第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第4話、バードマン集落襲撃放火事件 その2
第4話その2
ホーモンの家の居間に通されたドレイク達。「何も無いが薬草茶でも飲んでいきなされ」と言うホーモンの勧めで彼の淹れた薬草茶をもらう事にした。ドレイク達がイスに座ると、その前のテーブルにホーモンの淹れた薬草茶が並べられる。
「いただきます」
そう言ってさっそく薬草茶に口を付けるフリルフレア。ちなみにこの薬草茶は濁った緑色をしており、普通の紅茶やハーブティーとは全く趣が違って見える。正直に言えばあまりおいしそうには見えない。そのため、ためらいなく口を付けたフリルフレアとは対照的に他のメンバーは手を出すのを躊躇していた。
「ああ、美味しい。ちょっと懐かしい感じがします」
「懐かしい?記憶を無くす前に飲んだことがあるとか?」
顔をほころばせて、と言うよりはかなり緩い感じに「ほへ~」とか言いながらおいしそうに薬草茶を啜っている隣のフリルフレアにドレイクが問いかける。もしかしたらこの薬草茶はバードマン特有のもので、彼女の失った記憶に関係しているかもしれないと考えたのだ。だがフリルフレアは緩んだ顔でなおも「ほへ~」とか言いながら薬草茶を啜り首を横に振っていた。
「違うよ~。こういう薬草茶ってよくママ先生が淹れてくれたから、私も良く飲んでたの~」
「何だ、そう言う事か」
記憶の事とは全く関係なかったので肩を落とすドレイク。だが、当のフリルフレアが特に気にしていなさそうだったのでドレイクも気にしないことにした。そしてドレイクも薬草茶を恐る恐る口に含んでみる。
「グフ!苦げえ!」
口に含んだ瞬間、盛大に噴き出すドレイク。ドレイクが吹き出した薬草茶は当然の様に隣のフリルフレアに直撃した。
「何だこりゃ!お前、よくこんな苦いもん飲めるな…」
「…………………ドレイク」
「爺さんもうちょっと普通の茶は無いのか……って、何だよ」
ホーモンに文句を言おうとしたドレイクだったが、自分の服の裾を引っ張るフリルフレアに気が付き彼女の方に向き直る。フリルフレアは盛大に薬草茶をかけられ頭からびしょ濡れだった。
「……まず私に言うことあるよね?」
「あ?……ああ、そうだな。お前………そんなびしょ濡れになってどうしたんだ?」
「あんたのせいでしょうが!」
ドレイクのあまりの物言いに、思わず怒鳴りながらドレイクの頭を引っ叩くフリルフレア。ちなみに叩かれたドレイクがケロッとしているのに対し、叩いたフリルフレアは涙目になりながら叩いた方の手を押さえている。ドレイクの鱗が固すぎて叩いた手の方が痛かったのだ。そしてそんな状況納得できないとばかりにドレイクを睨み付ける。
「おいおい、そんなに睨むなよ。どうかしたのか?」
「ドレイクが私にお茶を吹きかけたからでしょうが!」
「ああ、そう言う事か」
初めて理解したとばかりに手を打つドレイク。フリルフレアは悔しいのか「ムキー!」とわめいている。そんなドレイクとフリルフレアを微笑ましそうに見ているのがアレイスローとフェルフェルだった。アレイスローは薬草茶を啜りながら「ああ、美味しいお茶ですねぇ……」とかしみじみ呟いており、非常にじじくさい。ちなみにフェルフェルの方は薬草茶に手も付けていなかった。さらに言えば、ローゼリットは「苦いが……意外と悪くないかもな」などと言いながら少しずつ薬草茶を啜り、スミーシャは薬草茶が熱いのかフーフー息を吹きかけて冷ましていた。そして二人してお茶からいったん離れると、タオルを取り出して薬草茶まみれのフリルフレアの頭や顔を拭き始める。
「フォッフォッフォ。お口に合いましたかな?」
ホーモンはどこか満足そうにそう言うと自身も薬草茶を口に含んだ。
「さて…それじゃ本題に入りましょうかのう。怪鳥の話でしたな」
「ええ、お願いします」
頷くアレイスロー、そのまま先を促した。
「10日ほど前の話になりますかのう。とつじょ1羽の怪鳥がこの集落を襲ったのじゃ」
「10日前……。それでその怪鳥って言うのは?」
「はい、その怪鳥は全身が炎で包まれており、巨大な翼を持っておりました。もっとも炎のせいで全体の正確な姿は分からなかったんじゃが……」
フリルフレアの頭をワシャワシャと拭きながら訊いたローゼリットの問いに、そう答えたホーモン。そしてそのまま、思い出すのも忌々しいと言いたげに言葉を続けた。
「とにかくその怪鳥は集落を襲い、いくつも家を焼いて行きおったのですじゃ。そして我らが同胞をついばむように喰らいおった!」
「ついばむように?」
少し興奮気味に話すホーモンに対し、あえて冷静に問いかけるアレイスロー。自分が冷静に問い返すことでホーモンにも冷静さを取り戻させようとしたのだが、あまり効果は無かった様子だった。
「そうじゃ!あの怪鳥め!全身を包む炎の隙間から見えたあのトサカの生えた異様な鳥の顔は絶対に忘れんわい!」
ついには怒りをあらわにするホーモン。集落の長として、同法が犠牲になったのが許せないのだろう。
「奴は8人の同胞を喰い散らかし、火事を起こして5人の命を奪いおった!何としても討伐せねばならん!」
「なるほど、それでベルフルフさんを雇ったという訳ですか」
興奮気味だったホーモンだが、アレイスローの言葉に少し冷静さを取り戻したのか、「オホン!」と咳払いすると、静かに頷いた。
「その通りですじゃ。あの辺りを以前から根城にしていた山賊もいたので、それらの討伐も含めて依頼したのですじゃ」
「そう言う事でしたか……」
そう言って頷くアレイスロー。しかし、やはり話を聞いただけではその怪鳥がフェニックスがどうかは分からなかった。分かったことと言えば、その怪鳥が肉食らしいと言う事。しかも平気でバードマンを喰らうらしい。と言う事は他の人間種も食べると思って問題ないだろう。正体は分からずとも、その怪鳥が非常に危険な存在だと言う事は理解できた。
(どうも……厄介なことになりそうだな…)
そんなことを考えながらドレイクは今回の仕事がただの卵探索に終わらないであろう予感がしていた。




