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第4章 赤蜥蜴と赤羽根と翼人の里 第3話、牙狼剣ベルフルフ その4

     第3話その4


「も、もう一度訊きますよ、あなたは何が目的なんですか?何で私達を襲ったんです?」

 フリルフレアは先程と同じ質問をベルフルフに投げかけた。しかし、当のベルフルフはドレイクに剣を突きつけられ、自身も「降参だ」とばかりに両手を上げているにもかかわらず、どこか余裕を感じる。まるで「この程度の状況などいつでも打破できる」と言っているように見える。

「おう、何だい嬢ちゃん?それに答えるとなんかいい事でもあるのか?」

「いえ、特に何も……。ですが、もう私達を襲わないと誓えるならあなたを開放します」

 大真面目にそう答えたフリルフレア。だが、それを聞いたベルフルフは「ギャハハハハハ!」と声を上げて笑い始めた。

「何がおかしいんですか?」

 腹を抱えて笑うベルフルフに、どこか冷たい視線を送るフリルフレア。だが、そんなことなど気にもせずベルフルフは笑い転げていた。

「ギャハハハ!悪い悪い、嬢ちゃんがあまりにも状況を分かってないもんだからよ」

「状況が分かっていない?」

「おうよ。この俺様が剣を弾かれた程度で降参するとでも……」

「いいや、ドレイクやっちゃって」

「ほいきた」

 ベルフルフの言葉が終わる前にドレイクにGOサインを出すフリルフレア。そしてそれに応えたドレイクは問答無用でベルフルフの脳天に大剣を振り下ろす。

バシイィン!

 ドレイクの振り下ろした大剣を間一髪で白刃取りするベルフルフ。ある意味不意打ちだったため、流石に額から冷や汗が流れ落ちている。

「うお!あ、あぶねえ……。てめえ赤蜥蜴!何しやがる!」

 白刃取りしたままドレイクの剣を受け止め続けるベルフルフ。一方のドレイクは大剣を握る手に力を込め、さらに体重をかけていく。力任せにベルフルフを押し切ろうとしているのが見て取れた。

「なにしやがるはこっちの台詞だ、このクソ眼帯戦闘馬鹿野郎!相変わらず問答無用で喧嘩吹っ掛けてきやがって!」

「何だと⁉」

 何やら互いに我慢がならないのか罵り合いを始めるドレイクとベルフルフ。その様子を半ば呆然と見ていたフリルフレア達だったが、ドレイクとベルフルフの罵り合いが「バーカ!」だの「このむっつりスケベ!」だのと低次元な言い合いになってきた辺りで我に返ると、流石に止めに入った。

「ちょ、ちょっと、落ち着いてよドレイク!」

「キサマもだベルフルフとやら、何を低次元な言い争いを……」

 フリルフレアとローゼリットに諫められ、そのまま黙り込むドレイクとベルフルフ。そのままにらみ合っていた二人だったが、どちらともなく視線を逸らすと「チッ!」と舌打ちして離れていった。

「やってらんねー」

 つまらなそうにそう言うと大剣を鞘に納めるドレイク。

「ちくしょう、興がそれたぜ」

 吐き捨てる様にそう言ったベルフルフは弾き飛ばされた剣を拾い上げると腰の鞘に納めた。

 そして互いに一瞬だけ視線を合わせたがすぐにそっぽを向くと二人そろって「「チッ!」」と舌打ちした。

 そんな二人を見たフリルフレア。何だかは分からないが、とりあえずこの二人が知り合いであり、かなり仲が悪い事だけは分かった。

「えっと……ドレイク。この人と……知り合いなんだよね?」

「ただ単に知ってるだけだけどな」

 つまらなそうにそう言うドレイクを見て、ベルフルフがニヤリと口の端を吊り上げる。

「そ~そ~、知ってるだけだよな?自分より強いってことを」

「あ?てめえ、前に1度ぽっきり俺に勝ったからって調子に乗ってんじゃねえぞ」

「何だと?何ならもう一戦やり直すか?」

「おもしれえ、上等じゃねえか」

 まるでどこぞのヤンキーの様におでこ同士をぶつけ合いながらガン飛ばし合うドレイクとベルフルフ。その様子とやり取りを見たフリルフレアとローゼリットは、何となく二人の関係を理解した。

「えっと……つまり、ベルフルフさんは誰彼構わず喧嘩を吹っ掛ける悪い癖がある。それでドレイクは、そのベルフルフさんから喧嘩を吹っ掛けられて一度負けたことがある。そう言う事ですかね?」

「恐らくそんな所だろう」

 フリルフレアの言葉に頷くローゼリット。しかし、フリルフレアにはわからないことが一つだけあった。

「でも、何でベルフルフさんはそんなに喧嘩ばっかりしてるんですか?」

「こいつはな……ただの戦闘馬鹿、戦闘狂なんだよ」

 憎々しげにそう言うドレイク。それを見たベルフルフはニヤリと笑いながら少し小馬鹿にした様にドレイク達を見た。

「その戦闘狂に負けたのは誰だったけなぁ。まあ、仮にも冒険者ランク15の俺様に勝てる奴なんざまず居ねえけどな!」

「ぼ、冒険者ランク15⁉」

 思わず耳を疑うフリルフレア。ドレイクのランク13を超える人間がいるなど思ってもみなかった。ドレイクの方を見ると、「事実だ」と言わんばかりに、若干苦々しく頷いている。

「つまりよ、俺様は強い奴と()り合いたいわけよ。だから気が向いた時には見かけた冒険者に喧嘩を売って回ってるってことさ」

「なんて迷惑なヤツ」

 ベルフルフの言葉を聞いたローゼリットがボソッと呟いていたが、とりあえず本人の耳には届いていなかった。

「ところでよ、嬢ちゃん」

「え?わ、私ですか?」

 突然フリルフレアに話しかけるベルフルフ。話しかけらえれたフリルフレアは驚きで目を丸くする。まさかベルフルフの方から話しかけてくるとは思ってもみなかったからだ。

「何ですか?」

「正直に答えたんだから、何か良い事あるんだろ?」

「別にありません」

「まあ、嬢ちゃんがその漏らした下着をもらってくれって言うなら考えなくもないが……」

「安心してください。そんなこと言いません」

「それとも何か?漏らしたところを舐めて綺麗にしてほしいってんなら……まあ、やらなくもないが……」

「やらなくていいです。って言うか、もしかしなくてもベルフルフさん変態ですね?」

「あ、もしかしてあれか?身体中を舐めまわして綺麗にしてほしいって……」

「ドレイク、やっちゃって」

「ほいきた」

 ベルフルフのセクハラ発言の連発に、静かに堪忍袋の緒が切れたフリルフレア。問答無用でドレイクをけしかける。ドレイクは嬉々として大剣を抜き放つと、ベルフルフに斬りかかった。ベルフルフも片手半剣を抜き放ち応戦している。

「そろそろくたばれよベルフルフ」

「その言葉、そっくり返すぜ赤蜥蜴」

 そのまま剣と剣をぶつけ合う二人。ギリギリと剣がぶつかり、その奥で互いの視線が火花を散らしてぶつかり合っていた。

「ねえー、やっぱり赤蜥蜴が人の名前覚えているような気がするんだけど……」

「あ、ホントだ」

「あいつに人の名前を覚えられる脳みそがあるのか?」

 スミーシャの疑問に、フリルフレアが同意し、ローゼリットは別の疑問を投げかけていた。


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