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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第4話、バードマン集落襲撃放火事件 その4

     第4話その4


「なるほど、君達は怪鳥の情報を集めていたのか」

「はい、私達の探しているフェニックスの可能性があるので……」

 フリルフレアの言葉に、「そう言う事だったのか」と納得するヒカーツ。そしてウンウンと頷くとドレイクとフリルフレアに視線を向けた。

「そう言う事ならば、俺よりも実際に怪鳥を見た隊員から話を聞いた方が良いだろう。残念だが俺はまだ怪鳥には遭遇していないんだ」

「そうなのか」

 怪鳥に遭遇していないという話なのでヒカーツからは話を聞けそうにない。だが、代わりに情報をくれる人は居そうだ。

「それで、その怪鳥に会った奴ってのは……」

 ドレイクはそう言ってまわりをキョロキョロと見回した。警備隊の詰め所なのだからその隊員がどこかにいるはずである。

「あ、いや……その男はイーブスと言うんだが今は集落の入り口近辺の警備に当たっているはずだ」

「そっか、それじゃ集落の入り口に行ってみるか」

 そう言ってサッサとその場を去ろうとするドレイク。しかしそのドレイクの服の裾をクイクイと引っ張ってフリルフレアが呼び止めた。

「ちょっと待ってよドレイク。私達だけ行ってもそのイーブスさんって方の顔も知らないんだよ?」

「あ、そうか」

 思わずポンと手を打つドレイク。その様子にフリルフレアはため息をつき、ベルフルフはニヤニヤ笑いながら「相変わらず馬鹿だな」と言って笑っていた。

「なら、俺も同行しよう。どうせそろそろ定時連絡の時間だからな」

「すいませんヒカーツさん、ありがとうございます」

「悪いな、恩に着るぜ」

 同行するというヒカーツに対し頭を下げるフリルフレア。対してドレイクは大して恩にも感じていなさそうに軽く礼を言っただけだった。

「ちょっとドレイク!もう少しちゃんとお礼を言えないの⁉」

 小声でそう言うと思いっきりドレイクの足を踏んづけるフリルフレア。だが、足を踏まれたドレイクはケロッとした顔のまま「ん?どうした?」とか言っている。そして例によって踏みつけたフリルフレアの脚の方が痛みを感じていた。

 思わず涙目でドレイクを睨むフリルフレア。そんなフリルフレアに「な、何だよ…」とか言いながら若干の後ろめたさを感じるドレイク。フリルフレアの非難がましい視線が若干痛い。

「しかし……それにしても珍しいな」

 突然そんなことを言ってくるヒカーツに、ドレイクとフリルフレアは頭の上に?マークを浮かべる。

「冒険者の身でメイドを雇っているなんて…」

 そう言ったヒカーツの視線の先にはフリルフレアがいる。

「「…………………」」

 思わず顔を見合わせるドレイクとフリルフレア。そしてそのままフリルフレアはヒカーツに視線を向けながら自分自身を指差して首を傾げた。私のこと?と言いたげである。

 それを見てウンウン頷いているヒカーツ。それを見ていたベルフルフは後ろで笑いを堪えていた。

「あ、あのヒカーツさん!私メイドじゃないです!冒険者ですよ!」

「え?でもエプロン着けてるじゃないか」

「ミイィィィィ!このエプロンは防具です!」

 叫ぶフリルフレア。そんなフリルフレアの肩をドレイクがそっと叩く。

「フリルフレア………。やっぱりそのエプロン防具に向かないんじゃねえか?」

「そ、そんなことないもん!」

 お気に入りの防具をけなされ半ベソかくフリルフレア。そんなフリルフレアを見てドレイクはケラケラ笑っていた。

「そ、そうなのか……すまない、俺はてっきりメイドなのかと…」

 申し訳なさそうにそう言うヒカーツ。フリルフレアに頭を下げようとしているが、ベルフルフにバシバシと背中を叩かれて止められた。

「気にすんなよヒカーツ。エプロンなんか着けてりゃメイドと間違えるっつーの。こんな格好してるこの嬢ちゃんが悪いんだよ」

「むむむむ……」

 いつの間にか自分が悪者にされ納得できないフリルフレア。唸りながらベルフルフを睨んでいるが、彼はそんな視線を受けても涼しい顔でニヤニヤしているだけだった。

「と、とにかくイーブスの所に案内しよう。集落の入り口から出て少し進んだ広場の辺りを警備しているはずだ」

 フリルフレアに申し訳なく思ったヒカーツだったが、それよりも大事な本題を思い出すと集落の入り口に向けて歩き出した。

「こっちだ。ついて来てくれ」

 ヒカーツの案内に続くドレイクとフリルフレア。さらにその後ろからベルフルフも続いて行く。

「何でベルフルフまでついて来るんだよ」

「俺様にとっても怪鳥の情報は集めておいて損は無いからな」

「ふ~ん、勝手にしろ」

「もともとお前の許しなんかいらねえだろ」

 例によってお互いの口の悪さから険悪な雰囲気になっていくドレイクとベルフルフ。

「あ?俺たちが話を訊こうとしてるんだぞ?本来お前は関係ないんだから引っ込んでろよ」

「関係無え訳ねえだろ。俺はこの集落の用心棒だぞ?」

「ハッ!そうかよ。まあ、怪鳥に遭遇して返り討ちに合わないようにせいぜい気を付けるんだな」

「バカかお前。この俺様が鳥ごときに()られる訳ねえだろ。テメエみてえなザコと一緒にすんな」

「あん?誰がザコだコラ。何ならもう一戦やり直すか?」

「おもしれえ。吠え面かいても知らねえぞ」

 再び互いの額をぶつけてメンチ切り合っているドレイクとベルフルフ。何度目かになるヤンキーの喧嘩にフリルフレアは深々とため息をついた。そして二人の間に割って入ると両手で二人の身体を押し留める。

「はいはい、ドレイクのベルフルフさんもいちいち喧嘩しないの。子供じゃないんだから」

 なだめてくるフリルフレアに「チッ」と舌打ちをしてそっぽを向くドレイク。それに対してベルフルフはニヤニヤ笑いながらフリルフレアの腕を取った。

「いやいや嬢ちゃん。俺様はまだまだお子様だからよ」

「え?ベルフルフさんってそんなにお若いんですか?」

「32歳だ」

「オッサンじゃないですか」

 身もふたもないフリルフレアの言葉にさすがのベルフルフもショックを隠し切れない様子だった。

「ちょ…おま………。オホン!おい嬢ちゃん、そりゃ嬢ちゃんからすれば俺様はちょっと年上かもしれないがオッサンは無いだろオッサンは。せめてオジサマとかナイスミドルとか……」

「いえ、オッサンはオッサンだと思います」

「オッサンて……。お、俺様がオッサンだったら赤蜥蜴はどうなるんだよ!」

 苦し紛れなベルフルフの言葉を受けドレイクの方を見るフリルフレア。フリルフレアの視線を受けたドレイクは顎に手を当てて少しだけ考えるとその後一言。

「いや、俺自分の歳知らないし」

 キッパリと言い放つドレイクを睨み付けるベルフルフ。

「テメエ……都合の良い時だけ記憶喪失ぶりやがって」

「いや、別に都合の良い時だけじゃないんだが……」

 ジト目で睨んでくるドレイクを尻目に肩を落とすベルフルフ。どうやらこの話題は自分にとって分が悪いと察したようだ。なので話題をさりげなく戻す。

「いやいや、とにかく嬢ちゃん。俺様はまだまだお子様だからよ…え~と…心が」

「頭脳は子供、身体は大人ってことですか?ダメダメですねそれ」

 フリルフレアの視線が若干冷たい気がするが、気にせず先を続けるベルフルフ。

「そうそう、ダメダメなんだよ。だから嬢ちゃん」

「何ですか?」

「お子様な俺様をその小さな胸で慰めてくれよ。できれば直肌で」

 何やらそんなことを言いつつフリルフレアに迫るベルフルフ。自分ではお子様と言いつつ相当嫌らしい笑みを浮かべながら舌なめずりをしている。

「む、胸?直肌?」

 ベルフルフの言葉と態度にどうしようもない嫌らしさを感じたフリルフレア。思わず自分の胸を抱きしめて二歩三歩と後退る。

「……お前ってもしかしてロリコンか?」

「いや、俺様は女ならババアか赤ん坊じゃなきゃ大丈夫だ」

「恐ろしくストライクゾーンの広い奴……」

 呆れたドレイクの視線が突き刺さるが、ベルフルフは意に介してもいなかった。

「さあ嬢ちゃん、俺様を慰めて……」

 ハアハアと息も荒くフリルフレアに詰め寄るベルフルフ。それを見たフリルフレアは全身に鳥肌が立つのを感じた。

「ミ、ミイイィィィィ!ド、ドレイク助けて…」

 怯えたフリルフレアがドレイクの後ろに隠れる。しかしそれを追ってにじり寄ってくるベルフルフ。

「さあ嬢ちゃん、諦めて俺様の………」

「いい加減にせんか」

 呆れて手で叩く気力も失せたのか、尻尾でベルフルフをどつくドレイク。

「痛てえな赤蜥蜴!邪魔すんな!」

 邪魔をされて詰め寄ってくるベルフルフにドレイクは呆れた視線を送る。

「お前のせいでフリルフレアが怯えてるだろうが。もうすぐイーブイって奴の所につくんだからそっちの事でも考えてろよ」

「ミィィィ……ドレイク、それじゃいろんなタイプに進化するウサギみたいなモンスターだよ。イーブスさんだからね、イーブスさん」

「あれ?そうだっけ?」

 自分の後ろから顔だけ出してそう言うフリルフレアにどこかとぼけた感じで返すドレイク。もっともドレイクの場合は本気で言っているのだが……。

「とにかくそのイーブンって奴の事でも考えてろ」

「ドレイク、イーブンは引き分けって意味だからね?」

「え?そうなの?」

 そんなドレイクとフリルフレアのボケとツッコミを冷やかに見ていたベルフルフ。そのままつまらなそうに顔をしかめた。

「俺様は男には興味ねえ」

「いや、俺だってねえよ」

 ベルフルフのしょうもない言葉に呆れるドレイク。そんなドレイク達だったが、ヒカーツについて歩いて行くうちに集落の入り口までたどり着いていたのだった。


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