28_喪失(ノア視点)
次に目が覚めたとき、少年はタウフェンベルク伯爵邸の自室の豪奢なベッドの上にいた。
ゆっくりとまぶたを開ける少年に気づいた執事が、慌てて駆け寄る。
「──坊っちゃま! ノア坊っちゃま!」
その声に呼ばれた少年は、ゆっくりと口を開く。
「……ヘン、リー?」
「ええ、ヘンリーでございます。私はここにおります、ノア坊っちゃま」
涙をにじませながら、ヘンリーと呼ばれた執事は、自身が仕えるタウフェンベルク伯爵家の子息、ノールドアルトの幼い手を握る。そしてすぐさまそばに控える使用人に声をかける。
「すぐに旦那さまと奥さまをお呼びして、ノア坊っちゃまが目を覚まされた」
執事の指示に、使用人はバタバタと部屋を出ていく。
間もなく駆けつけた両親は、愛する息子を強く抱きしめた。
そして彼が誘拐され、三ヶ月以上行方が知れなかったこと、どれだけ必死で捜索し不安で眠れぬ夜を過ごしたかを涙ながらに語った。
しかしそれを聞いたノアは、きょとんとするばかりだった。
なぜなら、彼は何も覚えていなかったからだ。
いつものように目覚めただけなのに、周りが涙を浮かべ安堵する様子にただただ戸惑っていた。
ふいに視線を感じて目をやると、開いた扉の脇に大好きな兄が立っていた。
「兄上!」
少年は笑顔を浮かべて兄を呼んだ。
だが兄は心底驚き、ひどく顔を歪めて何も言わず立ち去ってしまった。
「どうして……」
いつもであれば、微笑みを浮かべて兄のほうから近づいてきてくれるのに、思いがけぬ態度を見せられ、ノアはひどく傷つく。
それを見ていた伯爵家当主である父親は言いにくそうに、
「お前がいなくなってから、人が変わったように沈んでしまったんだ。しばらくそっとしておいてやりなさい」
ノアの頭にやさしく手を置き、
「それに今後はひとりで街に勝手に出かけるのは禁止だ。いいな、必ず誰か連れていくんだ」
「でも僕──」
とっさにノアは否定しそうになる。なぜだかわからなかったが、事実と違うことを言われたと思ったのだ。しかし、
「約束してちょうだい、ノア」
父親の言葉についで母親も言い聞かせるように言い、ノアの両手をとった。
すべてが様変わりしてしまったことに、ノアは大きな違和感を覚える。
(僕は何ひとつ変わっていないのに……。いや、本当に……? 本当に何も変わっていないのか?)
胸の奥がざわめく。
でもそれが何なのか、ノアには思い出す術はなかった──。
過去エピ終わりです!
次から第六章に移ります。不穏な影がちらつき始めます……!
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