた。

 ライトの言うとおり、落ち着いて空気を吸い込めば、ここが黒い森であるという気配を感じる。


 ずっと暗い洞窟の中にいたせいで光が眩しく感じ、イーリカは目を細める。


「大丈夫?」


 隣に立つノアがイーリカの瞳を気遣い、光を遮るように手をかざす。

 そうしてイーリカの顔を覗き込むが、すぐに何かに気づくと、そっと彼女の頬に手のひらを当てる。


「──これ、どうしたの」


 聞いたことのないノアの怒気を孕んだ声に、イーリカは体を強張らせる。


 何のこと──、と言いかけて、ベルーナをかばって頬を殴られたことを思い出す。


「あ、えっと……」


 何と言っていいのかわからず、イーリカは言葉を濁す。


 ノアは静かにイーリカの頬から手を離すと、ゆらりと体を動かす。何も言わずに後ろを振り返ると、そのまま真っ直ぐ歩みを進めていく。


 どこに行くのかと、イーリカはノアの背中を目で追う。向かう先には、濃灰色(のうかいしょく)の髪の男と、その仲間たちが木に縄でぐるぐるにくくりつけられているのが見えた。


 ノアは男たちの前に立つと、凍りつきそうなほど冷ややかに見下ろす。


「……一応訊こうか、彼女の頬を傷つけたのは誰」


 男たちの何人かは顔面蒼白になり、肩を震わせ、互いを見やる。

 このままでは全員に切りかかりそうな雰囲気に、濃灰色の髪の男が腹をくくって答える。


「……俺だ。と言っても、あの高飛車な女に手をあげようとしたのに、あっちの嬢ちゃんがかばったから当たっちまったんだ。不可抗力だ」

 

「そう、もう陽の光が見られないなんて残念だな」


 男の前に立ったノアはそう言うとアイスブルーの瞳を細め、抜いた剣をためらいもなく一直線に振り下ろす。


 その瞬間──。


 ドンッ! とノアの体に体当たりする黒い影があった。


「やめろ! 殺す気か⁉︎」


 ライトだった。

 ライトはノアの体に馬乗りになり、言い聞かせるように彼の瞳をじっとにらみつける。


 そこにもう一匹の黒い犬が駆け寄る。


「ちょっと! 証拠がいるんでしょ⁉︎」


 ラブラだった。洞窟の外でイーリカが出てくるのを待っていたらしい。


 突き飛ばされたせいで、ノアと濃灰色の髪の男たちとは距離ができていた。


 ライトとラブラの声が届かない周りから見れば、黒い犬二匹がノアに襲いかかっているようにも見えるだろう。


 ノアはライトをどかそうとわずかに身じろぎするが、ライトの前足がぐっとノアの胸板に食い込む。


 ライトは眉間にしわを寄せ、ノアをにらみつけている。ライトの虹彩を帯びる瞳の陰影がより濃くなる。


 ひやりとした空気があたりを覆う。


 イーリカはライトとラブラがノアに襲いかかることはないとわかっていても、駆け寄るのを止められなかった。


 同じく突然の出来事に焦った騎士たちも、主人であるノアにかぶさる犬をどけようと駆け出すが、ノアは手を上げて、来るなと制止させる。


 先に空気をゆるめたのは、ノアだった。

 彼はふっと息を吐くと、上半身を起こした。


 するとライトも、ゆるゆると彼の体から下りる。


「殺す気はなかったよ。それよりきみのほうこそ、見た目に反して優しいんだな」


 立ち上がりながらノアは言葉を吐く。


 ライトはノアを見上げ、毛を逆立てる。


(嘘つけ、そんだけ殺気を出しておいてよく言うぜ)


「あんな悪党でも死ねばイーリカが悲しむ。それよりも──」


 ライトが言葉を続けようとしたとき。


「ぐっ──」


 突然、ノアは頭を押さえて、地面に膝をついた。

 カランッと剣が地面に落ちる。


「え、おい⁉︎」

「ちょっと⁉︎」

 慌てたようにライトとラブラが声をかける。


 しかしその間にもノアは顔を歪め、激しく苦しみ始めた。


「──ここ、は、──もしか、して、──ぐっ‼︎」


 ノアはうわ言のように何かをつぶやく。頭が割れるような激痛に、たまらず地面に倒れ込む。


「ノアさま‼︎」


 イーリカは声をあげ、ノアの体に手を伸ばす。彼のそばでうろたえているライトに向かって叫ぶ。


「何があったの⁉︎」

「ああ、ちくしょう! 油断した! 俺と目が合ったからだ!」


 ライトは悔しげに地団駄を踏む。

 たまらずラブラが叱責する。


「無意識に力を込めたのね⁉︎ 何やってるのよ‼︎」


 わけのわからないイーリカは動転しながら、ノアの体を抱き抱えるしかできない。


 そして、ノアは完全に意識を失った──。



次は、エピローグ前の最後の章「第七章」に移ります!

事件解決とともに、ラストに向かいます……!


ここまで読んでくださった方、ブクマ・評価・いいねくださった方、本当にありがとうございます!


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