18_手放した恋心(1)
リンッ──と、澄んだベルの音とともに、
「では、お気をつけてお帰りくださいませ……」
そう言って、黒い森に棲まう魔女のイーリカは、今晩の客を古ぼけた小屋の扉から送り出した。
「はあ……」
小さく息を漏らし、黒いローブのフードを後ろにやる。
ふと視界に入った自分の平凡な焦げ茶色の髪の毛を、ついっとつまむ。
ノアの婚約者と名乗る令嬢ベルーナと会った日から、イーリカはずっと気分が沈みがちだった。
もうすでに十日以上経っているのに、あのハチミツ色のきれいな金髪が脳裏から離れない。
そのたびに月光のような淡い金髪をもつノアと並ぶ姿を想像し、胸がきゅっと締めつけられる。
イーリカはローブを着たまま身を投げ出すように、椅子へ腰かけた。
「イーリカ、りんご食べていいか?」
客が置いていってくれたかごの中身を漁りはじめたライトが、イーリカを振り返る。
「あんたねぇ!」
イーリカのそばに控え、心配そうに彼女を見上げていたラブラは、ライトの気楽な態度に苛立ちをあらわにする。
ライトは返事を待つことなく、あーんとりんごにかぶりついたあとで、むしゃむしゃと咀嚼しながら言った。
「つらいならまた忘れるっていう手もある」
「やめなさいよ」
ラブラがすぐさま低い声音でライトをにらみつける。
「また……?」
イーリカは引っかかるものを感じ、ライトを振り返る。
ライトは肩をすくめるような仕草をして、
「いや、なんでもない」
と言って、二個目のりんごにかぶりついた。
話が続いているので、このあと続きの19話も、あとで投稿できたらと思います!
ご覧いただけるとうれしいです!






