第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第4話、バードマン集落襲撃放火事件 その3
第4話その3
ホーモンの話を聞き終えたドレイク達は集落で今は使われていない小屋を借りることとなった。ホーモン集落には宿屋が無く、仕方なく無人の小屋を使わせてもらう事にしたのだ。ホーモンの家のすぐそばにあったその小屋は幸いにも手入れが行き届いておりドレイク達が止まる分には問題無さそうだった。
そして小屋に荷物を置いたドレイク達はホーモンの話から得た情報を分析、そしてまだ情報が足りないという結論に達した。そこでドレイク達は3手に分かれて集落の者達に話を聞いて回ることにしたのだった。ちなみに組み分けはいつも通り、ドレイクとフリルフレア、ローゼリットとスミーシャ、アレイスローとフェルフェルである。ちなみに余談だが、組み分けをしようとした時にスミーシャは真っ先に「じゃあ私フリルちゃんと!」などと言いながらフリルフレアに飛びつこうとしたが、それよりも一瞬早くローゼリットに首根っこを掴まれ「バカを言ってないで行くぞ。お前は私と来るんだ」と言うセリフと共にずるずると引きずられていった。
ドレイクとフリルフレアは怪鳥の話を聞くために集落にある警備隊の詰め所を訪れていた。ドレイク達が詰め所に入ろうとすると入口の所で呼び止められた。
「おい赤蜥蜴、ここに何の用だ」
「なんだベルフルフ。お前まだいたのか?」
「まだも何も、こっちは怪鳥を始末しなきゃ仕事が終わらないんだよ」
「ああ、そうだったな」
ベルフルフの言葉に彼がこの集落の用心棒だったことを思い出す。
「ベルフルフさんはここで何をしてるんですか?」
「俺か?俺は警備隊長と今後の打ち合わせをしていたところだ」
「警備隊長さんと?」
「そうだ、集落の自衛能力を高めるために警備の配置や交代のタイミングなんかを細かく指示しておいた」
「はあ……」
何やらベルフルフの予想外の返答に思わずポカンとして間抜けな返事をしてしまうフリルフレア。そんなフリルフレアにドレイクは「ベルフルフの奴は見かけによらず戦術なんかにも詳しいんだよ」と小声で囁いた。
「それで、お前らホントに何しに来たんだ?」
「いや、怪鳥の情報を少しでも集めたいと思ってな」
「怪鳥か……。俺様もまだ実物を見たわけじゃねえが、話を聞く限りじゃお前らの探しているフェニックスとは違うんじゃねえのか?」
「そうかもしれないが……念のために情報を仕入れておきたいんだ」
「ほ~ん、そうかよ。まあ、好きにしろや」
そう言ってその場を立ち去ろうとするベルフルフ。
「おいちょっと待てよベルフルフ。一応お前の意見も聞いておきたいんだが……」
「あ?俺様の意見?」
「そうだ。お前用心棒なんだから怪鳥の情報は仕入れているだろう?だからその情報とお前なりに考えた怪鳥の正体なんかを……」
「ハッ!なんで俺様がテメエにそんなことを教えてやらなきゃならねえんだ?」
「あん?ケチケチすんなよ。別にお前の意見を聞いてるだけだろ?」
口の悪いベルフルフにつられ、ドレイクの口調も荒くなっていく。そんな二人を見たフリルフレアは慌てたように二人の間に割って入った。
「と、とにかくドレイク、別にベルフルフさんの意見を無理に聞く必要は無いんだから……。ベルフルフさんもすいません、お仕事中に呼び止めてしまって…」
そう言ってドレイクをなだめ、ベルフルフに頭を下げるフリルフレア。彼女が出てきたことで「チッ」と舌打ちしてそっぽを向くドレイク。それに対しベルフルフの方はニヤリと嫌な笑みを浮かべると、フリルフレアの身体を上から下まで舐めるように見回した。その視線に若干ぞくっとするフリルフレア。
「嬢ちゃんはバードマンだよな?赤い羽根ってのは珍しいが……」
そう言ってフリルフレアに顔を近づけてくるベルフルフ。
「ところで、漏らした股間は大丈夫なのか?何ならきれいにしてやるぞ?」
「なっ………!」
ベルフルフの突然のセクハラ発言に思わず言葉を失うフリルフレア。そしてそのまま顔を真っ赤にしてプルプルと震えだす。誰のおかげで粗相をしたと思っているのだ。
「ご、ご心配いただかなくてももうちゃんと洗いましたし、下着も取り替えました!」
思わず声を荒げるフリルフレア。目の前のセクハラ狼男の顔面に拳を叩き込みたくなるが、自分が殴っても大したダメージにならないのと、どうせベルフルフ相手ではそもそも避けられるのがおちなのでグッとこらえておく。
だが、次の瞬間フリルフレアのすぐ後ろから手が伸びたと思うとベルフルフの胸ぐらを掴み上げる。そしてそのままドレイクはベルフルフの胸ぐらを掴んだまま持ち上げた。その顔は険しく歪んでおり、怒気をはらんでいる。それに対してベルフルフはどこか余裕の表情だった。
「おいベルフルフ、俺の相棒に何の用だ……?」
「相棒?相棒ってこの嬢ちゃんがか?」
「そうだ、こいつは俺の相棒だ」
小馬鹿にした様に言うベルフルフに対し、大真面目にそう言ってフリルフレアの頭に手を乗せるドレイク。どうやらベルフルフにフリルフレアをバカにされたのがよほど気に入らなかったらしい。
「ヒャーハッハッハッハッハ!こいつはお笑いだ!仮にも冒険者ランク13のお前がこんなちんちくりんでエプロン着けたメイドのお嬢ちゃんとコンビを組んでるなんてな!」
わざとらしく大声で笑うベルフルフ。言葉の内容はフリルフレアを愚弄するものであったが、言葉自体はドレイクに向けられていた。明らかにドレイクの事を挑発している。
「テメエ……!」
ドレイクがフリルフレアを庇うように前に出るとそのままベルフルフを睨み付ける。それに対しベルフルフも視線をドレイクに移しニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「どうした?何ならここでさっきの続きをやるか?」
そう言って手をクイクイと動かし、掛かってくるように挑発するベルフルフ。それを見たドレイクの眼が吊り上がる。そして背中の大剣に手をかけた。
「上等じゃねえかクソ眼帯野郎。叩き斬ってやるぜ」
「やれるもんならやって見な」
ベルフルフも腰の剣に手をかけ挑発を続けた。掛かって来いと言いたげである。そして二人の視線がぶつかり合い火花を散らした、まさにその瞬間だった。
「何事だ!集落内での揉め事は控えてもらおう!」
そう言って一人のバードマンがドレイクとベルフルフの間に割って入った。そのバードマンは大柄で筋肉質、焦げ茶色の髪を短く整えており、同じ色の瞳をしている。そして背中には大きな茶色の翼を持っていた。
そのバードマンはドレイクとベルフルフを交互に見ると、そのままベルフルフの方に詰め寄っていく。
「どういうことだベルフルフさん!あんた用心棒として雇われた身だろう⁉どうしてそれが揉め事を起こしているんだ⁉」
顔をズイズイっと近づけながら詰め寄るバードマン。あまりの顔の近さに、若干顔を引きつらせながらベルフルフは手をバタバタと振った。
「い、いや…別に揉め事じゃねえよ。単にこいつらをちょっとからかっただけさ」
「本当なのか?」
「こんなくだらない事で嘘はつかねえっての。なあ赤蜥蜴?」
突然ドレイクに会話のバトンを渡してくるベルフルフ。突然の事にドレイクは目を丸くするが、それでも何となくこのバードマンにこのまま詰め寄られるのも面倒くさい気がしたので、「あ、ああ…まあな」と適当に呟いて誤魔化しておいた。
「それで…あんたは?」
ドレイクの問いにバードマンは「ああ、そうか。自己紹介がまだだったな」と言ってドレイク達に向き直った。
「俺はこの集落の警備隊長をしているヒカーツという者だ」
そう言って握手を求めてくるヒカーツ。ドレイクも右手を差し出しヒカーツの手を握り返した。
「俺はドレイク・ルフトだ。よろしく頼むよピカチュー」
「ミイィィ……。ドレイク、それじゃ電気ネズミだよ。ヒカーツさんだからね?ヒカーツさん」
「え?えっと…………だからピカチュー……だよな?」
さも自分は間違っていないと言いたそうなドレイクだったが、明らかに間違っている。相棒の物覚えの悪さに、フリルフレアは盛大にため息をつくのだった。




